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49.それにしましても

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「それにしましても、この辺りは雷が多いのですね」
「そーだねー。ユキノちゃんも水場に行こうかー? 冷たい水があるよ?」

 ノムルは話題を逸らし、ユキノを連れて川に向かう。魔物に攻撃していると、彼女に覚らせるつもりはない。
 川では先に来ていた金属鎧の三人組が、鎧を脱いで諸肌を出していた。その光景を目にしたとたん、ユキノの足が止まる。

「ユキノちゃん?」

 不審に思いノムルが振り返ると、彼女は固まって動かなくなっていた。

「おーい? ユキノちゃん? どうしたの?」

 フードの前で手を振ると、ユキノがふるふると震えだした。そして徐々に俯いていく。
 何事かとノムルが見守る中、ユキノが叫んだ。

「ふんっみゃあああーっ! セクハラです! 破廉恥です! 女の子の前で裸になるなど、変態です! ふぎゃあああーっ!」

 川に背を向け顔を袖で覆い、小さく蹲る幼女。全員の呆気にとられた視線が、彼女に注がれた。次いで、保護者であるノムルに向かう。
 痛くも痒くもないはずの視線だが、ノムルは軽い頭痛を覚える。

「あの、ユキノちゃん? 旅の間だからね? そういうこともあるっていうか。まあでも、こんな所で鎧を脱いで隙だらけになるのはどうかと思うけど。ね? 落ち着こう?」
「ふみゃあぁぁー……」

 商人たちや護衛の弓使いの女は苦笑しているが、水浴びをしていた三人は苦々しく顔をしかめた。
 彼らとて、いつ魔物と対峙することになるか分からない護衛中に、鎧を脱ぐということが賢明ではないことくらい理解しているだろう。
 けれど彼らの肌には、落雷によって負った火傷がある。浅いとはいえ、馬車の揺れで衣服が擦れ、鎧が当たれば、徐々に痛みが増して気になってしまう。
 戦闘に響く状態になる前に少しでも痛みを取り除こうと、冷たい水で炎症を抑えていたのだ。

「とりあえず、動こうか?」
「うう……。前が見えません」
「……。手を……あー、ローブの裾でも握ってくれる?」
「あい。お手数をおかけします」

 ローブの裾を引っ張られながら、ノムルは上流に移動する。ユキノの視界に諸肌脱ぎの男どもが入らないように岩陰に入ってから、改めて声を掛けた。

「ユキノちゃん、もう大丈夫だよー?」
「うう……。ありがとうございます」

 半べそ気味のユキノを視界に入れながら、収納魔法から取り出したコップに水を汲む。

「はい、お水だよ?」

 差し出すと、ユキノは手を伸ばそうとしたり引っ込めたりと、ぎこちない動きを見せる。そして結局、受け取らなかった。
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