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虚空の猟鳥
バラード基地防空戦
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空は、まだ朝だった。
だがその青は、平穏の色ではない。
バラード空軍基地に設置された全方位警戒レーダーが
低く、しかし確実な脅威を捉えたのは、午前七時二二分。
警報音は一瞬の躊躇もなく基地全域に響き渡り
次の瞬間には、赤色灯が滑走路と格納庫、兵舎と管制塔を不規則に照らし始めた。
「スクランブル! 全防空隊、即応発進!」
管制塔から放たれた声は、感情を排した硬質なものだった。
だがそれは、聞く者の背筋を否応なく伸ばすだけの圧を持っていた。
敵編隊来襲中
ハーギア連邦空軍。
MiG-29 三二機、Tu-22M 八機。
進路は北東、海上を這うように南下中。
目標は、バラード空軍基地。
休憩所にいた搭乗員たちは、椅子を蹴り、床を踏み鳴らし、一斉に走り出した。
コンクリートの廊下に響くブーツの音が、まるで太鼓の連打のように重なる。
「来たな」
誰かがそう呟いた。
それは恐怖ではなく、覚悟の確認だった。
クラウ隊の先頭を走るのは、ナノリ・ヒューヴ少佐。
TACネーム、フーシェン。
二八歳。
セネアトバトス空軍きっての冷静沈着な女性パイロットであり
この混成防空部隊の事実上の楔だった。
「走れ。置いていくぞ」
振り返らずにそう言い放つ声は、淡々としている。
だがそれが、どれほど部下を安心させているかを、彼女自身は知らない。
そのすぐ後ろを、軽やかな足取りで走る男がいた。
ジェイグ・ホンクス大尉。
ソラリス空軍所属。
TACネーム、スウィンダラー。
三一歳。
口元には、いつものように薄い笑みが浮かんでいる。
「いやあ、朝から景気がいいね。今日は何機いけるかな」
「黙って走れ」
フーシェンが即座に切り捨てる。
三番目は、キルギア空軍のハンス・ヒューヴェン中尉。
TACネーム、スナイパー。
二六歳。
長身で、どこか爽やかな雰囲気を持つ青年だが
戦闘に入ると、その名の通り、冷酷なまでの精密さを見せる。
「敵が多いほど、狙いは絞りやすいですよ」
そう言って肩をすくめる余裕がある。
四番機、ヒューリ・ジェニー中尉。
TACネーム、ブリュンヒルデ。
二八歳。
セネアトバトス空軍の叩き上げ。
寡黙で、整備員への一礼を欠かさない律儀さを持つ。
そして最後尾。
五番機。
ヨツセ・リカ少尉。
TACネーム、アリス。
二三歳。
新米。
だが、誰よりも静かで、誰よりも速く走っていた。
彼女の表情は、驚くほど落ち着いている。
心拍は上がっている。
だがそれは恐怖ではない。
空へ行ける、その一点に意識が収束していた。
バンカーに並ぶ五機の戦闘機。
F-15C 四機と、F-15EX 一機。
機体はすでに整備を終え、燃料と兵装を満載して待っていた。
「クラウ隊、搭乗!」
フーシェンの号令とともに、搭乗員たちはそれぞれの梯子を駆け上がる。
キャノピーが閉じ、外界の音が遮断されると、世界は一気に狭まった。
リカは、シートに体を沈め、ヘルメットを被り、チェックリストをなぞる。
呼吸は一定。
手は震えていない。
「クラウ5、システムチェックグリーン」
自分の声が、驚くほど澄んで聞こえた。
「クラウ1、全機、エンジンスタート」
滑走路に、低く、だが圧倒的な轟音が満ちる。
F-15の双発エンジンが、まるで獣のように吠えた。
「バラードタワー、こちらクラウ隊。発進許可を要請」
「クラウ隊、発進を許可する。幸運を祈る」
「幸運はいらない。仕事をするだけだ」
フーシェンの一言と同時に、機体は走り出した。
次々と離陸する防空隊。
クラウ隊を先頭に、バラード基地の空が、戦闘の色へと塗り替えられていく。
高度八〇〇〇メートル。
敵来襲高度より一〇〇〇メートル上。
太陽を背にした、理想的な位置。
「敵影確認。MiG-29、編隊密集。爆撃機は後方だ」
「了解。初手で叩く」
フーシェンの声に、迷いはない。
「クラウ隊、攻撃開始。各機、自由に狩れ」
「アバランチ1より各機へ 全機槍を放て Fox4 Fox4」
F/A-18のアバランチ隊がAMRARMを放つ
その瞬間、空が裂けた。
ミサイルの白煙が、何本も空を引き裂く。
MiG-29の編隊が混乱し、散開するのが見える。
「クラウ5、行くよ」
リカは、機体を急降下させた。
重力が体を押し潰そうとする。
だが、彼女の操縦は、それを拒絶する。
まるで、機体と一体になったかのようだった。
照準。
ロック。
「フォックスツー」
