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36.しばらく眺めていたノムルだったが

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 しばらく眺めていたノムルだったが、外から聞こえてくる喧騒を耳にして、窓の外を見た。もうすぐ日が暮れる。そろそろ夕食の時間だ。

「ご飯を食べに行こうか? 食べたいものとかある?」
「私は別に何でも――」

 考え込んでいたユキノが顔を上げてそこまで言ったところで、声が途切れた。

「ええーっと、特にお腹は空いていませんので、ノムルさんお一人でどうぞ?」
「そう? なら遠慮なく」

 違和感を覚えはしても、ノムルは追及しない。深入りするほどでもないことで、ユキノの機嫌を損ねるのは得策ではないから。
 ノムルは収納魔法から肉とパン、それにスープとサラダを取り出して机に並べた。
 この宿屋は素泊まり専門なので、食事は運ばれてこない。料理屋に出向くか、買ってきて食べる。だからといってユキノを一人残して出かけるほど、彼は不用心ではなかった。
 そんなわけで在庫から取り出して食べ始めたのだが、ユキノが不思議そうに見つめる。

「先ほどから気になっていたのですが、それはどこから出てきたのでしょうか?」
「これ? 空間魔法を応用した収納魔法で仕舞っていたんだよ。時間の経過も止まるし、便利だからねー」
「魔法とは凄いですね」
「まあね。でもユキノちゃんも収納魔法が付与された魔法道具を持っているんじゃないの?」
「え?」

 なぜかユキノはきょとんとノムルを見た。

「薬草を保存しているのって、収納魔法が施された袋か何かだよね?」

 ユキノは荷物を持たない。それなのに次々と薬草を取り出している。しかも採りたてのように新鮮な状態で。
 それが可能なのは、収納魔法を使っているか、付与されている魔法道具を持っているかだ。

「ソウデシタネ。でも薬草以外は収納デキマセンヨ?」

 片言になっていることからも、隠し事をしているのは明らかである。けれどノムルは、素っ気なく「ふうん」と返すだけで話題を逸らした。

「ヘカの種も持ってたよね? 他にどんな薬や薬草を持ってるのか、聞いてもいいかな? 旅の間に、必要になるかもしれないからね」

 膨大な魔力で護られているノムルには不要なものだ。
 しかしユキノの性格だと、道中で困っている人間を見つければ、考えなしに使いかねない。いきなり有り得ない効能の薬を使われて後手に回るよりも、事前に知って対策をしておいたほうがよいだろう。
 そして何より、彼女の一族が持つ知識を、一部でも把握しておきたかった。

「そうですね」

 と、ユキノは袖を顎辺りに添えて考える。

「色々ありますけれど、どのようなお薬が必要ですか?」

 もっともな質問ではあるが、ノムルは薬を必要としているのではなく、なにを持っているのか知りたいだけだ。
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