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大陸の魔鳥
沈黙の空 奪い返した空
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サーリア9は、帰投中も一言も発しなかった。
無線は生きている。
計器も正常。
編隊も崩れていない。
だが、彼だけが、沈黙していた。
「……9?」
サーリア11が、恐る恐る呼びかける。
返答はない。
レギンレイヴ隊は、夕焼けに染まる雲海を割りながら、基地へ向かっていた。
だがその飛行は、勝利後のものではなかった。
誰一人として、速度を上げようとしない。
誰一人として、雑談をしない。
彼らは全員、知っていた。
――サーリア15が、戻らない。
着陸後、サーリア9は機体から降りなかった。
整備兵が梯子をかけても、コックピットは開かれない。
「……少佐」
副官が、滑走路の端で立ち尽くす。
数分後、ようやくキャノピーが開いた。
サーリア9は、ゆっくりと地面に降り立った。
足取りは確かだが、視線は地を見ている。
「……サーリア15は?」
誰かが聞いた。
サーリア9は、しばらく黙ったまま、空を見上げた。
その空には、さきほどまで彼女がいた。
「……戦死だ」
それだけだった。
声は、驚くほど平坦だった。
怒りも、悲しみも、滲ませない。
だが、次の言葉が続かなかった。
司令部へ戻る途中、彼は一人で歩いた。
部下も、副官も、誰も伴わない。
作戦室で、上官が言う。
「DTSは、完全に沈黙した」
「……そうか」
「敵航空隊の損耗は軽微だが、象徴的意味は大きい」
「……そうだろうな」
サーリア9は、椅子に腰を下ろしたまま、動かない。
「第18臨戦の再編を――」
「待て」
初めて、強い声が出た。
「……あれは、無駄死にじゃない」
誰に向けた言葉かは、わからない。
「俺たちは……空を失ったわけじゃない」
だが、彼自身が、それを信じきれていないことは、誰の目にも明らかだった。
彼は知っていた。
今日の戦いで、何が起きたのかを。
――DTSが破壊された瞬間、空は再び「人のもの」になった。
それは、ハーギアが握っていた“絶対”が崩れたことを意味する。
そしてもう一つ。
――FCFには、自分たちと同じか、それ以上の存在がいる。
サーリア9は、静かに目を閉じた。
「……アリス」
敵の名を、初めて口にした。
リカのF-15は、最後まで持たなかった。
ヒュースポイント北方空域で、右尾翼の振動が限界に達した。
操縦系統が、断続的に応答を失う。
「クラウ5、これ以上は……」
オウルアイが言い切る前に、リカは答えた。
「……降ろす」
滑走路への最終進入。
機体は、常に右へ流れようとする。
「補助推力、最大」
「了解」
着陸の瞬間、脚が跳ねた。
だが、止まった。
機体は、炎も煙も出さずに、ただ静かにそこにいた。
「……帰ってきた」
スウィンダラーが呟く。
整備班が群がる。
だが、彼らの顔はすぐに曇った。
「……ダメだな」
主任整備士が、はっきり言った。
「構造材まで逝ってる。応急修理じゃ飛ばせない」
「完全修理は?」
「最低でも、数か月。下手すりゃ、機体交換だ」
その言葉に、誰も反論しなかった。
リカは、機体を見上げる。
このF-15は、彼女を何度も空へ連れて行った。
数え切れないほどの戦場を、共に越えた。
「……よく、耐えてくれた」
機体に触れながら、そう言った。
フーシェンが近づく。
「……独断専行については、後で説教だ」
「……はい」
「だが――」
一拍置いて、続ける。
「お前がいなければ、もっと死んでいた」
その言葉は、許しでも称賛でもない事実だった。
その夜、FCF連合上級戦闘司令部は、緊急会合を開いた。
議題は一つ。
――戦争の位相が変わった。
DTSの破壊は、単なる兵器喪失ではない。
ハーギアが持っていた「侵入不能の空域」が消えたのだ。
「上陸部隊の進撃速度が、三倍に跳ね上がっています」
「航空優勢ラインが、一気に前進しました」
「敵の防衛線は、再構築が追いついていない」
誰もが、同じことを感じていた。
――これは、押し返す戦争になった。
その頃、前線では別の変化が起きていた。
「……聞いたか?」
「DTS、落ちたってよ」
「マジか……」
「クラウ隊がやったらしい」
兵士たちは、夜空を見上げる。
そこには、もう“撃ち落とされる空”はない。
いつの間にか、誰かが言った。
「……隕石は、落ちるもんじゃなかったんだな」
別の誰かが、続ける。
「……ああ。撃ち返すもんだった」
その言葉は、ゆっくりと広がっていく。
やがて、前線でも後方でも、同じ合言葉が交わされるようになる。
――隕石とともにあらんことを。
それは、祈りでも、呪文でもない。
「俺たちは、まだ戦える」
そう言い聞かせるための、言葉だった。
リカは、基地の外れで一人、空を見ていた。
星は、変わらずそこにある。
だが、今日から、この空は違う。
「……血で血は、拭えない」
それでも。
「……空は、渡さない」
その背後で、クラウ隊のエンブレムが、ライトに照らされていた。
隕石の軌跡と、五本の剣。
五本のうち、何本が残るのか。
誰も、答えを知らない。
だが、この夜、確かなことが一つあった。
