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38.駄目ですよ?

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「駄目ですよ? ちゃんと並んでください。はい、いい子ですね。さ、ノムルさんにご挨拶しましょう」
「わー」
「わー」
「わー!」

 自由に部屋の中を駆け回っていたマンドラゴラたちが、ユキノにさとされて一列に並び、ノムルに向かって葉を下げる。
 ノムルは思う。

 ――意味が分からない。

 マンドラゴラは奇声を発し、二股の根で走る。けれどマンドラゴラは植物だ。意思はない。少なくともノムルが知る限り、意思と思えるような行動が確認された例はなかった。
 奇声を上げるのも、二股の根で走るのも、一定の条件を満たした段階で起こる、反射行動に過ぎないとされている。

 それがどうだろう? 目の前にいるマンドラゴラたちは、まるで意思を持っているかのように動いている。
 さらにユキノの指示を受けて、その通りに動いてみせたのだ。動物ですら難しい行動だろう。
 要するに、異常である。

 食事をやめて頭を抱え込んだノムルの視界の中で、マンドラゴラたちが遊ぶ。床にいたはずの彼らは、いつの間にか机の上にいた。
 ユキノが乗せたのかと思ったノムルだが、机の端からマンドラゴラの葉っぱが覗き、そのまま這い登ってきたのを見て、愕然と凝視してしまう。
 手はないはずなのに、いったいどうやって登ったのか、さっぱり分からない。

「わー?」

 ノムルの視線を感じたマンドラゴラが、不思議そうに葉を傾げた。首を傾げたいのはこちらだと、ノムルは心の内で怒鳴る。
 表には出せない。ユキノに警戒させるわけにはいかないから。

「わー!」
「わー!」
「わー!」
「こらこら、駄目ですよ、マンドラゴラたち。……あー、ごめんなさい、ノムルさん」

 なんのことかとノムルが意識を向ければ、彼のローブにマンドラゴラが引っ付いていた。否、ローブを登っていた。
 それだけでなく、頭にもなにやら刺激を感じる。マンドラゴラが一株、登頂に成功したとばかりに、ノムルの山高帽の上で歓声を上げて跳ねていた。
 ユキノが謝ったのは、帽子の上にいるマンドラゴラのほうだろう。

 奇妙な夢でも見ているのだと言われれば、ノムルはすんなり信じたかもしれない。むしろ、夢であってほしいと彼は思う。
 それほどまでに、この町に入ってからの出来事は、彼の常識を凌駕していた。

「あー、ちょっとショック受けてぼうっとしてたからなー。疲れてんだな」

 サゾンの町に来てからだけでなく、ヨルド山脈を下りてから先の出来事が全て夢であったならと、ノムルは切実に願った。
 この異常な状況から目が覚めれば、ドインは元気に暮らしているのだ。そして久しぶりに顔を見に行って、ドインが融筋病を患ったと耳にする夢を見たのだと告げれば、怒声と共に拳骨が落ちてくるだろう。
 そうであってほしいと、ノムルはずきずきと痛む頭を押さえた。
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