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番外編
『種族:悪役令嬢』になりました。1
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魔王城の戦いに組み込もうかと考えていたお話。ルモン味と被るので没になりました。
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気付いたとき、雪乃は豪華な部屋の中にいた。視線を下げればシンプルな薄緑色のドレスを着ている。
困惑していると、徐々に頭の中に記憶が甦ってきた。
侯爵家令嬢ユキノ。ムダイ王子の婚約者であり、今日から王立学園に入学する。
「えーっと?」
雪乃は取りあえず、鏡台の前へと移動した。映ったのは――
「樹人の令嬢……。斬新過ぎます」
ドレス姿の小さな樹人に、雪乃は何とも言いがたい複雑な気分を抱く。
そんなことを考えていると、扉を軽く叩く音が聞こえた。
「お嬢様、お時間です」
「はい」
雪乃は侍女に言われるままに邸から出て、馬車に乗り込む。
布張りの席に座り、ふと隣を見ると、そこには一枚のカードが置かれていた。幹を傾げてそれを手にした雪乃は、思わず息を飲む。
『風に煽られたところを王子に助けられる、ピンクの髪をしたヒロインを罵倒しましょう。ヒロインが校舎に入るまでにクリアできないと、仲間が一人消えます』
「なんと言うことでしょう」
雪乃は呆然として呟いた。
「ヒロイン、学園となると、乙女ゲームの世界ですかね? それにしても、罵倒ですか……」
窓の外を見上げながら、雪乃は考える。
「『ばーか』。……ストレートすぎますね。もう少し捻りましょう」
ふむうっと幹を捻りながら、かつていた世界で読んだ物語を思い出す。
「『おーっほっほっほ』。……罵倒ではありませんね」
再び雪乃は考える。
そもそもなぜ罵倒しなくてはいけないのか、その前提を雪乃は考えてみることにした。
「ヒロインは王子様に助けられるそうですね。そして王子様は私の婚約者。つまり」
と、雪乃は思考を整理して、答えを導き出す。
「『人助けをするとは、ご立派です! 王子様!』。これが正解ですね!」
きらりーんっと、雪乃は葉をきらめかせた。言うべき台詞は決まったと、満足そうに鼻歌まで歌いだした。
まったく罵倒になっていないことも、ヒロインへの言葉ではないことも、雪乃は気付いていない。
校門前に馬車が到着すると、雪乃は意気揚々と降り立つ。後はヒロインと王子が来るのを待つばかりだ。
生徒達を見回すと、全員人間の姿をしている。どうやら樹人は雪乃だけのようだ。
校舎へ向かって歩いていると、生徒達がざわめき出した。少女たちは頬を桃色に染め、浮き足立っている。
雪乃も足を止め、振り返る。
真っ赤な馬車が現れ、降りてきたのは……燃えるような長い赤髪、切れ長の緋色の目、真紅の礼服、朱色のマントをつけた、ムダイ王子だった。
「「「キャー!」」」
令嬢たちから黄色い歓声が沸き起こる。令息たちも、尊敬の眼差しをムダイ王子に向けた。
その中をムダイ王子はさっそうと歩いてくる。
雪乃はきょろきょろと辺りを見回した。ピンク色の髪をした令嬢が見当たらない。
ぽてんと幹を傾げたとき、突風が吹いた。
「わー」
雪乃は固まった。予想外の事態に、体がふるふると震えだす。
たしかに、ピンクだ。
髪と呼んで良いのかは分からないが、ピンクの葉を生やしたマンドラゴラが、突風に煽られムダイ王子の顔面めがけて飛んでいく。
そして、ムダイ王子の顔面にクリティカルヒットを――とは、残念ながらならなかった。
マンドラゴラの声にわずかに視線を向けたムダイ王子は、すぐに校舎へと視線を戻そうとしたのだが、思いっ切り首をぶんっと横に向けて、ピンクのマンドラゴラを目に映した。
それは見事な二度見だった。
だが残念なことに、そのことに賞賛の言葉を向ける人間はいない。
なぜならば、その場にいた全員が揃って見事な二度見の後、マンドラゴラを凝視していたからだ。
「え? えーっと? え? ええ?!」
ぶつかる前にマンドラゴラをつかんだムダイ王子だが、手の中のマンドラゴラを見つめたまま固まっている。動揺が、体にも声にも出ていた。
しかしさすがは王子。動揺しつつも社交辞令は忘れない。
「き、君も、この学園の生徒なのかな?」
地面に置いたマンドラゴラに、微笑んで問いかける。
「わー」
「そ、そうか。気を付けるんだよ?」
「わー」
ぺこりと頭を下げ、校舎に向かって駆けていく、ピンクのマンドラゴラ。
全員が呆然として見送る。
「はっ! いけません。罵倒しなければ!」
正気を取り戻した雪乃は、足元を通りすぎていくマンドラゴラに、慌てて声をかける。
「ま、マンドラゴラさん! ……で、名前は良いのでしょうか?」
幹を傾げながら呼び止めてみたのだが、合っていたようで、マンドラゴラは足を止めて振り返った。
「わ?」
何? とでも言いたげに、根を傾げている。
