上 下
37 / 110

37.えーっと、俺に話していいものは

しおりを挟む
「えーっと、俺に話していいものは、全部?」

 スープで肉を飲み込んでからノムルが言えば、ユキノは再び考え込んでしまう。

「そう言われましても、たくさんありますから」
「わー」

 ふむうっと唸っていたユキノのフードから、彼女とは違う声が聞こえた。その声に弾かれるように、ユキノがはっと顔を上げる。

「そうです! これから一緒に旅をするのなら、まずは紹介しておかなければなりません! ノムルさん、どうか私の友達を傷付けないと、約束してくれませんか?」

 ユキノの声には真剣な色が見て取れた。

 友達と言うが、ユキノのローブには、人を隠せるゆとりはない。小さな動物か何かを連れているのだろうと思ったノムルだが、ふと過去に読んだ文献の記述を思い出す。

 ――たしか森人は、人間と違い魔物を使役することもあるという。

 ユキノが所持していた薬草は、人間の常識では考えられないほどの、異常な効能を発揮していた。眉唾物の伝承も、有りうると考えて対応したほうがいいだろう。
 もしユキノが連れているのが魔物だとしたら、口約束だけでは彼女の不安を払しょくできないかもしれない。
 だからノムルは自ら提案する。

「いーよー。契約に追加しようか?」
「よろしいのですか?」
「簡単だからね。これからユキノちゃんが紹介する友達? に、手を出さなければいいんだね?」
「お願いします!」

 テーブルに立てかけていた杖を持ち上げると、ノムルは新たな契約を紡いだ。すでに手首に刻まれていた契約に、新たな契約が融け込んでいく。

「これで大丈夫だよー」
「ありがとうございます。では、マンドラゴラたち、出てきてもいいですよ?」

 ほっと胸を撫で下ろしたユキノが声を掛けると、幼い少年に似た、可愛らしくも騒がしい声があふれる。

「わー」
「わー」
「わー!」
「は?」

 ノムルは目の前で展開された光景に、彼らしくもない呆けた声を洩らした。

 ユキノのローブに隠れていたのは、魔物ではなかった。丸みを帯びた葉を茂らせる、赤茶色をした二股の根菜。十五センチほどの彼らの名前は、マンドラゴラ。
 植物であるのに土から引き抜けば悲鳴を上げ、油断すれば二股の根を足のように使って逃走するという、不思議植物だ。
 魔力回復薬の原料として使われるため、魔法使いにとっては、知らぬ者はいないほど有名な薬草でもある。

 古くから栽培が試みられているけれど、環境が気に入らないと土から出て逃げてしまうため、未だ成功例がない。柵で囲っても、どうやってかいなくなってしまう。
 そんなマンドラゴラは希少価値が高く、滅多にお目に掛かれない幻の薬草として高額で取引される。

 そんなことを頭の中で諳んじてしまうほど、ノムルは動揺していた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:503

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:60,706pt お気に入り:3,776

夢見の館

ホラー / 完結 24h.ポイント:1,278pt お気に入り:1

【R18】私の担当は、永遠にリア恋です!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:376

スパイだけが謎解きを知っている

ミステリー / 完結 24h.ポイント:383pt お気に入り:3

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:55,558pt お気に入り:4,998

処理中です...