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104.ふみゃああーっ!?
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「ふみゃああーっ!?」
「わー!」
「はいは……」
地上でも新たな魔植物が現れたようだと顔を向ければ、前方を歩いていた樹人の幼木が消えていた。
ユキノの声は湿原の奥から聞こえる。マンドラゴラの声が楽しそうなので危険はなさそうだが、ノムルは急いで彼女の下へ急ぐ。
「くっ、負けませんよっ!」
ユキノは蔓に巻き付かれて宙吊りとなっていた。蔓から逃れようともがいているが、どんどん蔓が増えて枝や根も拘束され、自由を失いつつある。
「緊縛プレイとは、破廉恥な!」
まだまだ余裕がありそうな台詞だが、放っておくわけにはいかない。
ノムルが杖を指先で弾けば、一瞬にして魔植物が切り刻まれ、ユキノが落ちてくる。落下地点に入ったノムルはユキノを受け止めた。
「ふみゃあっ!? ……ありがとうございます」
「どーいたしまして」
マンドラゴラは放っておいた。くるくるくるくるりんっと、見事な技を披露して、ぽちゃんっと着水している。
「わーぁ?」
なぜ助けなかったのだと言わんばかりに睨み上げてくるが、ノムルは知らん顔だ。
ぷかぷかと浮かんでいたマンドラゴラはそのまま楽しそうに泳ぎ出したので、ノムルの取った行動は間違ってはいなかったのだろう。
それはまあいい。
「ごめんね、ユキノちゃん。危険な目に合わせちゃって」
「大丈夫です。怪我もありませんでしたし」
ユキノは無事をアピールするが、ノムルの心は晴れない。
警戒していたはずなのに、まんまとユキノをさらわれてしまった。彼女を護ると請け負っておきながら、有り得ない失態である。
魔植物たちには、気配がない。正確に言えば、植物のままなのだ。殺意どころか意思も感じない。だから目で追っていなければ、動きを把握できなかった。
気を引き締めてユキノの周囲に警戒しながら、先へと進む。
「……ノムルさん」
「うん?」
ローブの裾を引っ張られて、彼女の視線の先を追う。
「は?」
そこには、さすがのノムルですら目に映したくない物体がいた。
「ふんぎゃああーっ!?」
数泊遅れて響く、幼木の悲鳴。
ノムルはすかさず風を起こして吹き飛ばす。
「……なんだ? 今の?」
「うっ、うっ……。乙女を穢されました」
「いやいやいや……否定しきれないけど、触られたわけじゃないからセーフでしょう?」
ローブにしがみ付いて泣きべそをかくユキノをあやしながら、前へと進む。前へと……。
がさりと音を立てて茂みから出て来た魔植物を目にしたノムルは、愕然とした。
「ちょっ!? ユキノちゃん見ちゃ駄目! アレは駄目!」
「いやあああーっ!?」
「何アレ? え? ここどうなって……また来やがったああーっ!」
「ふんみゃああーっ!?」
ノムルはローブにしがみ付くユキノを左手で抱え、右手の杖で魔植物たちを追い払う。
「うわっ!? 何? 魔法が制御できないんだけど!? って、来んなっ!」
杖は鈍器と化していた。ノムルは必死に魔植物たちを杖で殴り飛ばし、ユキノを連れて逃げる。
道化の仮面なんて、とっくにどこかに落としてしまって素が出ているけれど、取り繕っている余裕なんてない。
「撒いたか? って、……あーっ!?」
ムツゴロー湿原は、魔窟だった。
「わー!」
「はいは……」
地上でも新たな魔植物が現れたようだと顔を向ければ、前方を歩いていた樹人の幼木が消えていた。
ユキノの声は湿原の奥から聞こえる。マンドラゴラの声が楽しそうなので危険はなさそうだが、ノムルは急いで彼女の下へ急ぐ。
「くっ、負けませんよっ!」
ユキノは蔓に巻き付かれて宙吊りとなっていた。蔓から逃れようともがいているが、どんどん蔓が増えて枝や根も拘束され、自由を失いつつある。
「緊縛プレイとは、破廉恥な!」
まだまだ余裕がありそうな台詞だが、放っておくわけにはいかない。
ノムルが杖を指先で弾けば、一瞬にして魔植物が切り刻まれ、ユキノが落ちてくる。落下地点に入ったノムルはユキノを受け止めた。
「ふみゃあっ!? ……ありがとうございます」
「どーいたしまして」
マンドラゴラは放っておいた。くるくるくるくるりんっと、見事な技を披露して、ぽちゃんっと着水している。
「わーぁ?」
なぜ助けなかったのだと言わんばかりに睨み上げてくるが、ノムルは知らん顔だ。
ぷかぷかと浮かんでいたマンドラゴラはそのまま楽しそうに泳ぎ出したので、ノムルの取った行動は間違ってはいなかったのだろう。
それはまあいい。
「ごめんね、ユキノちゃん。危険な目に合わせちゃって」
「大丈夫です。怪我もありませんでしたし」
ユキノは無事をアピールするが、ノムルの心は晴れない。
警戒していたはずなのに、まんまとユキノをさらわれてしまった。彼女を護ると請け負っておきながら、有り得ない失態である。
魔植物たちには、気配がない。正確に言えば、植物のままなのだ。殺意どころか意思も感じない。だから目で追っていなければ、動きを把握できなかった。
気を引き締めてユキノの周囲に警戒しながら、先へと進む。
「……ノムルさん」
「うん?」
ローブの裾を引っ張られて、彼女の視線の先を追う。
「は?」
そこには、さすがのノムルですら目に映したくない物体がいた。
「ふんぎゃああーっ!?」
数泊遅れて響く、幼木の悲鳴。
ノムルはすかさず風を起こして吹き飛ばす。
「……なんだ? 今の?」
「うっ、うっ……。乙女を穢されました」
「いやいやいや……否定しきれないけど、触られたわけじゃないからセーフでしょう?」
ローブにしがみ付いて泣きべそをかくユキノをあやしながら、前へと進む。前へと……。
がさりと音を立てて茂みから出て来た魔植物を目にしたノムルは、愕然とした。
「ちょっ!? ユキノちゃん見ちゃ駄目! アレは駄目!」
「いやあああーっ!?」
「何アレ? え? ここどうなって……また来やがったああーっ!」
「ふんみゃああーっ!?」
ノムルはローブにしがみ付くユキノを左手で抱え、右手の杖で魔植物たちを追い払う。
「うわっ!? 何? 魔法が制御できないんだけど!? って、来んなっ!」
杖は鈍器と化していた。ノムルは必死に魔植物たちを杖で殴り飛ばし、ユキノを連れて逃げる。
道化の仮面なんて、とっくにどこかに落としてしまって素が出ているけれど、取り繕っている余裕なんてない。
「撒いたか? って、……あーっ!?」
ムツゴロー湿原は、魔窟だった。
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