装甲航空母艦信濃      南東の海へといざ参らん

みにみ

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トラック泊地防衛戦

埠頭の別れ

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1944年6月5日、午前6時
トラック泊地の埠頭は、朝靄に包まれながらも静かな別れの時を迎えていた
応急修理を終えた空母翔鶴は、黒焦げの飛行甲板を晒しながら
駆逐艦秋月と霜月に護衛されて呉へ向かう準備を整えていた
埠頭には整備員や水兵が集まり、翔鶴の乗組員に敬礼を送る
信濃の艦橋で、阿部俊雄大佐は双眼鏡を手に、翔鶴の出港を見送った
副長の山田義雄中佐が隣に立ち、静かに言った。

「翔鶴が無事に呉に着けば、航空隊の再編に希望が持てます。」

阿部は無言で頷き、双眼鏡を下ろした
翔鶴の煙突から白い煙が上がり、艦がゆっくりと動き出す
泊地は静寂に包まれ、米軍の次の攻撃が近いことを予感させる重い空気が漂っていた。

前日の米軽空母4隻による空襲は
翔鶴を中破させ、瑞鶴の攻撃隊を壊滅させた
インディペンデンスとベロー・ウッドを中破させた戦果は
帝国海軍の意地を示したが、艦載機の7割を失い
若いパイロットたちの犠牲は阿部の胸を締め付けた
通信士が艦橋に駆け込み、報告した。

「翔鶴、航行開始!18ノットで呉へ向かいます
潜水艦の脅威を避けるため、マーシャル諸島を迂回するルートを選択!」

阿部は通信士に命じた。

「翔鶴に伝達。護衛の秋月、霜月に
 厳重な対潜警戒を指示しろ。敵潜水艦を逃すな。」

翔鶴のシルエットが朝靄に溶け、泊地の海は再び静寂に還った。
阿部は艦橋の窓から、信濃の飛行甲板を見下ろした。
残存の零戦と彗星が整備員の手で準備されているが
数があまりにも少ない。彼は山田に言った。

「翔鶴が抜けた今、泊地の防衛は
 信濃と瑞鶴にかかっている。艦載機の再編を急がねばならん。」


午前7時、通信室から意外な知らせが届いた
通信士が興奮した声で報告した。

「大本営から緊急連絡!駆逐隊護衛の高速輸送船団が明日到着予定!
 航空機輸送艦天竜丸と輸送艦百合花丸を含む!」

阿部の目が僅かに輝いた。

「天竜丸の搭載物は?詳細を教えろ。」

通信士が書類を手に続けた。

「天竜丸には基地航空隊用の新型戦闘機
 紫電一一型と紫電二一型が搭載!百合花丸には内地で紫電、紫電改の
 訓練を積んだ第三四一航空隊が乗船!」

艦橋にいた乗組員たちの間にどよめきが広がった
山田が笑みを浮かべ、言った。

「艦長、これは朗報です。紫電改の配備で航空戦力が強化されます。」

阿部は頷き、内心で安堵した
紫電改は、零戦を上回る速度と火力を誇る新型戦闘機
第三四一航空隊の到着は、訓練不足のパイロットを補う希望の光だ
艦隊に活気が溢れ、整備員たちが飛行甲板で作業を加速させた。

しかし、阿部の表情はすぐに厳しくなった
輸送船団の到着は米軍の目を引き、潜水艦や偵察機の攻撃を誘発する
通信士が追加の報告を上げた。

「ソロモン方面での米軍無電を傍受解読次第送ります
 追加で、ラバウル航空隊より入電 B-24の偵察と潜水艦の動きが頻発しています。」

阿部は海図を広げ、山田に命じた。

「輸送船団の護衛を強化しろ。瑞鶴の零戦で哨戒を増やし
 信濃の対空電探で敵の動きを監視。燃料は限られているが、船団を守る優先度が高い。」

山田が敬礼し、通信室に指示を伝えに行った
阿部は艦橋で、迫りくる戦いの重圧を感じた
紫電改と第三四一航空隊は戦局を変える可能性を秘めているが
燃料不足とパイロットの練度不足は依然として課題だ。


