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103.マンドラゴラ、お願いなのです

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「マンドラゴラ、お願いなのです。私が吸収する薬草は、できましたら動かない植物でお願いします」
「わー!」

 ノムルが思考の渦に呑み込まれている間に、ユキノはマンドラゴラにお願いしていた。
 その結果、マンドラゴラたちは、ユキノに必要な薬草は普通の薬草を見つけて来たのに、ノムルが必要としているムッセリー草だけは、なぜか魔植物化したものばかり引き連れて来た。

「おいこら、マンドラゴラども。マンドラゴラジュースにしちまうぞ?」
「わー?」

 日が落ちてユキノが眠った後、ノムルはマンドラゴラを捕まえて、怒りを呟く。
 太陽に合わせて寝起きする樹人の幼木と違い、マンドラゴラたちは日が暮れてもなぜか動けるらしい。

「わーっ!? わーっ!」

 握る手に力を込めると、葉でばしばしとノムルの手を叩き、それからユキノのほうを示す。
 自分に危害を加えれば、ユキノが黙っていないと言いたいのだろう。

「心配するな。契約でお前らに危害は加えられない。だからちゃんと、ぎりぎりで抑えるから」
「わー!?」

 などと言ったノムルだが、ユキノはマンドラゴラと会話ができる。下手なことをすれば告げ口されて、ユキノからの信頼を失いかねない。
 溜め息と共に、マンドラゴラを解放した。
 べしりっとノムルのローブを葉で叩いてから、マンドラゴラは地面に根を潜らせる。

「たくっ。本当にお前らはなんなんだ?」

 地表に出ている葉を指で突っつくと、不満そうに反対側へと傾けられた。
 顔をしかめてマンドラゴラを一睨みしたあと、ノムルは視線をユキノへと向ける。小さな樹人は、地面に根を張って眠っている。
 動かなくなった彼女は、どう見ても木だ。宿から抜け出した彼女を探しに行っても見つからなかった理由を知り、ノムルは苦笑した。

 ノムルはテントを出そうと周囲を見回したけれど、水気の少ない場所を選んでも、足下はぬかるんでいる。ひざ下まで水に浸かる場所に比べればましだが、人間が眠るのには適していない。
 魔法で水を取り除くことはできるけれど、そういう気分ではなかった。適当な木の上に登ると、枝に座り幹に背を預けて目を閉じる。
 不思議なことに、その日は夢にうなされることなく朝まで眠り続けた。



 イグバーンが言っていた通り、ムツゴロー湿原は魔窟だった。奥に進めば進むほど、魔物化した植物たちが蠢いている。そのどれもが、奇怪な姿をしていた。

「ギャアアーッ!?」

 悲鳴を聞いて上を見れば、空を飛んでいた魔物が、種を飛ばされて木に打ち落とされる。
 落ちてくる魔物は、木に巻き付いていた蔓がつかんで引き裂き、木の幹に付いたたくさんの口に運ぶ。そして滴る血は、蔓のほうに吸い込まれていく。どうやら共生しているらしい。
 むしゃむしゃと美味しそうに召し上がる木を見物していたら、ユキノの悲鳴が聞こえた。
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