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105.いやあ、色んな魔物を見てきたけど

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「いやあ、色んな魔物を見てきたけど、ここまでゲテモノ揃いは例がないね。二度と来ない」

 必要な薬草を採集し終えたノムルとユキノは、湿原の出口近くまで辿り着いていた。
 ノムルは笑顔を浮かべているが、その表情は癒されるどころか恐怖すら感じるほどに、目が笑っていなかった。
 魔植物たちは、力だけで言えば低級の魔物と変わらない程度の脅威しかない。しかしその外見はあまりに奇抜すぎて、人の精神をがりがりと削ってしまう。

「そろそろローブを着とこうか?」
「はい」

 ここから先は、薬草採取や魔物を狩りに来た冒険者たちと出くわすかもしれないと、ノムルはユキノに声を掛ける。
 巾着袋からローブを出したユキノは、すっぽりとかぶって樹冠もフードで覆った。
 すでに何度か遠目に人間を見かけたが、その時は気付かれないように認識阻害の魔法で誤魔化している。しかしこれ以上、人が多くなれば、違和感を覚える者もいるかもしれない。

 ユキノは着心地を確かめるように体を動かすと、地面に視線を落とした。ぬかるんだ泥土に触れても、裾に泥跳ね一つ付いていないのが不思議みたいだ。
 根下を見つめて枝上の幹くびを傾げている。

「魔法でコーティングしておいたから、大丈夫だよ」
「ありがとうございます」

 ノムルのローブも、湿原を抜けて来たというのに、泥汚れ一つ付いていない。
 二人は連れ立って、湿原の出口に向かい歩いく。街道へ出ると、揃って大きく伸びをした。

「いやあ、足下がしっかりしているって、いいねえ」
「人里のほうが落ち着くとは、樹人失格かもしれません」


 笑顔でぬかるんでいない道を踏みしめていたノムルは、ユキノの呟きを耳に留めて表情を凍らせる。

「いや、それはさ、ここが特殊なのであって、仕方ないと思うよ?」

 いくら森の奥で生きる樹人といえど、こんな奇怪な魔窟が居心地いいはずがない。
 慰めるように紡いだ言葉は、果たしてユキノのためなのか、それとも彼自身を慰める言葉だったのか。
 ノムルは吹っ切るように足を踏み出した。


 ムツゴロー湿原を抜けた先は、サテルト国ではなくルモン大帝国だ。
 景色は大きく変わり、田園風景が広がっていた。緑の葉に抱かれるように、黄金色に染まった穂が重い頭を垂れている。収穫はもう少し先だろう。
 足を止めて田を眺めているユキノに気付いたノムルは、田んぼを見て軽く顔をしかめた。

「この辺ってコンメなんだ。俺、あれ苦手なんだよね」

 親指と人差し指で作った輪よりわずかばかり大きなコンメの実は、生だと硬いため茹でて食べる。腹持ちはいいが味は薄く、口の中に薄皮が残るのが難点だった。
 食事のできないユキノは理解できないのか、眉葉を寄せてノムルを見上げている。
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