一機目のMiG-29が、火球に変わる。
間髪入れず、二機目。
回避機動を取る敵を、低空へと追い込む。
「逃がさない」
三機目。
爆炎が連なり、空に黒煙が立ち上る。
「MiG-29、三機撃墜」
淡々とした報告。
だが、そこに驕りはない。
次に狙うのは、後方のTu-22M。
大型爆撃機。
鈍重だが、放置すれば基地は焼け野原になる。
「クラウ5、爆撃機に取り付く」
一機。
エンジン部に命中。
二機目。
胴体が裂け、ゆっくりと墜ちていく。
「Tu-22M、二機撃墜」
「新人、やるじゃないか!」
スウィンダラーの声が、楽しげに響く。
彼は彼で、二機のTu-22Mを仕留めていた。
混戦に紛れ、撃墜数を稼ぐのは、彼の十八番だ。
「クラウ2、今日も絶好調だ」
「余計なこと言ってないで警戒を続けろ」
フーシェンは、MiG-29を二機、確実に落としていた。
無駄のない機動。
一切の焦りがない。
ブリュンヒルデが一機。
スナイパーが他隊との連携で二機。
だが、空戦はそこで終わらなかった。
「低空! 増援だ!」
レーダーが、新たな反応を捉える。
低高度を這うように侵入してきた、Tu-22M 六機、MiG-29 八機。
「しまった、潜られた!」
「追うな、基地防空を優先しろ!」
判断は正しい。
だが、その一瞬の隙を、敵は突いた。
爆撃機が、基地に向けて進路を取る。
「間に合え……!」
その時だった。
「フェンリル師団、参戦する」
低く、重い声が無線に割り込む。
キルギア空軍、第2飛行師団。
Su-35SM 二八機。
空が、再び震えた。
「フォーメーションを組み直せ。数で押す」
フェンリルの隊長の言葉通り、戦線は立て直される。
低空の敵機は、次々と撃墜されていった。
最終的な戦果。
Tu-22M 十二機撃墜。
MiG-29 十六機撃墜。
味方の損害は、バンカー隊の一機被弾。
だが、搭乗員は無事。
「バラード基地、防空成功」
その報告が流れた時、空には、まだ黒煙が漂っていた。
リカは、静かに呼吸を整えながら、青空を見上げた。
勝った。
だが、これは始まりに過ぎない。
「アリス、よくやった」
フーシェンの声が、穏やかに響く。
「……はい」
短く答えながら、リカは思う。
この空には、誇りも、力も、欺きも、死もある。
そして、それらすべてが、これからもっと濃く交錯していく。
血で血は拭えない。
だが、それでも飛ぶ。
それが、彼女たちの選んだ空だった
だがその青は、平穏の色ではない。
バラード空軍基地に設置された全方位警戒レーダーが
低く、しかし確実な脅威を捉えたのは、午前七時二二分。
警報音は一瞬の躊躇もなく基地全域に響き渡り
次の瞬間には、赤色灯が滑走路と格納庫、兵舎と管制塔を不規則に照らし始めた。
「スクランブル! 全防空隊、即応発進!」
管制塔から放たれた声は、感情を排した硬質なものだった。
だがそれは、聞く者の背筋を否応なく伸ばすだけの圧を持っていた。
敵編隊来襲中
ハーギア連邦空軍。
MiG-29 三二機、Tu-22M 八機。
進路は北東、海上を這うように南下中。
目標は、バラード空軍基地。
休憩所にいた搭乗員たちは、椅子を蹴り、床を踏み鳴らし、一斉に走り出した。
コンクリートの廊下に響くブーツの音が、まるで太鼓の連打のように重なる。
「来たな」
誰かがそう呟いた。
それは恐怖ではなく、覚悟の確認だった。
クラウ隊の先頭を走るのは、ナノリ・ヒューヴ少佐。
TACネーム、フーシェン。
二八歳。
セネアトバトス空軍きっての冷静沈着な女性パイロットであり
この混成防空部隊の事実上の楔だった。
「走れ。置いていくぞ」
振り返らずにそう言い放つ声は、淡々としている。
だがそれが、どれほど部下を安心させているかを、彼女自身は知らない。
そのすぐ後ろを、軽やかな足取りで走る男がいた。
ジェイグ・ホンクス大尉。
ソラリス空軍所属。
TACネーム、スウィンダラー。
三一歳。
口元には、いつものように薄い笑みが浮かんでいる。
「いやあ、朝から景気がいいね。今日は何機いけるかな」
「黙って走れ」
フーシェンが即座に切り捨てる。
三番目は、キルギア空軍のハンス・ヒューヴェン中尉。
TACネーム、スナイパー。
二六歳。
長身で、どこか爽やかな雰囲気を持つ青年だが
戦闘に入ると、その名の通り、冷酷なまでの精密さを見せる。
「敵が多いほど、狙いは絞りやすいですよ」
そう言って肩をすくめる余裕がある。
四番機、ヒューリ・ジェニー中尉。
TACネーム、ブリュンヒルデ。
二八歳。
セネアトバトス空軍の叩き上げ。
寡黙で、整備員への一礼を欠かさない律儀さを持つ。
そして最後尾。
五番機。
ヨツセ・リカ少尉。
