ACES IN SKIES

みにみ

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大陸の魔鳥

不沈艦隊

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――ヒュースポイント作戦区域/連合統合司令部

最初に沈黙したのは、誰でもなかった。
部屋そのものだった。
大型スクリーンに投影された一枚の偵察写真。
そこに映っているものを、誰もが「理解」した瞬間、
統合司令部の空気は、まるで酸素を抜かれたように凍りついた。
港湾一帯を覆い尽くす、鉄の森。
艦影、艦影、艦影――重なり合い、埋め尽くし、逃げ場を塞ぐ。
空母四隻。戦艦二隻。巡洋艦七。
駆逐艦三十八。補給艦、揚陸艦、支援艦を含めれば、数はさらに増える。

「……冗談だろ」
誰かが、誰に向けるでもなく呟いた。
ジャセネガ、ポーワ軍港。
ハーギア西遣艦隊、三個機動艦隊の集結地。
不沈艦隊。
それが、この艦隊につけられた通称だった。

「――解析、続けろ」
統合司令官の声は低く、感情を抑え込んでいた。
だが、その指が机の縁を強く掴んでいるのを、周囲は見逃さなかった。
「防空網、三重。
 長SAM、中SAM、近接CIWS。電子戦担当艦含む。
 艦載機の即応発艦可能数、推定六十以上」
スクリーンに次々と重ねられる赤い円。
射程、迎撃圏、重なり合う死の網。

「正面から入ったら……」
誰かが言いかけて、言葉を切った。
言わなくても、わかっている。
正面からやれば全滅する。
航空部隊も。
上陸部隊も。
ヒュースポイントから積み上げてきた、すべてが。
「……DTSを失っても、まだこれだけの力を残しているとはな」
参謀の一人が、苦々しく吐き捨てる。
DTS。
空を殺す神の砲。
あれを叩き潰したことで、戦争は転換した――
誰もがそう思っていた。
だが、海は違った。
ハーギアは、まだ死んでいなかった。
司令部の視線が、自然と一方向に集まっていく。
後方、壁際。
パイロットたちが並ぶ場所。
その中で、ひときわ静かに立っている一団。
青を基調としたパッチ。隕石の軌跡と、五本の剣。
――クラウ隊。

「……隕石部隊なら、やれるのか?」
誰かが、はっきりと口にした。
その瞬間、空気が張り詰める。
期待と、恐怖と、責任。
すべてを押し付けるような一言だった。
フーシェンは、ゆっくりと前に出た。
「やれるかどうか、じゃねぇ」
彼女の声は低く、だがよく通った。
「やるしかねぇ。ここを残せば、反攻される。
 上陸部隊も、補給線も、全部ひっくり返される」
沈黙。
反論は出なかった。
「航空部隊、全出撃」
統合司令官が、決断を口にする。
「時間はない。奇襲で叩く。失敗すれば――」
言葉を切り、司令官は一瞬だけ目を閉じた。
「この戦争は、長引く」
それはつまり、
もっと多くの命が消えるという意味だった。


ブリーフィングルーム。
作戦図の前に立つオウルアイの担当士官が、淡々と説明を続ける。
「全航空部隊、同時突入。
 進入高度、進入方位、すべて分散。
 敵防空網を飽和させる」
スクリーンには、無数の白線が引かれる。
どれも、帰って来られる保証のない線。
「クラウ隊は制空の要。
 フェンリルは近接対艦。
 他部隊は駆逐艦、巡洋艦を優先」
一拍。
「――YF-23、コールサイン“アリス”は、遊撃」
リカは、黙って頷いた。
Gray Ghost。
この機体の役割は、最初から決まっている。
見せない。
捕まらない。
だが、確実に致命傷を与える。
「失敗した場合」
誰かが、あえて聞いた。
オウルアイは、少し間を置いて答える。
「敵艦隊は健在。数日以内に反攻。
 ヒュースポイントは包囲される」
それ以上は言わなかった。
言う必要がないからだ。
ブリーフィングが終わり、パイロットたちはそれぞれ立ち上がる。
スウィンダラーが、肩を回しながら言った。
「相手は化け物艦隊、か。
 ……ま、隕石落とす相手にしちゃ、ちょうどいいんじゃない?」
「縁起でもないこと言わないでよ」

ブリュンヒルデが即座に返す。
「でも」
リカは、静かに口を開いた。
「空は、まだ私たちのものだ」

その一言に、クラウ隊の視線が集まる。
スナイパーが、短く笑った。
「じゃあ、奪われる前に叩き落とすか」
フーシェンは、全員を見回し、最後に言った。
「生きて帰るぞ。
 ――それだけは、絶対だ」
夜。
滑走路の灯が、一本ずつ点灯していく。
エンジン音が、低く、重く、連なり始める。
無数の航空機。
この戦争で、最大規模の一斉出撃。
港では、まだ何も起きていない。
だが、確実に――
嵐は、もう空にある。
そしてその嵐の中心には、
名を刻まれた部隊がいた。
――クラウ隊。
――隕石部隊。
誰もが知っている。
この夜を越えられるかどうかで、
戦争の行方は決まる。
それでも、やるしかない。
空を駆ける者たちには、
逃げ場など、最初から存在しないのだから。
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