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60.一人で森に入ったら
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「一人で森に入ったら危ないよ? ……いや、ユキノちゃんは平気なのかもしれないけど、急にいなくなったら心配するからさ。戻ろう?」
「すみません」
ノムルの注意に、しょんぼりと肩を落としたユキノは、素直に彼と一緒に広場まで戻る。けれど森の奥を恨めし気に何度も振り返っていた。
しばらくノムルが様子を見ていると、諦めたように森から視線を切り、広場の境目にある木を指した。
「あの辺りで寝てもいいでしょうか?」
「構わないけど、テントも用意できるよ? ユキノちゃんなら小さいから、馬車の中でも寝させてもらえると思うけど?」
野ざらしよりもテントや馬車で眠るほうが、夜風や虫を防げて楽に決まっている。だからノムルは彼女のために提案したのだけれど、ユキノは首を横に振った。
「お心遣いありがとうございます。ですが、外のほうが楽なのです」
遠慮しているわけではなく本心だと、ノムルは感じ取る。もっと言えば、広場との境目ではなく、森の奥で寝たいのだと察したが、さすがにそれを許せば、他の人間たちが違和感を抱きかねない。
「分かった。じゃあそこで眠っていーよ。明日の朝はきっと早いと思うから、ご飯を食べたら寝ちゃっていいからね?」
「えっと、ご飯はもう馬車の中で頂きました」
「そうなの? じゃあ、おやすみ?」
「おやすみなさい、ノムルさん。今日はありがとうございました」
ユキノは木の根元に腰を下ろすと、動かなくなった。呼吸の気配さえ消えている。
眠っている隙に正体を確かめようかと手を伸ばしかけて、ノムルは思いとどまった。信頼関係を損なうリスクを冒してまで、確認する必要はない。
彼女が人間ではないことは明らかで、特別な薬草を持っていることは事実なのだから。
結界の中で愕然としている護衛たちを解放してから、商人たちが用意した魔山猪豚の肉とパン、野草のスープで夕食をとる。食事を終えると、皆早々に眠りに就いた。
ノムルはユキノの近くで木にもたれ掛かり、瞼を落とす。そして、今日一日のことを振り返る。
彼がユキノに渡したのは、一食分の食料だ。けれど彼女はおそらく、それらにほとんど手を付けていない。だが子供は小食と聞くし、森人は肉を食べないと文献に書かれていた。
そんな言い訳染みた考えで、ノムルは疑問に蓋をする。
空は濃い藍に染まり、森の奥では魔物たちが餌を求めて彷徨う。決して安全とは言えない世界で、ノムルは意識を闇に落としていく。
じわりと首を絞めてくる亡者たちの声に何度も眠りを妨げられながら、疲労を癒すため目蓋を伏せ続けた。
「すみません」
ノムルの注意に、しょんぼりと肩を落としたユキノは、素直に彼と一緒に広場まで戻る。けれど森の奥を恨めし気に何度も振り返っていた。
しばらくノムルが様子を見ていると、諦めたように森から視線を切り、広場の境目にある木を指した。
「あの辺りで寝てもいいでしょうか?」
「構わないけど、テントも用意できるよ? ユキノちゃんなら小さいから、馬車の中でも寝させてもらえると思うけど?」
野ざらしよりもテントや馬車で眠るほうが、夜風や虫を防げて楽に決まっている。だからノムルは彼女のために提案したのだけれど、ユキノは首を横に振った。
「お心遣いありがとうございます。ですが、外のほうが楽なのです」
遠慮しているわけではなく本心だと、ノムルは感じ取る。もっと言えば、広場との境目ではなく、森の奥で寝たいのだと察したが、さすがにそれを許せば、他の人間たちが違和感を抱きかねない。
「分かった。じゃあそこで眠っていーよ。明日の朝はきっと早いと思うから、ご飯を食べたら寝ちゃっていいからね?」
「えっと、ご飯はもう馬車の中で頂きました」
「そうなの? じゃあ、おやすみ?」
「おやすみなさい、ノムルさん。今日はありがとうございました」
ユキノは木の根元に腰を下ろすと、動かなくなった。呼吸の気配さえ消えている。
眠っている隙に正体を確かめようかと手を伸ばしかけて、ノムルは思いとどまった。信頼関係を損なうリスクを冒してまで、確認する必要はない。
彼女が人間ではないことは明らかで、特別な薬草を持っていることは事実なのだから。
結界の中で愕然としている護衛たちを解放してから、商人たちが用意した魔山猪豚の肉とパン、野草のスープで夕食をとる。食事を終えると、皆早々に眠りに就いた。
ノムルはユキノの近くで木にもたれ掛かり、瞼を落とす。そして、今日一日のことを振り返る。
彼がユキノに渡したのは、一食分の食料だ。けれど彼女はおそらく、それらにほとんど手を付けていない。だが子供は小食と聞くし、森人は肉を食べないと文献に書かれていた。
そんな言い訳染みた考えで、ノムルは疑問に蓋をする。
空は濃い藍に染まり、森の奥では魔物たちが餌を求めて彷徨う。決して安全とは言えない世界で、ノムルは意識を闇に落としていく。
じわりと首を絞めてくる亡者たちの声に何度も眠りを妨げられながら、疲労を癒すため目蓋を伏せ続けた。
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