ACES IN SKIES

みにみ

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虚空の猟鳥

ファーストショット

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バラード空軍基地の地下ブリーフィングルームには、低い唸りのような緊張が満ちていた。
壁一面に投影された戦域図には、敵占領地域と予定上陸地点が赤と青で明確に区分されている。照明は最低限に落とされ、誰もがその地図から目を離さなかった。
最前列に立つのは、AWACS指揮官ジョシュア・ゲイリー少佐だった。
彼は肩の力を抜いた口調を保ちながらも、目だけは鋭く参加者全員を見渡している。
「改めて説明する。今回の作戦名はファーストショットだ」
その言葉に、空気がわずかに引き締まった。
ゲイリーは続ける。
「これは反撃の第一射だ。取り返すための戦争が、ここから始まる」
スクリーンが切り替わり、リューヴァ港湾地区の航空写真が映し出される。
敵の簡易レーダー拠点、沿岸防空陣地、占領後に設置された臨時航空施設が赤枠で示されていた。
「夜明け直前、我々は制空戦闘を開始する。主目標は敵迎撃隊の拘束と撃破。上陸部隊が接岸するまで、空を空白にする」
後方に並ぶ各飛行隊の隊長たちが、無言で頷いた。
クラウ隊もその一角にいた。
ナノリ・ヒューヴ少佐――フーシェンは、腕を組んだまま画面を見つめている。
その隣で、ヨツセ・リカ少尉は背筋を伸ばし、ただ静かに話を聞いていた。
「クラウ隊は前進制空。敵の主迎撃を引きつける役目だ。リスクは高いが、成功すれば上陸作戦全体が楽になる」
ゲイリーは一瞬、言葉を切った。
「君たちには、もう名前が付いている。FCFの中じゃ、エース部隊候補だ」
ざわめきが起きかけたが、すぐに収まった。
リカはその言葉を、実感として受け取ることができなかった。ただ、空でやるべきことがある。それだけだった。
ブリーフィングの最後、フーシェンが立ち上がった。
「質問はある?」
誰も口を開かなかった。
覚悟はすでにできている。
夜明け前の滑走路は、霧に包まれていた。
海から流れ込む冷たい空気が、機体の輪郭をぼやけさせている。
整備員たちが最後の確認を終え、次々に親指を立てた。
F-15Cのエンジンが始動し、低く、力強い振動が地面を伝ってくる。
「クラウ隊、各機チェック完了」
フーシェンの声がインカムに響く。
「クラウ1、異常なし」
「クラウ2、問題ない。さっさと行こうぜ」
「クラウ3、システムグリーン」
「クラウ4、準備完了」
「クラウ5、異常ありません」
最後の声は短く、落ち着いていた。
リカは前方の闇を見据えている。
タワーからの発進許可が下り、編隊は順に滑走路へ進んだ。
アフターバーナーが点火され、夜の静寂が引き裂かれる。
上昇。
雲を抜けると、東の空がわずかに白み始めていた。
「高度一万。進路そのまま」
フーシェンの指示に従い、編隊は速度を維持する。
下方には、これから戦場になる海と陸地が広がっている。
「オウルアイより各機。敵迎撃隊、予測通り発進開始。数は多いが統制が甘い」
ゲイリーの声は、淡々としていた。
「ファーストショット、予定通りだ」
その言葉が、合図だった。
敵影がレーダーに映る。
MiG-29を主とした混成編隊。高度も速度もばらつきがある。
「数で来るぞ」
スウィンダラーが呟く。
「構わない。こちらは連携で行く」
フーシェンは即座に判断を下した。
「クラウ隊、分散。各機、自由交戦」
空が、一気に騒がしくなる。
警報音、管制の声、味方のコールサインが交錯する。
リカは深呼吸を一つした。
視界が研ぎ澄まされ、無駄な音が消えていく。
敵機が正面から突っ込んでくる。
彼女は機体を軽く傾け、速度を落とし、相手を引き込んだ。
空戦は舞に似ている。
相手の動きを読み、先を取り、無理をしない。
「クラウ5、撃墜一」
短い報告。
続けて二機目。
誰かが無線で叫ぶ。
「すげえ……」
リカは意識していなかった。
ただ、空が示す最適な軌道をなぞっているだけだった。
その動きを、味方も見ていた。
そして、無意識のうちに理解する。
この戦場には、流れがある。
そしてその中心にいるのが、クラウ5だ。
「……あれが、隕石か」
誰かがそう呟いた。
オウルアイが続ける。
「各機へ。上陸部隊、予定通り前進中。空は取れている」
フーシェンは短く答えた。
「了解」
そして、一言付け加える。
「いい仕事だ、クラウ」
その瞬間、誰かが言った。
「隕石とともにあらんことを」
意味は曖昧だった。
だが、不思議と全員が納得した。
破壊と再生。
終わりと始まり。
その言葉は、この朝に生まれた。
やがてバラードを越え、FCF全体へ広がっていくことになる。
夜明けの空で、最初の反撃は成功していた。
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