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62.ノムルは杖を撫でて
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ノムルは杖を撫でて、眠っているユキノの周囲に結界を張った。普段使う透明な結界ではなく、音も景色も見えない、真っ白な結界だ。これから起こるかもしれない出来事を、万が一にも彼女に見せないために。
商人たちは作業の手を止め、自分が雇っている護衛に視線を送る。こういう時に雇い主を護るのも、護衛の務めだ。
ノムルはイゾーがシャンたちの下へ動いたのを見て、二人の拘束は彼に任せて商人たちの下へ移動した。しかし出る幕はないと踏んでいるため、緊張感は欠片もない。
「放せ! 何するんだ!?」
暴れるシャンを片手で拘束したイゾーは、彼女を助けようと剣を抜いたザムを、容易くもう一方の手で拘束する。武器を抜いた以上、二人を擁護する者はいないだろう。
呆気ない幕切れを見届けたノムルは、ちょうど良い機会かもしれないと、二人の雇い主だった商人に顔を向けた。
「契約書を見せてもらってもいーい?」
ノムルは自分の冒険者ギルドの認定証を提示しながら、反対の手を差し出す。
怪訝な面持ちをした商人だったが、ノムルが提示した認定証を確認すると、慌てて契約書を取り出した。Aランクという肩書は、色々と役に立つ。
渡された契約書によると、商人の名前はブルというらしい。Cランクの護衛を二人という、サゾン付近では最低限の人数を雇う契約を結んでいる。
契約書を一瞥して内容を把握したノムルは、イゾーに拘束されているザムとシャルに近付いた。
「認定証を出して?」
「は? なんであんたの指示に従わないといけないんだよ!? 元はと言えば、あんたが原因じゃないか!」
ユキノの頭を撫でようとしたのも、夜の番にケチを付けたのも、そこにノムルがいただけで、行ったのは彼女自身だ。
噛みついてくるシャンに対して、ノムルから笑顔の仮面が剥がれ落ちる。がらんどうの眼を向けられて、シャンから勢いが抜けた。
「何か言ったか?」
「ひいっ!?」
悲鳴を上げて後退ろうとしたシャンだが、イゾーに拘束されているため逃げることはできない。怯えるシャンを見て、ザムのほうが慌てて認定証を差し出した。
その認定証の表を一瞥して裏まで確認したノムルは、シャンの首に掛かる鎖を引っ張って彼女の認定証を取り出すと、そちらも表裏を確認する。
「Cねえ。認定証は本物か。上位ランクに寄生してランクを上げた口?」
冒険者の中には、強い者と共に任務をこなし、その功績を分配してもらうことで、実力以上のランクを得る者もいる。
実力が露見した時点でランクを下げられ、かつ信用も一気に落ちるのだが、より報酬の高い依頼を受けるために、こういった行為は後を絶たない。
商人たちは作業の手を止め、自分が雇っている護衛に視線を送る。こういう時に雇い主を護るのも、護衛の務めだ。
ノムルはイゾーがシャンたちの下へ動いたのを見て、二人の拘束は彼に任せて商人たちの下へ移動した。しかし出る幕はないと踏んでいるため、緊張感は欠片もない。
「放せ! 何するんだ!?」
暴れるシャンを片手で拘束したイゾーは、彼女を助けようと剣を抜いたザムを、容易くもう一方の手で拘束する。武器を抜いた以上、二人を擁護する者はいないだろう。
呆気ない幕切れを見届けたノムルは、ちょうど良い機会かもしれないと、二人の雇い主だった商人に顔を向けた。
「契約書を見せてもらってもいーい?」
ノムルは自分の冒険者ギルドの認定証を提示しながら、反対の手を差し出す。
怪訝な面持ちをした商人だったが、ノムルが提示した認定証を確認すると、慌てて契約書を取り出した。Aランクという肩書は、色々と役に立つ。
渡された契約書によると、商人の名前はブルというらしい。Cランクの護衛を二人という、サゾン付近では最低限の人数を雇う契約を結んでいる。
契約書を一瞥して内容を把握したノムルは、イゾーに拘束されているザムとシャルに近付いた。
「認定証を出して?」
「は? なんであんたの指示に従わないといけないんだよ!? 元はと言えば、あんたが原因じゃないか!」
ユキノの頭を撫でようとしたのも、夜の番にケチを付けたのも、そこにノムルがいただけで、行ったのは彼女自身だ。
噛みついてくるシャンに対して、ノムルから笑顔の仮面が剥がれ落ちる。がらんどうの眼を向けられて、シャンから勢いが抜けた。
「何か言ったか?」
「ひいっ!?」
悲鳴を上げて後退ろうとしたシャンだが、イゾーに拘束されているため逃げることはできない。怯えるシャンを見て、ザムのほうが慌てて認定証を差し出した。
その認定証の表を一瞥して裏まで確認したノムルは、シャンの首に掛かる鎖を引っ張って彼女の認定証を取り出すと、そちらも表裏を確認する。
「Cねえ。認定証は本物か。上位ランクに寄生してランクを上げた口?」
冒険者の中には、強い者と共に任務をこなし、その功績を分配してもらうことで、実力以上のランクを得る者もいる。
実力が露見した時点でランクを下げられ、かつ信用も一気に落ちるのだが、より報酬の高い依頼を受けるために、こういった行為は後を絶たない。
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