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31.無理強いしちょるんか?
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「無理強いしちょるんか?」
オナガは不機嫌さを隠そうともせずレイランに問い質す。
「私が止めておりますけれど」
と、レイランの視線がセッカに向かう。
釣られるようにオナガもセッカを見る。不安と心配がない交ぜとなって、まるで迷子の子供のようにしょんぼりとしてセッカを見つめてしまう。
「私はお断りしているのだけれど、お父様とお母様はお喜びみたいで」
なにせ相手は王族だ。喜ばぬ華族などいないだろう。
オナガの拳がきつく握られる。どれほど愛していようと、心が通じ合っていようと、彼は所詮平民でしかないのだ。
華族と王族に楯突くことはできない。悔しげに唇を噛み、床を睨み付ける。
「というわけで、オナガ。駆け落ちをするのですわ!」
拳を握りしめて、熱く詰め寄るレイラン。
思考が凍り付き一瞬動きが止まったカイツが、慌てて止めに入る。
「待って! レイラン様、飛躍しすぎだから!」
「分かった。セッカを連れて逃ぐっど」
「待て、オナガ。お前も冷静になれ。どこに逃げるっていうんだよ?」
蕊山の中に隠れたところで、王族から逃げきれるとは思えない。平民の暮らす華弁に連れていけば、やはり目立ってすぐに見つかってしまうだろう。
「抜かりはないわ! 私の研究が役に立つ日よ!」
取り出されたのは一本の小瓶。一同の視線は当然、小瓶に入った黒いように見えなくもない、緑っぽいような紫っぽいような、複雑な色合いの液体に吸い寄せられる。
何と言い表せばよいのか分からず、激昂していたオナガの表情までも真顔になっていた。
「あー。冥海ん水じゃろうか?」
「毒っ?」
オナガの出した結論に、セッカとカイツが目を剥く。
冥海は垠萼の更に外にある、水で覆われた地である。その水を浴びると体が動かなくなり、死に至ると言われている。
「どこがですの? これは私が文献を調べて作りだした染料ですわ。これを髪に塗ると、色が変わるのです。本当は蕊山を下りたときに使おうと思っていたのですけれど、セッカに差し上げますわ」
「ありがとうございます?」
礼を述べはしたが、セッカの表情は複雑だ。レイランの心遣いは嬉しいし、役に立つものなのだろうとも理解できる。しかし、あまりに得体のしれない色合いをしていた。
セッカの表情は引き攣っている。
「とりあえず駆け落ちから離れて、現実的な対処法を探そう」
疲れた顔のカイツに同意してくれたのは、セッカだけだった。
オナガとレイランは駆け落ちの何が問題なのか理解していないのだろう。頭上に疑問符が浮いて見える。
「チュウヒと代わりたい」
本音がカイツの口から這い出てくるが、弱音を吐いている間にオナガとセッカが本当に駆け落ちしかねない。
そんなことになればホウセン国は大騒ぎだ。二人だけの問題で終わるはずがない。
「まずは幾つか確認をさせてもらうけど、セッカさんは王族からの誘いには反対なんだよね?」
オナガにぎろりと睨まれたが、カイツは怯まない。
「身分を考えればありがたいお話だと思うのですけれど、私が心を寄せているのはオナガです。それに、あの御方は強引過ぎて怖いと申しますか、雰囲気が苦手と申しますか、笑い方が悪巧みをしているようで気が休まらないと申しますか」
頬を手に当てて小首を傾げ、困ったように相手のことを述べるセッカ。
「うん、ぶっちゃけ嫌いなんだね」
遠回しではあるが、本人が聞いていたら胸に言葉の刃が突き刺さってそうだなあと、カイツは密かに同情する。
「そのようなことは。もっとオナガのように優しくて、オナガのように気が利いて、オナガのように表裏のない方であれば、そこまででは」
「惚気られた? というかそれ、オナガに似ていれば嫌じゃないってだけで、結局好きにはならないんだよね?」
「私の心はオナガのもですから」
どんな男だろうと、オナガ以外にはセッカの心は奪えないようだ。
「セッカ。俺ん心もセッカのもんじゃ」
「オナガ」
「セッカ」
見つめ合う二人。
「後にしてくれ」
「構わなくてよ?」
