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106.今夜はどこかに宿を取って

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「今夜はどこかに宿を取って、久しぶりにゆっくり休もうか?」
「そうですね」

 などと話しながら、ノムルはユキノを連れて町に続く街道を進む。ユキノの正体が分かったので、彼女が宿の部屋で眠れない理由も理解した。
 ユキノが根を張れるように、近くに木立か、せめて庭のある宿を探さなければと、宿の選定基準を改める。

 ちょうど良さそうな宿を見つけたノムルは、そこに泊まることにした。
 いったん部屋に入り、ユキノを連れて窓から裏手に降りると、彼女に根を張らせる。人間に見つからないよう、認識阻害の魔術を掛けることも忘れない。

「おやすみなさい、ノムルさん」
「おやすみ、ユキノちゃん」

 動かなくなった樹人の幼木をしばし眺めてから、ノムルは部屋に戻った。

「起きてください、ノムルさん。朝ですよ?」
「んー?」

 魔植物たちの魔窟、ムツゴロー湿原を抜けた翌日、ノムルはユキノの声で目覚めた。
 しばらくぐっすり眠れていたのに、今日は頭が重く体が重い。夜の間に何度も悪夢にうなされ、目が覚めてしまったからだ。

「おはよー、ユキノちゃん」
「おはようございます、ノムルさん。今日もよろしくお願いします」
「うん」

 頭を掻きながら上体を起こしたノムルは、伸びをしながら大きな欠伸をする。

「一人で入ってきたの?」
「ええ。待っていたのですけど、いつまでも来そうにありませんでしたので」
「ありがとう?」

 どうやらノムルの寝坊に耐えかねたのか、巾着袋から出したローブを着て、部屋まで上がって来たらしい。
 起き上ったノムルは掛け布を剥ぐと、自分を包んでいた布を引っ張り出し、魔法空間に放り込む。代わりにローブと帽子を取り出して身にまとった。

「先ほどの布は、ノムルさんのものだったのですか?」
「そーだよー。眠っている間に魔力が暴走しないよう、封印とか色々施してるんだ」
「魔法使いというのも、大変なのですね」

 ユキノはしみじみと言うけれど、ここまで慎重にならなければならに魔法使いなんて、そうはいない。
 ちなみにローブと帽子にも、現代の魔法技術を駆使した封印が施されている。
 彼がくたびれたローブを着続けているのは、新調するためには必要な素材を集め、ラジン国に戻らなければならないという理由もあった。

「ルモン大帝国に樹人の繁殖地は確認されていないし、俺が必要としている薬草もないから、さっさと通り抜けるってことでいいかな?」

 確認のために問うと、ユキノは考える素振りを見せてから頷いた。
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