TACネーム、アリス。
二三歳。
新米。
だが、誰よりも静かで、誰よりも速く走っていた。
彼女の表情は、驚くほど落ち着いている。
心拍は上がっている。
だがそれは恐怖ではない。
空へ行ける、その一点に意識が収束していた。
バンカーに並ぶ五機の戦闘機。
F-15C 四機と、F-15EX 一機。
機体はすでに整備を終え、燃料と兵装を満載して待っていた。
「クラウ隊、搭乗!」
フーシェンの号令とともに、搭乗員たちはそれぞれの梯子を駆け上がる。
キャノピーが閉じ、外界の音が遮断されると、世界は一気に狭まった。
リカは、シートに体を沈め、ヘルメットを被り、チェックリストをなぞる。
呼吸は一定。
手は震えていない。
「クラウ5、システムチェックグリーン」
自分の声が、驚くほど澄んで聞こえた。
「クラウ1、全機、エンジンスタート」
滑走路に、低く、だが圧倒的な轟音が満ちる。
F-15の双発エンジンが、まるで獣のように吠えた。
「バラードタワー、こちらクラウ隊。発進許可を要請」
「クラウ隊、発進を許可する。幸運を祈る」
「幸運はいらない。仕事をするだけだ」
フーシェンの一言と同時に、機体は走り出した。
次々と離陸する防空隊。
クラウ隊を先頭に、バラード基地の空が、戦闘の色へと塗り替えられていく。
高度八〇〇〇メートル。
敵来襲高度より一〇〇〇メートル上。
太陽を背にした、理想的な位置。
「敵影確認。MiG-29、編隊密集。爆撃機は後方だ」
「了解。初手で叩く」
フーシェンの声に、迷いはない。
「クラウ隊、攻撃開始。各機、自由に狩れ」
「アバランチ1より各機へ 全機槍を放て Fox4 Fox4」
F/A-18のアバランチ隊がAMRARMを放つ
その瞬間、空が裂けた。
ミサイルの白煙が、何本も空を引き裂く。
MiG-29の編隊が混乱し、散開するのが見える。
「クラウ5、行くよ」
リカは、機体を急降下させた。
重力が体を押し潰そうとする。
だが、彼女の操縦は、それを拒絶する。
まるで、機体と一体になったかのようだった。
照準。
ロック。
「フォックスツー」
一機目のMiG-29が、火球に変わる。
間髪入れず、二機目。
回避機動を取る敵を、低空へと追い込む。
「逃がさない」
三機目。
爆炎が連なり、空に黒煙が立ち上る。
「MiG-29、三機撃墜」
淡々とした報告。
だが、そこに驕りはない。
次に狙うのは、後方のTu-22M。
大型爆撃機。
鈍重だが、放置すれば基地は焼け野原になる。
「クラウ5、爆撃機に取り付く」
一機。
エンジン部に命中。
二機目。
胴体が裂け、ゆっくりと墜ちていく。
「Tu-22M、二機撃墜」
「新人、やるじゃないか!」
スウィンダラーの声が、楽しげに響く。
彼は彼で、二機のTu-22Mを仕留めていた。
混戦に紛れ、撃墜数を稼ぐのは、彼の十八番だ。
「クラウ2、今日も絶好調だ」
「余計なこと言ってないで警戒を続けろ」
フーシェンは、MiG-29を二機、確実に落としていた。
無駄のない機動。
一切の焦りがない。
ブリュンヒルデが一機。
スナイパーが他隊との連携で二機。
だが、空戦はそこで終わらなかった。
「低空! 増援だ!」
レーダーが、新たな反応を捉える。
低高度を這うように侵入してきた、Tu-22M 六機、MiG-29 八機。
「しまった、潜られた!」
「追うな、基地防空を優先しろ!」
判断は正しい。
だが、その一瞬の隙を、敵は突いた。
爆撃機が、基地に向けて進路を取る。
「間に合え……!」
その時だった。
「フェンリル師団、参戦する」
低く、重い声が無線に割り込む。
キルギア空軍、第2飛行師団。
Su-35SM 二八機。
空が、再び震えた。
「フォーメーションを組み直せ。数で押す」
フェンリルの隊長の言葉通り、戦線は立て直される。
低空の敵機は、次々と撃墜されていった。
最終的な戦果。
Tu-22M 十二機撃墜。
MiG-29 十六機撃墜。
味方の損害は、バンカー隊の一機被弾。
だが、搭乗員は無事。
「バラード基地、防空成功」
その報告が流れた時、空には、まだ黒煙が漂っていた。
リカは、静かに呼吸を整えながら、青空を見上げた。
勝った。
だが、これは始まりに過ぎない。
「アリス、よくやった」
フーシェンの声が、穏やかに響く。
「……はい」
短く答えながら、リカは思う。
この空には、誇りも、力も、欺きも、死もある。
そして、それらすべてが、これからもっと濃く交錯していく。
血で血は拭えない。
だが、それでも飛ぶ。
それが、彼女たちの選んだ空だった
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