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21.しば、る?

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「しば、る?」

 幼女は困惑を含んだ掠れ声で問う。

「ああ。条件次第では、君の奴隷になってもいい」
「ど、どれい?」

 隷属魔法は国際的に禁じられている。とはいえ、見つからなければ誰も裁けない。それにノムルが自分の意思で自分自身にかけるのだ。幾らでも抜け穴は作れるだろう。

「えっと、あなたはそういう趣味がおありなのですか?」
「趣味?」

 問われたノムルは首を傾げた。
 奴隷になりたいのか? という意味ならば、当然だがそんな趣味はない。だがドインを救えるのなら、幼女の我が儘を叶えるくらいしてもいいと思っただけだ。

 Aランク冒険者の魔法使いなど、どんな使い道でもできる。護衛にするなり、欲しいものを手に入れさせるなり、何なり。
 そんな人間から契約魔法で縛ってもよいと提案されれば、誰でも飛びついてくるだろう。それなのに、幼女は喜ぶどころか警戒を強めてしまった。
 訝しく思うノムルの聴覚を伝い、耳を疑う台詞が流れ込んでくる。

「縛られて、蝋燭を持った女の人に鞭で打たれて、喜びを感じる大人の人がいると聞きました。幼女の奴隷になって、罵られて喜ぶ大人の人もいるそうですね。他人様の趣味をどうこう言うつもりはありませんが、私には難易度が高すぎます。どうか、一人で縛られていてください」

 ノムルが辿ってきた半生は、常人とは比べ物にならないほど波乱万丈に満ちている。だから大抵の事には適応できるし、予想の範囲だ。
 そんなノムルであるにもかかわらず、幼女が放った言葉の内容が理解できなかった。
 いや、言葉自体は分かる。彼女が言うような存在がいることも知っている。実際に目にしたこともあった。
 けれど、なぜ自分がそんな変態と間違われているのかが、理解できない。ここまでの会話を思い返しても、そんな発言はしていないはずである。

「……何の話?」

 すんっと表情が抜け落ちたノムルから、ぽつりと疑問が零れ落ちた。



「契約魔法って言うのはね?」
「ほうほう」

 奇妙な勘違いをされていることに気付いたノムルは、話を進める前に誤解を解いていく。
 これにも時間が掛かるかと面倒くさく思った彼だが、きちんと説明すればすぐに誤解は解けて、ほっと胸を撫で下ろすのだった。

「そういえば、自己紹介がまだだったね? 俺はノムルだよ。見ての通り魔法使いだねー」

 落ち着いたところで、ノムルは今更ながら名乗りを挙げた。それに反応して、幼女は慌てて姿勢を正す。

「ユキノです。しょうが――は、いいですね。えっと、うーんっと、薬草を使えます」

 幼女はぎこちない自己紹介をしてから、丁寧にぺこりとお辞儀した。
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