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53.ユキノが発した渾身の叫び声に
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ユキノが発した渾身の叫び声に反応して、杖の先に付いたハートの魔石から、光が放たれる。驚いて顔を両手で庇うダズだが、放たれた光線は容赦なくダズを覆った。
「お? おお?」
数秒ほどで光が消えると、ダズはきょろきょろと落ち着かない仕草をする。それから腰を捻ったり曲げたして、痛みの具合を確かめだした。
「まったく痛くないぞ? それどころか体がぽかぽかして……膝の痛みまで治ってる?」
ノムルはダズの感想を聞きながら、相変わらず異様な効能を発揮する薬草だと、呆れ交じりにユキノを眺める。
彼女の杖は薬草の効果を反映するだけで、効能を高める魔術式は組み込んでいない。つまりダズの体に起こった現象は、薬草本来の効能に過ぎないのだ。
「お、俺にも頼む!」
「私にもお願いいたします」
ダズの反応を見て、他の商人たちもユキノに治癒魔法を頼み始めた。
「悪霊おぅー、たいさーんっ!」
先程にも増して、ユキノは腹の底から叫ぶ。振り付けまでばっちりだ。
「ユキノちゃん、別に叫ばなくてもいいんだよ? 踊る必要もないからね?」
ノムルはそっと助言するが、ユキノはちらりと振り返っただけで、すぐに前を向いてしまった。どうやら叫ぶのをやめるつもりはないらしい。
まあいっかと、ノムルはさっさと諦めた。特に害はないのだから。
商人たちの腰痛を治すと、今度は金属鎧の三人に向かう。
「熱いの熱いの、飛んでいけー!」
傷が癒えたのを確認した彼らだが、商人たちのようにユキノに礼を言うことはなかった。まるで当たり前だと言わんばかりの態度で、鼻を鳴らして去っていく。
「……ユキノちゃん、火傷って滅多にないからさ、打ち身とかに変えない?」
「なるほど。ですがツワキフは、打撲や打ち身にも効果がありますので」
「そう」
金属鎧三人に対して、軽い苛立ちを覚えて提案したノムルだったが、ユキノによって却下されてしまった。
「ユキノちゃん、そろそろ」
と、馬車に戻ることを促そうとしたノムルの目が、鋭くなる。最後尾の馬車を護衛している弓使いの女が、ユキノに近付いてきたのだ。
最後尾の馬車は剣士の男も護衛していたが、そちらは馬車の警護に残っているのか、彼女一人が水を汲みにきたらしい。
「小さいのに凄いな。助かったよ」
ユキノが商人たちに魔法もどきを掛けていた時、彼女も混じって腰痛を治してもらっていた。その礼をわざわざ伝えに来たようだ。
ノムルのほうを向いていたユキノが、声に反応して体の向きを変える。
「お役に立てたのなら嬉しいです」
「気にしなくていいよ?」
ユキノに続いてノムルも返す。それ以上近付くなと、警戒の色を匂わせて。
しかし弓使いの女は、ノムルの声に含まれた警告に気付かなかったらしい。
「自己紹介がまだだったね? 私はシャンだ。あっちに残っているのが夫のザム」
ユキノからノムルに視線を移した弓使いの女シャンは、馬車の護衛をする剣士の男を顎で指す。それから再びノムルに笑いかけてきた。
「お? おお?」
数秒ほどで光が消えると、ダズはきょろきょろと落ち着かない仕草をする。それから腰を捻ったり曲げたして、痛みの具合を確かめだした。
「まったく痛くないぞ? それどころか体がぽかぽかして……膝の痛みまで治ってる?」
ノムルはダズの感想を聞きながら、相変わらず異様な効能を発揮する薬草だと、呆れ交じりにユキノを眺める。
彼女の杖は薬草の効果を反映するだけで、効能を高める魔術式は組み込んでいない。つまりダズの体に起こった現象は、薬草本来の効能に過ぎないのだ。
「お、俺にも頼む!」
「私にもお願いいたします」
ダズの反応を見て、他の商人たちもユキノに治癒魔法を頼み始めた。
「悪霊おぅー、たいさーんっ!」
先程にも増して、ユキノは腹の底から叫ぶ。振り付けまでばっちりだ。
「ユキノちゃん、別に叫ばなくてもいいんだよ? 踊る必要もないからね?」
ノムルはそっと助言するが、ユキノはちらりと振り返っただけで、すぐに前を向いてしまった。どうやら叫ぶのをやめるつもりはないらしい。
まあいっかと、ノムルはさっさと諦めた。特に害はないのだから。
商人たちの腰痛を治すと、今度は金属鎧の三人に向かう。
「熱いの熱いの、飛んでいけー!」
傷が癒えたのを確認した彼らだが、商人たちのようにユキノに礼を言うことはなかった。まるで当たり前だと言わんばかりの態度で、鼻を鳴らして去っていく。
「……ユキノちゃん、火傷って滅多にないからさ、打ち身とかに変えない?」
「なるほど。ですがツワキフは、打撲や打ち身にも効果がありますので」
「そう」
金属鎧三人に対して、軽い苛立ちを覚えて提案したノムルだったが、ユキノによって却下されてしまった。
「ユキノちゃん、そろそろ」
と、馬車に戻ることを促そうとしたノムルの目が、鋭くなる。最後尾の馬車を護衛している弓使いの女が、ユキノに近付いてきたのだ。
最後尾の馬車は剣士の男も護衛していたが、そちらは馬車の警護に残っているのか、彼女一人が水を汲みにきたらしい。
「小さいのに凄いな。助かったよ」
ユキノが商人たちに魔法もどきを掛けていた時、彼女も混じって腰痛を治してもらっていた。その礼をわざわざ伝えに来たようだ。
ノムルのほうを向いていたユキノが、声に反応して体の向きを変える。
「お役に立てたのなら嬉しいです」
「気にしなくていいよ?」
ユキノに続いてノムルも返す。それ以上近付くなと、警戒の色を匂わせて。
しかし弓使いの女は、ノムルの声に含まれた警告に気付かなかったらしい。
「自己紹介がまだだったね? 私はシャンだ。あっちに残っているのが夫のザム」
ユキノからノムルに視線を移した弓使いの女シャンは、馬車の護衛をする剣士の男を顎で指す。それから再びノムルに笑いかけてきた。
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