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15.気にしなくていいよ

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「気にしなくていいよ」

 男の話がようやく終わると、ノムルは優しい声音ながら素っ気なく返す。けれど根が真面目なのか、男は引かなかった。

「そういうわけにはいかない」
「別に大したものじゃないからさ。気にしないでー」
「そんなはずはないだろう? 俺の腹の傷は――」

 なおも引かない男に、いっそぶん殴って黙らせたほうが早そうだと、ノムルは思う。だが足下であわあわしている幼女が視界の端に映ってしまったため、必死に道化の笑みを貼り付けて耐えた。
 見ず知らずの怪我人を助けようと奮闘する幼女だ。暴力で解決すれば、いい印象は得られないだろう。

 どうやって収めたものかとノムルが苛立っていると、更に別の人間が輪に加わってきた。

「あれ? さっきの迷子? お父さんは見つかったの?」

 若い冒険者の青年二人組が、幼女に声を掛けてきたのだ。
 笑顔の下で、ノムルの額に青筋が浮かぶ。幼女の動きからも、すんっと感情が抜け落ちた。彼女のほうが先に、この騒動に限界が来たらしい。

「お日様の光が美味しいです」

 投げやりになった幼女から、奇妙な独り言が零れた。

「あー、もう! 面倒くさいなー」

 そしてノムルもまた、限界が来た。
 ぼさぼさの髪に手を突っ込んで掻く彼から、ぴりぴりとした威圧感のある魔力があふれる。無意識に雷をまとっていたため、近くにいた者は本当にぴりぴりしたかもしれない。
 戦いの場に身を置くことに慣れている冒険者や兵士たちは、殺気に似た気配を敏感に読み取り、瞬時に飛び退いて身構えた。
 ノムルの実力は、この場にいる全員が先ほど目にしている。大勢の攻撃を、たった一人で防いでみせたのだ。もしも怒りに任せて暴れ出したら、魔線虫に乗っ取られた人間以上に厄介だろうことは想像が付く。
 誰かがごくりと咽を震わせる音が、緊張の糸を震わせた。

「請求したって、どうせ払えないだろ? 端金を渡されて満足されても迷惑なんだよ」

 苛立ちを隠さなくなったノムルは、蔑みをふんだんに含んだ声を投げつける。

「なっ!? 端金だと!? たしかに全額は無理かもしれないけど……っ!?」

 怒りと恥ずかしさから、顔を赤くして反論しようとした男の耳元で、ノムルは幼女が用いていた薬に付けられるだろう値段を囁く。

 治癒魔法に匹敵する回復薬の価値は、天井知らずだ。
 いくら治癒魔法のほうが優れていると言っても、大怪我を負った際に治癒魔法使いがいなければ、治療はできない。それに比べて薬なら、常に持ち歩けて、誰でも使える。
 怪我をいつ負うかなんて誰にも分からない以上、金のある人間なら、幾ら払っても手元に置いておきたいと思うのは当然だろう。

 ノムルから価値を聞いた男の顔が、赤から青へと色を変えた。
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