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37.えーっと、俺に話していいものは
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「えーっと、俺に話していいものは、全部?」
スープで肉を飲み込んでからノムルが言えば、ユキノは再び考え込んでしまう。
「そう言われましても、たくさんありますから」
「わー」
ふむうっと唸っていたユキノのフードから、彼女とは違う声が聞こえた。その声に弾かれるように、ユキノがはっと顔を上げる。
「そうです! これから一緒に旅をするのなら、まずは紹介しておかなければなりません! ノムルさん、どうか私の友達を傷付けないと、約束してくれませんか?」
ユキノの声には真剣な色が見て取れた。
友達と言うが、ユキノのローブには、人を隠せるゆとりはない。小さな動物か何かを連れているのだろうと思ったノムルだが、ふと過去に読んだ文献の記述を思い出す。
――たしか森人は、人間と違い魔物を使役することもあるという。
ユキノが所持していた薬草は、人間の常識では考えられないほどの、異常な効能を発揮していた。眉唾物の伝承も、有りうると考えて対応したほうがいいだろう。
もしユキノが連れているのが魔物だとしたら、口約束だけでは彼女の不安を払しょくできないかもしれない。
だからノムルは自ら提案する。
「いーよー。契約に追加しようか?」
「よろしいのですか?」
「簡単だからね。これからユキノちゃんが紹介する友達? に、手を出さなければいいんだね?」
「お願いします!」
テーブルに立てかけていた杖を持ち上げると、ノムルは新たな契約を紡いだ。すでに手首に刻まれていた契約に、新たな契約が融け込んでいく。
「これで大丈夫だよー」
「ありがとうございます。では、マンドラゴラたち、出てきてもいいですよ?」
ほっと胸を撫で下ろしたユキノが声を掛けると、幼い少年に似た、可愛らしくも騒がしい声があふれる。
「わー」
「わー」
「わー!」
「は?」
ノムルは目の前で展開された光景に、彼らしくもない呆けた声を洩らした。
ユキノのローブに隠れていたのは、魔物ではなかった。丸みを帯びた葉を茂らせる、赤茶色をした二股の根菜。十五センチほどの彼らの名前は、マンドラゴラ。
植物であるのに土から引き抜けば悲鳴を上げ、油断すれば二股の根を足のように使って逃走するという、不思議植物だ。
魔力回復薬の原料として使われるため、魔法使いにとっては、知らぬ者はいないほど有名な薬草でもある。
古くから栽培が試みられているけれど、環境が気に入らないと土から出て逃げてしまうため、未だ成功例がない。柵で囲っても、どうやってかいなくなってしまう。
そんなマンドラゴラは希少価値が高く、滅多にお目に掛かれない幻の薬草として高額で取引される。
そんなことを頭の中で諳んじてしまうほど、ノムルは動揺していた。
スープで肉を飲み込んでからノムルが言えば、ユキノは再び考え込んでしまう。
「そう言われましても、たくさんありますから」
「わー」
ふむうっと唸っていたユキノのフードから、彼女とは違う声が聞こえた。その声に弾かれるように、ユキノがはっと顔を上げる。
「そうです! これから一緒に旅をするのなら、まずは紹介しておかなければなりません! ノムルさん、どうか私の友達を傷付けないと、約束してくれませんか?」
ユキノの声には真剣な色が見て取れた。
友達と言うが、ユキノのローブには、人を隠せるゆとりはない。小さな動物か何かを連れているのだろうと思ったノムルだが、ふと過去に読んだ文献の記述を思い出す。
――たしか森人は、人間と違い魔物を使役することもあるという。
ユキノが所持していた薬草は、人間の常識では考えられないほどの、異常な効能を発揮していた。眉唾物の伝承も、有りうると考えて対応したほうがいいだろう。
もしユキノが連れているのが魔物だとしたら、口約束だけでは彼女の不安を払しょくできないかもしれない。
だからノムルは自ら提案する。
「いーよー。契約に追加しようか?」
「よろしいのですか?」
「簡単だからね。これからユキノちゃんが紹介する友達? に、手を出さなければいいんだね?」
「お願いします!」
テーブルに立てかけていた杖を持ち上げると、ノムルは新たな契約を紡いだ。すでに手首に刻まれていた契約に、新たな契約が融け込んでいく。
「これで大丈夫だよー」
「ありがとうございます。では、マンドラゴラたち、出てきてもいいですよ?」
ほっと胸を撫で下ろしたユキノが声を掛けると、幼い少年に似た、可愛らしくも騒がしい声があふれる。
「わー」
「わー」
「わー!」
「は?」
ノムルは目の前で展開された光景に、彼らしくもない呆けた声を洩らした。
ユキノのローブに隠れていたのは、魔物ではなかった。丸みを帯びた葉を茂らせる、赤茶色をした二股の根菜。十五センチほどの彼らの名前は、マンドラゴラ。
植物であるのに土から引き抜けば悲鳴を上げ、油断すれば二股の根を足のように使って逃走するという、不思議植物だ。
魔力回復薬の原料として使われるため、魔法使いにとっては、知らぬ者はいないほど有名な薬草でもある。
古くから栽培が試みられているけれど、環境が気に入らないと土から出て逃げてしまうため、未だ成功例がない。柵で囲っても、どうやってかいなくなってしまう。
そんなマンドラゴラは希少価値が高く、滅多にお目に掛かれない幻の薬草として高額で取引される。
そんなことを頭の中で諳んじてしまうほど、ノムルは動揺していた。
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