「ま、マンドラゴラさん、風に飛ばされては危険です! 誰かにぶつかったらどうするのですか?」
「わー……」
マンドラゴラはピンクの葉を萎らせて、項垂れた。
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気付いたとき、雪乃は豪華な部屋の中にいた。視線を下げればシンプルな薄緑色のドレスを着ている。
困惑していると、徐々に頭の中に記憶が甦ってきた。
侯爵家令嬢ユキノ。ムダイ王子の婚約者であり、今日から王立学園に入学する。
「えーっと?」
雪乃は取りあえず、鏡台の前へと移動した。映ったのは――
「樹人の令嬢……。斬新過ぎます」
ドレス姿の小さな樹人に、雪乃は何とも言いがたい複雑な気分を抱く。
そんなことを考えていると、扉を軽く叩く音が聞こえた。
「お嬢様、お時間です」
「はい」
雪乃は侍女に言われるままに邸から出て、馬車に乗り込む。
布張りの席に座り、ふと隣を見ると、そこには一枚のカードが置かれていた。幹を傾げてそれを手にした雪乃は、思わず息を飲む。
『風に煽られたところを王子に助けられる、ピンクの髪をしたヒロインを罵倒しましょう。ヒロインが校舎に入るまでにクリアできないと、仲間が一人消えます』
「なんと言うことでしょう」
雪乃は呆然として呟いた。
「ヒロイン、学園となると、乙女ゲームの世界ですかね? それにしても、罵倒ですか……」
窓の外を見上げながら、雪乃は考える。
「『ばーか』。……ストレートすぎますね。もう少し捻りましょう」
ふむうっと幹を捻りながら、かつていた世界で読んだ物語を思い出す。
「『おーっほっほっほ』。……罵倒ではありませんね」
再び雪乃は考える。
そもそもなぜ罵倒しなくてはいけないのか、その前提を雪乃は考えてみることにした。
「ヒロインは王子様に助けられるそうですね。そして王子様は私の婚約者。つまり」
と、雪乃は思考を整理して、答えを導き出す。
「『人助けをするとは、ご立派です! 王子様!』。これが正解ですね!」
きらりーんっと、雪乃は葉をきらめかせた。言うべき台詞は決まったと、満足そうに鼻歌まで歌いだした。
まったく罵倒になっていないことも、ヒロインへの言葉ではないことも、雪乃は気付いていない。
校門前に馬車が到着すると、雪乃は意気揚々と降り立つ。後はヒロインと王子が来るのを待つばかりだ。
生徒達を見回すと、全員人間の姿をしている。どうやら樹人は雪乃だけのようだ。
校舎へ向かって歩いていると、生徒達がざわめき出した。少女たちは頬を桃色に染め、浮き足立っている。
雪乃も足を止め、振り返る。
真っ赤な馬車が現れ、降りてきたのは……燃えるような長い赤髪、切れ長の緋色の目、真紅の礼服、朱色のマントをつけた、ムダイ王子だった。
「「「キャー!」」」
令嬢たちから黄色い歓声が沸き起こる。令息たちも、尊敬の眼差しをムダイ王子に向けた。
その中をムダイ王子はさっそうと歩いてくる。
雪乃はきょろきょろと辺りを見回した。ピンク色の髪をした令嬢が見当たらない。
ぽてんと幹を傾げたとき、突風が吹いた。
「わー」
雪乃は固まった。予想外の事態に、体がふるふると震えだす。
たしかに、ピンクだ。
髪と呼んで良いのかは分からないが、ピンクの葉を生やしたマンドラゴラが、突風に煽られムダイ王子の顔面めがけて飛んでいく。
そして、ムダイ王子の顔面にクリティカルヒットを――とは、残念ながらならなかった。
マンドラゴラの声にわずかに視線を向けたムダイ王子は、すぐに校舎へと視線を戻そうとしたのだが、思いっ切り首をぶんっと横に向けて、ピンクのマンドラゴラを目に映した。
それは見事な二度見だった。
だが残念なことに、そのことに賞賛の言葉を向ける人間はいない。
なぜならば、その場にいた全員が揃って見事な二度見の後、マンドラゴラを凝視していたからだ。
「え? えーっと? え? ええ?!」
ぶつかる前にマンドラゴラをつかんだムダイ王子だが、手の中のマンドラゴラを見つめたまま固まっている。動揺が、体にも声にも出ていた。
しかしさすがは王子。動揺しつつも社交辞令は忘れない。
「き、君も、この学園の生徒なのかな?」
地面に置いたマンドラゴラに、微笑んで問いかける。
「わー」
「そ、そうか。気を付けるんだよ?」
「わー」
ぺこりと頭を下げ、校舎に向かって駆けていく、ピンクのマンドラゴラ。
全員が呆然として見送る。
「はっ! いけません。罵倒しなければ!」
正気を取り戻した雪乃は、足元を通りすぎていくマンドラゴラに、慌てて声をかける。
「ま、マンドラゴラさん! ……で、名前は良いのでしょうか?」
幹を傾げながら呼び止めてみたのだが、合っていたようで、マンドラゴラは足を止めて振り返った。
「わ?」
何? とでも言いたげに、根を傾げている。
「ま、マンドラゴラさん、風に飛ばされては危険です! 誰かにぶつかったらどうするのですか?」
「わー……」
マンドラゴラはピンクの葉を萎らせて、項垂れた。
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