ACES IN SKIES

みにみ

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大陸の魔鳥

シルバーナイフ作戦 前編

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ヒュースポイント北部空域第四空軍管区、シリラット基地。
夜明け前の滑走路は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
海から吹き上げる湿った風が、照明に照らされた機体の腹をなぞり
低く唸る発電機の音だけが基地全体を満たしている。
クラウ隊の機体は、他の部隊からわずかに距離を置いて並べられていた。
それは偶然ではなかった。
基地司令部の意図でもあり、現場の暗黙の了解でもあった。

「……随分と扱いが変わったものだな」
スウィンダラーが、ヘルメットを脇に抱えながら小さく笑った。
その声には軽口特有の明るさはなく、どこか乾いた響きがあった。

「英雄様は、集団から離しておく。よくある話だ」
フーシェンは淡々と言った。
その言葉に自嘲はなかった。ただ事実を述べているだけだった。
救難作戦の報告が上がった翌日から、空気は変わった。

フェンリル師団の損耗、ゴーレム隊の喪失、そして救えなかった人間の数。
勝利として処理された戦果の裏側で、数字にならない死が積み上がっていた。
だが同時に、前線から奇妙な言葉が戻ってきていた。

――あの時、上空にいたのはクラウ隊だ。
――隕石みたいに突っ込んできた。
――敵が動けなくなった。
最初は誇張だと思われていた。
だが報告は複数の部隊、複数の地域から重なり始めた。
「クラウ隊」
そして、誰かが付けた二つ名。
「隕石部隊」
その言葉が、いつの間にか通信の端々に混じるようになっていた。
リカは、自分の機体の下で立ち止まり、翼を見上げていた。
整備灯に照らされたF-15Cの機体は
いつもと何も変わらない。ただの戦闘機だ。
そこに名前が付いたわけでも、印が描かれたわけでもない。
それでも、見られ方は変わった。
整備員の視線。
通り過ぎる他部隊の搭乗員の沈黙。
誰もが一度、こちらを見てから目を逸らす。

「……居心地、悪い?」
ブリュンヒルデが、隣に立って言った。

「別に」
リカは短く答えた。
「名前が広がるのは、良いことだと思う?」
「さあ」
少し考えてから、リカは続けた。
「落ちる時は、名前なんて関係ないから」

ブリュンヒルデは笑わなかった。
ただ、同じように機体を見上げた。
ブリーフィングルームは、静まり返っていた。


壁一面に投影された作戦図には
敵占領地域の奥深く、赤い点が一つ浮かび上がっている。
「目標は、ここだ」
オウルアイ――ジョシュア・ゲイリー少佐が指し示す。
「ハーギア連邦軍、西部方面航空軍兼機械化師団司令部。地下施設を含む指揮中枢だ」
ざわめきは起きなかった。
参加する部隊の全員が、この任務の意味を理解していた。
「成功すれば、敵の航空運用と地上指揮は数日間麻痺する。失敗すれば……」
言葉は続かなかった。
続ける必要がなかった。
「クラウ隊が主打撃。アバランチ隊は囮、フェンリル残存機が高高度警戒だ」
視線が、自然とクラウ隊に集まる。
「なぜ我々ですか」
フーシェンが、形式的に聞いた。
ゲイリー少佐は一瞬だけ間を置いた。
「一番、通って帰ってきたからだ」
それ以上の説明はなかった。
発進は夜明けと同時だった。
機体は順番に滑走路へ出て、音を抑えた加速で空へと浮かび上がる。
クラウ隊は縦列を組み、低空で海岸線に沿って進んだ。
レーダーは必要最低限、通信も最小限。
敵防空網の隙間を縫うような航路が、事前に細かく設定されている。
空は静かだった。
静かすぎるほどに。

「……嫌な感じだな」
スナイパーが呟く。
「敵が無能だと思うより、準備してると思った方がいい」
フーシェンの声は冷静だった。
侵入開始から三十分。
敵領空深くに入り込んだが、迎撃反応はない。
レーダーサイトも沈黙している。

「司令部、反応なし」
オウルアイが告げる。
「だが安心するな。敵が何もしていないわけがない」
その言葉通り、空気は徐々に重くなっていった。
見えない視線が、どこかからこちらを追っている感覚。
「……来るなら、そろそろだ」
リカはそう思いながら、操縦桿を握り直した。
クラウ隊は予定通り、目標上空へと進路を取る。
まだ迎撃はない。
だが、それは嵐の前の静けさだった。
この空域で何かが起きる。
それだけは、全員が確信していた。
そしてこの時点で、前線の通信網には
短い報告が流れ始めていた。

――敵中枢に侵入中。
――クラウ隊、健在。
――隕石部隊、前進中。

名前が、静かに、しかし確実に広がっていく。
その意味と代償を、まだ誰も知らないまま。
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