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虚空の猟鳥
地上ーーバラード基地
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空を見上げている余裕など、本来はなかった。
だが、誰もが無意識に視線を上げてしまう。
それほどまでに、空は騒がしかった。
管制塔のガラスが、低く震えている。
エンジン音。
ミサイルの衝撃波。
遠くで爆ぜる音が、時間差で腹に響く。
「高度八〇〇〇、クラウ隊、交戦開始確認」
若い管制官が、喉を鳴らしながら報告する。
指先は震えているが、声は裏返らない。
管制塔内部は、異様な静けさに包まれていた。
誰もが声を潜め、ヘッドセット越しの音に集中している。
「MiG-29、散開……くそ、数が多い」
レーダー担当の下士官が、歯を食いしばる。
画面上の光点が、一気に広がった。
「爆撃機編隊、後方。進路、バラード基地に直線」
「迎撃は?」
「クラウ隊が噛みついてる。だが――」
言葉の続きを、誰も促さなかった。
足りない。
それは全員が理解している。
滑走路脇では、対空砲部隊がすでに配置についていた。
レール上を滑るように砲身が上を向く。
「まだだ……撃つな、指示待ちだ」
砲員の一人が、無意識に空を睨む。
肉眼では、点にしか見えない。
だが、それが死を運んでくることだけは、嫌というほど分かる。
「……落ちた」
誰かが呟いた。
遠方で、黒い煙が一つ、空に咲いた。
それを皮切りに、次々と。
「一機撃墜確認!」
「いや、二機だ、二機!」
管制塔に、抑えきれないざわめきが走る。
「クラウ5、MiG-29を……三機? 本当か?」
「確認した。誤認じゃない」
一瞬の沈黙。
それから、誰かが小さく息を吸った。
「新人だぞ……」
「関係ない。今は、味方だ」
整備区画では、出撃できなかった整備員たちが、固唾を飲んで空を見ていた。
彼らの仕事は終わっている。
あとは、無事に帰ってくることを祈るしかない。
「頼むから、無茶はするなよ……」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
突然、警報が一段高い音に変わった。
「低空接近! 新手だ!」
「何だと!?」
レーダー画面に、また光点が現れる。
低く、速い。
「潜ってきやがった……!」
管制塔の空気が、一気に張り詰めた。
「爆撃機が抜けるぞ!」
「対空砲、準備!」
「まだだ、撃つな、味方がいる!」
対空砲員が、歯を食いしばり、引き金にかけた指を止める。
撃てば、味方も巻き込む距離だ。
その時。
「――フェンリル師団、来たぞ」
誰かが、震える声で言った。
空の北側。
新たな轟音が、波のように押し寄せる。
「味方識別、キルギア機だ!」
「数が……多い……!」
管制塔に、安堵とも驚愕ともつかない吐息が漏れる。
「戦線、立て直し確認」
「敵、押し返されてる」
対空砲員の一人が、ようやく息を吐いた。
「……生きてる」
誰かが言った。
基地が。
自分たちが。
やがて、空の音が、少しずつ遠ざかっていく。
「防空成功」
その言葉が告げられた瞬間、
誰も歓声を上げなかった。
ただ、椅子に深く座り直す者。
ヘルメットを脱ぎ、額を拭う者。
黙って空を見上げる者。
勝った。
だが、それは今日一日、生き延びたという意味でしかない。
整備員の一人が、ぽつりと呟いた。
「……あの子たち、また戻ってくるんだよな」
誰も答えなかった。
だが全員が、同じ空を見ていた。
まだ、戦争は始まったばかりだ
だが、誰もが無意識に視線を上げてしまう。
それほどまでに、空は騒がしかった。
管制塔のガラスが、低く震えている。
エンジン音。
ミサイルの衝撃波。
遠くで爆ぜる音が、時間差で腹に響く。
「高度八〇〇〇、クラウ隊、交戦開始確認」
若い管制官が、喉を鳴らしながら報告する。
指先は震えているが、声は裏返らない。
管制塔内部は、異様な静けさに包まれていた。
誰もが声を潜め、ヘッドセット越しの音に集中している。
「MiG-29、散開……くそ、数が多い」
レーダー担当の下士官が、歯を食いしばる。
画面上の光点が、一気に広がった。
「爆撃機編隊、後方。進路、バラード基地に直線」
「迎撃は?」
「クラウ隊が噛みついてる。だが――」
言葉の続きを、誰も促さなかった。
足りない。
それは全員が理解している。
滑走路脇では、対空砲部隊がすでに配置についていた。
レール上を滑るように砲身が上を向く。
「まだだ……撃つな、指示待ちだ」
砲員の一人が、無意識に空を睨む。
肉眼では、点にしか見えない。
だが、それが死を運んでくることだけは、嫌というほど分かる。
「……落ちた」
誰かが呟いた。
遠方で、黒い煙が一つ、空に咲いた。
それを皮切りに、次々と。
「一機撃墜確認!」
「いや、二機だ、二機!」
管制塔に、抑えきれないざわめきが走る。
「クラウ5、MiG-29を……三機? 本当か?」
「確認した。誤認じゃない」
一瞬の沈黙。
それから、誰かが小さく息を吸った。
「新人だぞ……」
「関係ない。今は、味方だ」
整備区画では、出撃できなかった整備員たちが、固唾を飲んで空を見ていた。
彼らの仕事は終わっている。
あとは、無事に帰ってくることを祈るしかない。
「頼むから、無茶はするなよ……」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
突然、警報が一段高い音に変わった。
「低空接近! 新手だ!」
「何だと!?」
レーダー画面に、また光点が現れる。
低く、速い。
「潜ってきやがった……!」
管制塔の空気が、一気に張り詰めた。
「爆撃機が抜けるぞ!」
「対空砲、準備!」
「まだだ、撃つな、味方がいる!」
対空砲員が、歯を食いしばり、引き金にかけた指を止める。
撃てば、味方も巻き込む距離だ。
その時。
「――フェンリル師団、来たぞ」
誰かが、震える声で言った。
空の北側。
新たな轟音が、波のように押し寄せる。
「味方識別、キルギア機だ!」
「数が……多い……!」
管制塔に、安堵とも驚愕ともつかない吐息が漏れる。
「戦線、立て直し確認」
「敵、押し返されてる」
対空砲員の一人が、ようやく息を吐いた。
「……生きてる」
誰かが言った。
基地が。
自分たちが。
やがて、空の音が、少しずつ遠ざかっていく。
「防空成功」
その言葉が告げられた瞬間、
誰も歓声を上げなかった。
ただ、椅子に深く座り直す者。
ヘルメットを脱ぎ、額を拭う者。
黙って空を見上げる者。
勝った。
だが、それは今日一日、生き延びたという意味でしかない。
整備員の一人が、ぽつりと呟いた。
「……あの子たち、また戻ってくるんだよな」
誰も答えなかった。
だが全員が、同じ空を見ていた。
まだ、戦争は始まったばかりだ
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