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59.商人たちの歪んだ顔からは
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商人たちの歪んだ顔からは、まだ旅は始まったばかりだというのに、昼に続いてまた護衛たちが揉めるなど、勘弁してほしいという苛立ちと不運を嘆く思いが見て取れる。
早めに収めたほうがよさそうだとノムルは口を開くが、イゾーの声がかぶさった。
「俺としては、むしろお前たち二人の番が不安なのだが?」
「なんだって!?」
もっともな意見を述べたイゾーに、シャンが噛みついて、混沌が加速していく。
ノムルは帽子に手を突っ込み、気だるげに髪を掻いた。
「全員、寝ていいよ? どうせこの広場一帯を結界で囲んで寝る予定だからね。夜の番は必要ないよ」
面倒くさそうに言い放ったノムルに、護衛たちも商人たちも、ぎょっと目を瞠る。
魔物を通さないほどに強力な結界は、数人がかりで張るものだ。それを一人で、しかも一晩中張り続けるなど、普通ではありえない。
「どの程度の強度があるんだ? この辺りには強力な魔物もいるのだぞ?」
「今の所、魔物に破られたことはないかなー。あー……、一人で竜種を倒す莫迦には、ひびを入れられたことがあったな」
あれは本気で怖かったと、ノムルは過去を思い出して死んだ魚のような目になってしまう。
三日三晩に渡って、休憩なしで笑いながら攻撃され続けたのだ。精神的に来るものがあった。ひびが入った瞬間に今まで感じたことのない危機意識を覚え、相手に何重もの結界を張って逃走した。
噂では今も生きて冒険者として活動しているというのだから、結界は自力で破ったのだろう。ノムルが遠ざかったことで結界の強度が緩んだとはいえ、恐ろしい話である。
「一人で竜種を? そんな人間がいるわけないだろう?」
「いや、いることはいる。Sランク冒険者の『竜殺し』は、ソロで竜種の討伐に成功しているという話だ」
「そんなの雲の上の話だろう? 冗談も大概に」
「じゃあ、自分たちで試しなよ」
面倒になったノムルは護衛たちの周りに結界を張ってやる。
なにやら罵声を浴びせながら結界から出ようとしている護衛たちを残して、ノムルは森のほうに足を向けた。草を踏みながら進むと、丈の高い草の間に、緑色のフードがひょこひょこ見え隠れしている。
「ユキノちゃん? どこに行くのー?」
声を掛けると、フードはびくりと揺れて進みを止めた。
ノムルが金属鎧の三人組に呼び止められている間に、ユキノが一人で森の奥に入り込んでしまっていたのだ。
「えっと、その……お花摘みに」
「花? どんな花が欲しいの?」
薬草でも探しているのかと問うたノムルを、ユキノはじっと見つめる。それから奇妙な空気を垂れ流し始めた。
「ノムルさん、残念です」
「え? 何が?」
ユキノは袖を肩辺りまで上げて、首をゆるゆると左右に振る。
お花摘みが何を示す言葉なのか、ノムルは知らなかった。
早めに収めたほうがよさそうだとノムルは口を開くが、イゾーの声がかぶさった。
「俺としては、むしろお前たち二人の番が不安なのだが?」
「なんだって!?」
もっともな意見を述べたイゾーに、シャンが噛みついて、混沌が加速していく。
ノムルは帽子に手を突っ込み、気だるげに髪を掻いた。
「全員、寝ていいよ? どうせこの広場一帯を結界で囲んで寝る予定だからね。夜の番は必要ないよ」
面倒くさそうに言い放ったノムルに、護衛たちも商人たちも、ぎょっと目を瞠る。
魔物を通さないほどに強力な結界は、数人がかりで張るものだ。それを一人で、しかも一晩中張り続けるなど、普通ではありえない。
「どの程度の強度があるんだ? この辺りには強力な魔物もいるのだぞ?」
「今の所、魔物に破られたことはないかなー。あー……、一人で竜種を倒す莫迦には、ひびを入れられたことがあったな」
あれは本気で怖かったと、ノムルは過去を思い出して死んだ魚のような目になってしまう。
三日三晩に渡って、休憩なしで笑いながら攻撃され続けたのだ。精神的に来るものがあった。ひびが入った瞬間に今まで感じたことのない危機意識を覚え、相手に何重もの結界を張って逃走した。
噂では今も生きて冒険者として活動しているというのだから、結界は自力で破ったのだろう。ノムルが遠ざかったことで結界の強度が緩んだとはいえ、恐ろしい話である。
「一人で竜種を? そんな人間がいるわけないだろう?」
「いや、いることはいる。Sランク冒険者の『竜殺し』は、ソロで竜種の討伐に成功しているという話だ」
「そんなの雲の上の話だろう? 冗談も大概に」
「じゃあ、自分たちで試しなよ」
面倒になったノムルは護衛たちの周りに結界を張ってやる。
なにやら罵声を浴びせながら結界から出ようとしている護衛たちを残して、ノムルは森のほうに足を向けた。草を踏みながら進むと、丈の高い草の間に、緑色のフードがひょこひょこ見え隠れしている。
「ユキノちゃん? どこに行くのー?」
声を掛けると、フードはびくりと揺れて進みを止めた。
ノムルが金属鎧の三人組に呼び止められている間に、ユキノが一人で森の奥に入り込んでしまっていたのだ。
「えっと、その……お花摘みに」
「花? どんな花が欲しいの?」
薬草でも探しているのかと問うたノムルを、ユキノはじっと見つめる。それから奇妙な空気を垂れ流し始めた。
「ノムルさん、残念です」
「え? 何が?」
ユキノは袖を肩辺りまで上げて、首をゆるゆると左右に振る。
お花摘みが何を示す言葉なのか、ノムルは知らなかった。
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