止めようとするカイツを、レイランが制す。目を輝かせて恋人同士の睦み合いを観察するレイランを、思わずカイツは苦い顔で眺めてしまう。
オナガは不機嫌さを隠そうともせずレイランに問い質す。
「私が止めておりますけれど」
と、レイランの視線がセッカに向かう。
釣られるようにオナガもセッカを見る。不安と心配がない交ぜとなって、まるで迷子の子供のようにしょんぼりとしてセッカを見つめてしまう。
「私はお断りしているのだけれど、お父様とお母様はお喜びみたいで」
なにせ相手は王族だ。喜ばぬ華族などいないだろう。
オナガの拳がきつく握られる。どれほど愛していようと、心が通じ合っていようと、彼は所詮平民でしかないのだ。
華族と王族に楯突くことはできない。悔しげに唇を噛み、床を睨み付ける。
「というわけで、オナガ。駆け落ちをするのですわ!」
拳を握りしめて、熱く詰め寄るレイラン。
思考が凍り付き一瞬動きが止まったカイツが、慌てて止めに入る。
「待って! レイラン様、飛躍しすぎだから!」
「分かった。セッカを連れて逃ぐっど」
「待て、オナガ。お前も冷静になれ。どこに逃げるっていうんだよ?」
蕊山の中に隠れたところで、王族から逃げきれるとは思えない。平民の暮らす華弁に連れていけば、やはり目立ってすぐに見つかってしまうだろう。
「抜かりはないわ! 私の研究が役に立つ日よ!」
取り出されたのは一本の小瓶。一同の視線は当然、小瓶に入った黒いように見えなくもない、緑っぽいような紫っぽいような、複雑な色合いの液体に吸い寄せられる。
何と言い表せばよいのか分からず、激昂していたオナガの表情までも真顔になっていた。
「あー。冥海ん水じゃろうか?」
「毒っ?」
オナガの出した結論に、セッカとカイツが目を剥く。
冥海は垠萼の更に外にある、水で覆われた地である。その水を浴びると体が動かなくなり、死に至ると言われている。
「どこがですの? これは私が文献を調べて作りだした染料ですわ。これを髪に塗ると、色が変わるのです。本当は蕊山を下りたときに使おうと思っていたのですけれど、セッカに差し上げますわ」
「ありがとうございます?」
礼を述べはしたが、セッカの表情は複雑だ。レイランの心遣いは嬉しいし、役に立つものなのだろうとも理解できる。しかし、あまりに得体のしれない色合いをしていた。
セッカの表情は引き攣っている。
「とりあえず駆け落ちから離れて、現実的な対処法を探そう」
疲れた顔のカイツに同意してくれたのは、セッカだけだった。
オナガとレイランは駆け落ちの何が問題なのか理解していないのだろう。頭上に疑問符が浮いて見える。
「チュウヒと代わりたい」
本音がカイツの口から這い出てくるが、弱音を吐いている間にオナガとセッカが本当に駆け落ちしかねない。
そんなことになればホウセン国は大騒ぎだ。二人だけの問題で終わるはずがない。
「まずは幾つか確認をさせてもらうけど、セッカさんは王族からの誘いには反対なんだよね?」
オナガにぎろりと睨まれたが、カイツは怯まない。
「身分を考えればありがたいお話だと思うのですけれど、私が心を寄せているのはオナガです。それに、あの御方は強引過ぎて怖いと申しますか、雰囲気が苦手と申しますか、笑い方が悪巧みをしているようで気が休まらないと申しますか」
頬を手に当てて小首を傾げ、困ったように相手のことを述べるセッカ。
「うん、ぶっちゃけ嫌いなんだね」
遠回しではあるが、本人が聞いていたら胸に言葉の刃が突き刺さってそうだなあと、カイツは密かに同情する。
「そのようなことは。もっとオナガのように優しくて、オナガのように気が利いて、オナガのように表裏のない方であれば、そこまででは」
「惚気られた? というかそれ、オナガに似ていれば嫌じゃないってだけで、結局好きにはならないんだよね?」
「私の心はオナガのもですから」
どんな男だろうと、オナガ以外にはセッカの心は奪えないようだ。
「セッカ。俺ん心もセッカのもんじゃ」
「オナガ」
「セッカ」
見つめ合う二人。
「後にしてくれ」
「構わなくてよ?」
止めようとするカイツを、レイランが制す。目を輝かせて恋人同士の睦み合いを観察するレイランを、思わずカイツは苦い顔で眺めてしまう。
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