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52.……どこから出したのさ?
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「……どこから出したのさ?」
収納魔法を付与した巾着は渡しておいたが、今のユキノの手元にはない。ノムルはつい聞いてしまった。
「えーっと、ローブの下に……」
「あー、服のポケットにでも突っ込んでいたのね?」
「……そんな所です」
細かいことは流すと決めていたノムルは、無理矢理流して杖に薬草を登録する。
「合言葉は?」
「ゴゴマ――涙型の実のほうは、『熱いの熱いの飛んでいけー』でお願いします」
「りょーかい」
どうやらゴゴマは、火傷にも効くらしい。
ノムルは指示された通りに登録する。
「モギは?」
「そうですね」
こちらはすぐに思い浮かばなかったらしく、ユキノはふむうっと考え始めた。そして――。
「『悪霊退散』でお願いします」
予想していなかった合言葉に、ノムルは困惑する。前二つは似たり寄ったりな合言葉なのに、今回だけまったく共通点が見つからない。それどころか、腰痛との関連性さえ分からない。
「なんで『悪霊退散』?」
登録はしたものの、気になってしまい杖を返しながら聞いてしまう。
「肩や腰が痛いのは、悪霊の仕業だと聞きまして」
「そう」
答えは返って来たものの、ノムルにはやっぱり理解できなかった。思わず真顔で首肯してしまう。
杖を受け取ったユキノは、先ほどまでの動揺はどこへやら、男たちの下へぽてぽてぽてぽてと駆けていく。
彼女の後を歩きながら、ノムルはこちらを窺いながら警戒している男たちを見て、苦笑する。幼い少女から揃って変質者扱いをされたのだ。無実であっても心は痛むのだろう。
けれど、それもユキノが声を張り上げるまでだった。
「えっと、治癒魔法を掛けさせていただいてもよろしいでしょうか? 腰痛と火傷を治せます」
そう言ったとたん、全員の顔がユキノに向く。期待と喜びの眼差しを向ける者がいる一方で、猜疑心を隠さない目もあった。
「幾らだ?」
非常時ならばまだしも、通常、治癒魔法は有料で施術してもらう。商人だけに、金勘定を怠ったりはしない。
しかしユキノのほうは予想していない質問だったらしく、きょとんと動きを止めてしまった。
「え? 無料ですが?」
その答えを聞いて、商人たちは顔を見合わせた。巧い話の裏を探っているのだろう。
「じゃあ、俺から頼んでいいか? 腰痛を治してくれ」
「はい!」
最初に名乗りを挙げたのは、ノムルの雇い主であるダズだ。ノムルが魔法使いであるから、娘と思しき幼女が魔法を使えても不思議はないと考えたのだろう。
ユキノはダズに向けて杖を構える。
「悪霊おぅー、退散っ!」
気合の入った叫び声は、全員の顔を引きつらせた。治癒魔法の呪紋とは思えない台詞だ。然もありなんと、ノムルは明後日の方角を見ながら同意する。
収納魔法を付与した巾着は渡しておいたが、今のユキノの手元にはない。ノムルはつい聞いてしまった。
「えーっと、ローブの下に……」
「あー、服のポケットにでも突っ込んでいたのね?」
「……そんな所です」
細かいことは流すと決めていたノムルは、無理矢理流して杖に薬草を登録する。
「合言葉は?」
「ゴゴマ――涙型の実のほうは、『熱いの熱いの飛んでいけー』でお願いします」
「りょーかい」
どうやらゴゴマは、火傷にも効くらしい。
ノムルは指示された通りに登録する。
「モギは?」
「そうですね」
こちらはすぐに思い浮かばなかったらしく、ユキノはふむうっと考え始めた。そして――。
「『悪霊退散』でお願いします」
予想していなかった合言葉に、ノムルは困惑する。前二つは似たり寄ったりな合言葉なのに、今回だけまったく共通点が見つからない。それどころか、腰痛との関連性さえ分からない。
「なんで『悪霊退散』?」
登録はしたものの、気になってしまい杖を返しながら聞いてしまう。
「肩や腰が痛いのは、悪霊の仕業だと聞きまして」
「そう」
答えは返って来たものの、ノムルにはやっぱり理解できなかった。思わず真顔で首肯してしまう。
杖を受け取ったユキノは、先ほどまでの動揺はどこへやら、男たちの下へぽてぽてぽてぽてと駆けていく。
彼女の後を歩きながら、ノムルはこちらを窺いながら警戒している男たちを見て、苦笑する。幼い少女から揃って変質者扱いをされたのだ。無実であっても心は痛むのだろう。
けれど、それもユキノが声を張り上げるまでだった。
「えっと、治癒魔法を掛けさせていただいてもよろしいでしょうか? 腰痛と火傷を治せます」
そう言ったとたん、全員の顔がユキノに向く。期待と喜びの眼差しを向ける者がいる一方で、猜疑心を隠さない目もあった。
「幾らだ?」
非常時ならばまだしも、通常、治癒魔法は有料で施術してもらう。商人だけに、金勘定を怠ったりはしない。
しかしユキノのほうは予想していない質問だったらしく、きょとんと動きを止めてしまった。
「え? 無料ですが?」
その答えを聞いて、商人たちは顔を見合わせた。巧い話の裏を探っているのだろう。
「じゃあ、俺から頼んでいいか? 腰痛を治してくれ」
「はい!」
最初に名乗りを挙げたのは、ノムルの雇い主であるダズだ。ノムルが魔法使いであるから、娘と思しき幼女が魔法を使えても不思議はないと考えたのだろう。
ユキノはダズに向けて杖を構える。
「悪霊おぅー、退散っ!」
気合の入った叫び声は、全員の顔を引きつらせた。治癒魔法の呪紋とは思えない台詞だ。然もありなんと、ノムルは明後日の方角を見ながら同意する。
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