『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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番外編

ノムルのトラウマ

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読んだ気がしたらすみません。没原稿が多くて、どれを使ったか分からない……。



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「なんだ? ノムル。お前ポポテプを食べたことないのか?」

 あれは俺を王にしようとする魔法使いたちから逃げ出して、あの人と一緒に旅をしていた時だ。

「ポポテプってのはな、この世界で一番美味い食べ物なんだぞ? そうだ。折角だから寄り道して、狩りに行くか」

 そう言って、あの人は笑った。感情を失い作り笑いを浮かべることさえできなくなっていた俺に、満面の笑顔で頭を撫でてくれた。
 ポポテプがいるという草原に入るあの人の後を、俺はいつもと同じように付いていく。

「頭は――」

 道すがら、ポポテプがどれほど美味いのか、語って聞かせてくれた。でも俺には味覚なんてなくて、食べられればなんでも良かった。
 それでも嬉しそうに語るあの人の顔を見ていたくて、たくさん狩ったら喜んでくれるかな? って、懐のナイフに自然と手が向かった。

 かさりと、茂みが音を立てる。条件反射で視線を動かしたが、現れた生物を見た途端、次に取るべき行動が脳から消え去り立ち尽くした。
 三十センチ近くある巨大なイナゴのような生物だが、その姿は何を目的に進化したらそうなるのか、全く予想が付かなかった。
 無数のピンポン玉くらいの目玉が束ねられている頭。どうやって体を支えているのか疑問しかないほど細い、無数にある足。長い触手がワサワサと伸びる尾。

「お、さっそく見つけたのか? さすがだな」

 首が取れそうなほど乱暴に頭を撫でられて、ソレが目当てのポポテプだと理解したが、同時に愕然とした。
 改めて観察するが、どう見ても美味そうには見えない。奴隷として暮らしていた俺は、食べられる物ならば何でも食べてきたが、さすがにたじろいだ。
 俺が戸惑っている間に、あの人は駆け出していた。

「よし、一匹確保! もう一匹……」

 次々と茂みから出てくるポポテプの群集は、もはや緑色をした高波のようだった。
 なんとか全て討伐して肩で息をする。大漁だと喜んでいるあの人を見る俺の目は、死んだ魚のようだったと思う。

「ほら、食ってみろ。食えば気分も変わるから」

 串刺しにして焼いただけの気味の悪い物体を口元に押し付けられた。首を横に振って後退るけれど、あの人は笑顔で詰め寄ってくる。
 悪気はないのだ。俺に美味いものを食べさせてやろうという好意なのだと分かっている。でもその見た目のひどさから、俺は食べる勇気が持てなかった。
 別に昆虫だからって食べられないわけじゃない。奴隷の時は何でも食べなければ生きていけなかったから。
 それでもこのポポテプという生物の外見のひどさは群を抜いていた。

「大丈夫だから」

 逃げる俺の顎を掴むと、無理矢理に口を開けさせてポポテプを突っ込む。味なんて何もしない。味覚が壊れている俺には、どんなものも紙のような味しかしない。
 大量にある目玉と目が合って、俺は意識を手放した。

「やっぱ見た目が問題か」

 何かに納得した様子のあの人は、ポポテプで団子を作ったり、クッキーを模ったり、肉のような造形に変えてみたりし始めた。

「ノムル、これはどうだ?」

 自信満々に差し出されたのは、ポポテプのみで作られたはずなのに、どう見ても苺のショートケーキだった。

「なあ、何か間違ってないか?」

 思わずあの人をじとりと見て言った。その直後、あの人の笑顔が強張って消えた。
 気を悪くさせてしまったのだと気付いて顔を逃がした。久しぶりに拳骨が落ちるのかと身構えたけど、様子がおかしい。
 そろりと顔を上げると、あの人の目から涙がとめどなく流れ落ちていた。

「ノムル、お前、喋ったな? 喋れるようになったんだな?!」

 謎のショートケーキを放り出して、あの人は俺を抱きしめた。あまりに強い腕の力に息が止まりそうになったけれど、慟哭するように鳴き続ける姿に、離してくれとは言えなかった。

「良かった。良かったな、ノムル」

 その日は日が落ちるまで、あの人は俺を抱きしめたまま、泣き続けた。



「ノムルさん、何かいい夢でも見たのですか?」
「なんで?」
「ふふ。とても嬉しそうな顔をして寝ていました」
「ええー?」

 葉をきらめかせて、さわりと揺らす小さな樹人の子供。

「そーだねー」

 俺はへらりと笑う。
 あの人の言っていた通りだった。

 ――いつかきっと、そのままのお前を受け入れてくれるやつが現れる。だから絶対に諦めるな。石に噛みついてでも、生き残るんだぞ?