――戦争は、確かに転換した。
そしてその中心に、名を持たぬ一人の少女と、
空を駆けるACEたちがいた。
無線は生きている。
計器も正常。
編隊も崩れていない。
だが、彼だけが、沈黙していた。
「……9?」
サーリア11が、恐る恐る呼びかける。
返答はない。
レギンレイヴ隊は、夕焼けに染まる雲海を割りながら、基地へ向かっていた。
だがその飛行は、勝利後のものではなかった。
誰一人として、速度を上げようとしない。
誰一人として、雑談をしない。
彼らは全員、知っていた。
――サーリア15が、戻らない。
着陸後、サーリア9は機体から降りなかった。
整備兵が梯子をかけても、コックピットは開かれない。
「……少佐」
副官が、滑走路の端で立ち尽くす。
数分後、ようやくキャノピーが開いた。
サーリア9は、ゆっくりと地面に降り立った。
足取りは確かだが、視線は地を見ている。
「……サーリア15は?」
誰かが聞いた。
サーリア9は、しばらく黙ったまま、空を見上げた。
その空には、さきほどまで彼女がいた。
「……戦死だ」
それだけだった。
声は、驚くほど平坦だった。
怒りも、悲しみも、滲ませない。
だが、次の言葉が続かなかった。
司令部へ戻る途中、彼は一人で歩いた。
部下も、副官も、誰も伴わない。
作戦室で、上官が言う。
「DTSは、完全に沈黙した」
「……そうか」
「敵航空隊の損耗は軽微だが、象徴的意味は大きい」
「……そうだろうな」
サーリア9は、椅子に腰を下ろしたまま、動かない。
「第18臨戦の再編を――」
「待て」
初めて、強い声が出た。
「……あれは、無駄死にじゃない」
誰に向けた言葉かは、わからない。
「俺たちは……空を失ったわけじゃない」
だが、彼自身が、それを信じきれていないことは、誰の目にも明らかだった。
彼は知っていた。
今日の戦いで、何が起きたのかを。
――DTSが破壊された瞬間、空は再び「人のもの」になった。
それは、ハーギアが握っていた“絶対”が崩れたことを意味する。
そしてもう一つ。
――FCFには、自分たちと同じか、それ以上の存在がいる。
サーリア9は、静かに目を閉じた。
「……アリス」
敵の名を、初めて口にした。
リカのF-15は、最後まで持たなかった。
ヒュースポイント北方空域で、右尾翼の振動が限界に達した。
操縦系統が、断続的に応答を失う。
「クラウ5、これ以上は……」
オウルアイが言い切る前に、リカは答えた。
「……降ろす」
滑走路への最終進入。
機体は、常に右へ流れようとする。
「補助推力、最大」
「了解」
着陸の瞬間、脚が跳ねた。
だが、止まった。
機体は、炎も煙も出さずに、ただ静かにそこにいた。
「……帰ってきた」
スウィンダラーが呟く。
整備班が群がる。
だが、彼らの顔はすぐに曇った。
「……ダメだな」
主任整備士が、はっきり言った。
「構造材まで逝ってる。応急修理じゃ飛ばせない」
「完全修理は?」
「最低でも、数か月。下手すりゃ、機体交換だ」
その言葉に、誰も反論しなかった。
リカは、機体を見上げる。
このF-15は、彼女を何度も空へ連れて行った。
数え切れないほどの戦場を、共に越えた。
「……よく、耐えてくれた」
機体に触れながら、そう言った。
フーシェンが近づく。
「……独断専行については、後で説教だ」
「……はい」
「だが――」
一拍置いて、続ける。
「お前がいなければ、もっと死んでいた」
その言葉は、許しでも称賛でもない事実だった。
その夜、FCF連合上級戦闘司令部は、緊急会合を開いた。
議題は一つ。
――戦争の位相が変わった。
DTSの破壊は、単なる兵器喪失ではない。
ハーギアが持っていた「侵入不能の空域」が消えたのだ。
「上陸部隊の進撃速度が、三倍に跳ね上がっています」
「航空優勢ラインが、一気に前進しました」
「敵の防衛線は、再構築が追いついていない」
誰もが、同じことを感じていた。
――これは、押し返す戦争になった。
その頃、前線では別の変化が起きていた。
「……聞いたか?」
「DTS、落ちたってよ」
「マジか……」
「クラウ隊がやったらしい」
兵士たちは、夜空を見上げる。
そこには、もう“撃ち落とされる空”はない。
いつの間にか、誰かが言った。
「……隕石は、落ちるもんじゃなかったんだな」
別の誰かが、続ける。
「……ああ。撃ち返すもんだった」
その言葉は、ゆっくりと広がっていく。
やがて、前線でも後方でも、同じ合言葉が交わされるようになる。
――隕石とともにあらんことを。
それは、祈りでも、呪文でもない。
「俺たちは、まだ戦える」
そう言い聞かせるための、言葉だった。
リカは、基地の外れで一人、空を見ていた。
星は、変わらずそこにある。
だが、今日から、この空は違う。
「……血で血は、拭えない」
それでも。
「……空は、渡さない」
その背後で、クラウ隊のエンブレムが、ライトに照らされていた。
隕石の軌跡と、五本の剣。
五本のうち、何本が残るのか。
誰も、答えを知らない。
だが、この夜、確かなことが一つあった。
――戦争は、確かに転換した。
そしてその中心に、名を持たぬ一人の少女と、
空を駆けるACEたちがいた。
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