 あの時は、有り得ないと思っていた。あの人以上に俺を受け入れてくれる人なんて、現れないと思っていた。

「まあ、人間じゃなかったけど」

 緑の葉に覆われた頭。茶色く細い木の体。

「ねー、ユキノちゃん」
「なんですか?」
「おとーさんのこと、好きー?」

 ぴたりと彼女は根を止める。それからゆっくりと俺を見上げて見つめた。人間のような顔はないのに、困ったように戸惑っているのが手に取るように分かる。

「変態は、お断りです」
「えー? 酷いなー」

 くすくすと笑って、俺は彼女を抱き上げた。

「ふんにゅーっ! お髭には負けません!」

 必死になって小枝の手で俺の顔を押して離そうとしているけれど、俺には手で頬を撫でられているようにしか感じないって気付いているだろうか?

「セクハラは、禁止です!」
「えー?」

 怒っているのは分かるけど、だからって俺を捨てたりはしないんだよね。
 でも、どこまで受け入れてくれるのか、どこまで許してくれるのか。知りたくて、確かめたくて、嫉妬して――。
 俺の世界はあの人だけだった。だから彼女の世界も俺だけでいてほしかった。でもそうじゃないって気付いて、勝手に絶望して、逃げ込んで、そして――。

「ごめんね、ユキノちゃん」
「どうしたのですか? 今度は何を仕出かしたのですか?」
「ありがとう、ユキノちゃん」
「ふみゃっ?! 突然なんですか? え? 何か変なものでも食べましたか?」

 動揺する彼女が可愛くて、気が動顛している間に頬をすり寄せる。

「うん? お髭、お髭がああーっ! ふんにゅーっ!」

 髭を剃れば抵抗されないのだろうかと思うときもあるけど、そうなってしまったら甘え過ぎてしまいそうだから、彼女と出会ってからは髭を残したままだ。

「セクハラは禁止でーす! ふんにゅーっ!」




----------------------------------------------------------------------------

「ノムルさん、ノムルさん!」
「どうしたの? ユキノちゃん?」
「今日は何の日か憶えていますか?」
「もちろんだよ! さっき買って来たもんね!」
「……ノムルさんが早起きとは、今日の天気は大丈夫でしょうか?」

 というわけで、「 『種族:樹人』を選んでみたら」発売です。
 詳しくは近況ボードで。
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感想 933

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みんなの感想(933件)

由貴
2021.06.14 由貴

はじめまして。
最近気になりまだ途中ですが、読ませて頂いてます。

ちょっと気になることがあったので書かせていただきました。
書籍版とその後のお話に矛盾が無いですか?

・パーパスの冒険者ギルドの破壊は、コルク栓が当たったから無くなったと思っていたのですが、ギルドマスターの態度で破壊されています。
・冒険者ギルドの破壊のあとに領主が出て来ましたが、領主って魔植物とのアレコレで精神が。みたいな感じだったはずなのに、領主が兵士を派遣してます。
・悪徳領主がギルドマスター(弟)を切ろうとしてたはずなのに、領主が悪徳ギルドマスター(弟)を切ろうとしてます。
・カイと1番初めに会ったとき、犬と狼を間違うな!的なやり取りがあるのに約1年経たないぐらいで忘れて同じやり取りをしてます。
また、自分の国のことも説明していたとも思うのですがこれも忘れているのでしょうか?
・書籍最後で、国から出国したはずなのに、あらすじのあとのお話では、まだ国に居て出国のときのお話になってます。

疑問ばかりですみません。

2021.06.14 しろ卯

感想ありがとうございます。
元々ウェブ上で書いていた物を、書籍化で改稿しています。
一巻だけで内容を理解できるように、後に続く伏線などは省いていますので、ご指摘部分以外にも幾つかの矛盾点があると思います。
(ノムルの正体は後半で明かされる、マンドラゴラが別行動しているなど)

読者さんの混乱を避けるためには、書籍版とウェブ版は別けて掲載したほうがよいのかもしれませんが、アルファポリスさんの仕様ですので、読みづらいとは思いますがご了承ください。

また申し訳ありませんが、未書籍化部分の改稿につきましては、現在のところ予定しておりません。
理由としましては、ほぼ全面的な改稿となるため、数年がかりの作業となってしまうからです。
ご迷惑をお掛けしますが、ご理解いただきたくお願いいたします。

他にも困惑されている方もおられるかもしれませんので、あらすじのほうは近日中に書き直させていただこうと思います。
ご指摘ありがとうございました。

解除
らあご
2021.05.16 らあご

書籍版買いましたΨ( 'ω'* )
あれ?1って書いてない
続きは売れ行き次第ですか?
世知辛いです
解答編まで出ることをお祈りして応援します٩(ˊᗜˋ*)و

2021.05.16 しろ卯

書籍の購入ありがとうございます。
仰る通り、二巻以降は未定です。
ありがとうございます。

解除
ヒィラリー
2021.05.12 ヒィラリー

だいぶ時間が経ったのですが、書籍化おめでとうございます!久しぶりにお気に入り欄を見たら書籍化されていたのでびっくりしました。個人的に一番書籍化されてほしいと思ってた作品なので、嬉しかったです。これからもがんばって下さい。

2021.05.12 しろ卯

ありがとうございます。
完結から一年以上経過していますからね。
嬉しいお言葉をありがとうございます。

解除

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