翔鶴は18ノットで航行し
潜水艦の脅威を避けるためマーシャル諸島を大きく迂回するルートを選択
秋月と霜月のソナーと爆雷が、潜水艦の接近を牽制
阿部は通信室で、翔鶴の航行状況を逐一確認。午前8時、翔鶴の艦長から無線が入った。

「翔鶴、順調に航行中。潜水艦の兆候なし。呉到着は6月10日予定。」

阿部は安堵の息をつき、無線で応えた。

「呉で艦載機とパイロットを立て直せ。トラックの未来はお前たちにかかっている。」

一方、トラック泊地では
信濃と瑞鶴の艦載機再編が急ピッチで進められた
信濃の飛行甲板では
残存の零戦26機、彗星18機、天山14機が整備され、瑞鶴も同様に準備
阿部はパイロット訓練を強化するため、飛行甲板での模擬戦闘を指示
訓練中、若いパイロットの一人、佐藤一郎少尉が阿部に進言した。

「艦長、俺たちはまだ未熟ですが
 トラックを守る覚悟はあります。どうか訓練を続けてください!」

阿部は佐藤の真剣な目に
トラック沖海戦で散った藤田少佐の面影を見た。彼は佐藤の肩を叩き、言った。

「その覚悟があれば十分だ。俺が必ずお前たちを一人前にしてやる。」

佐藤が敬礼し、訓練に戻る姿に、阿部はわずかな希望を見出した。


午後12時、信濃の艦橋で
阿部は一人、チューク沖海戦の勝利と現在の苦境を振り返った
あの戦いで森下少将は大和を率いて米艦隊を壊滅させたが
航空戦力の再建は遅れ、補給路の遮断が帝国海軍を締め上げている
乗組員の疲弊は明らかで、若いパイロットの喪失は阿部の心に深い傷を残した
燃料不足は戦略を縛り、信濃と瑞鶴は泊地に縛られたまま。

彼は艦橋の窓から、トラックの海を見渡した
波間に沈んだ補給船、墜落した零戦、炎上した翔鶴の飛行甲板が脳裏をよぎる
藤田少佐の笑顔が浮かび、胸が締め付けられた。

「藤田、俺はお前のようなパイロットを二度と失わん
 だが、この戦いはあまりにも厳しい…。」

阿部は目を閉じ、深呼吸した。輸送船団の到着は希望だが
米軍の反攻は待ってくれない。マーシャル諸島での活動活発化は
次の大規模攻撃――おそらく第二次マーシャル沖海戦の前触れだ。

山田が艦橋に戻り、報告した。

「艦長、瑞鶴の訓練が順調です
 紫電改の到着を待って、航空隊の再編を加速させます。」

阿部は頷き、力強く答えた。

「我々の戦いはまだ終わっていない。信濃が帝国の希望だ
 呉で翔鶴が復活し、紫電改がトラックを守る。次の戦いに備えろ。」

山田が敬礼し、通信室に指示を伝えに行った
阿部は海図を手に、輸送船団のルートを確認
紫電一一型、紫電改、第三四一航空隊の到着は、航空戦力の再建に不可欠だ
彼は呉での翔鶴の修理とパイロット訓練の成功を願い、決意を新たにした。

「トラックは俺たちが守る。信濃の飛行甲板から、帝国の反攻が始まる。」


午後2時、トラック泊地は再び静寂に包まれた
翔鶴の撤退で艦隊の戦力は減ったが、輸送船団の到着が乗組員に活気をもたらした
信濃の飛行甲板では、佐藤少尉ら若いパイロットが訓練を続け
整備員が零戦のエンジンを点検。瑞鶴も同様に準備を進め、泊地の対空砲陣地は警戒を強化した。

阿部は艦橋で、マーシャル諸島の米軍動向を分析
B-24の偵察と潜水艦の動きは
軽空母以上の大規模攻撃を予感させた。彼は通信士に命じた。

「大本営に連絡。輸送船団の護衛を最優先とし
 信濃と瑞鶴で迎撃態勢を整える。紫電改の配備を急がせろ。」

通信士が無線に向かい、阿部は海を見据えた
トラック泊地防衛戦は、翔鶴の撤退と航空戦力の喪失で危機を迎えたが
紫電改と第三四一航空隊の到着は新たな希望だ

次の戦いは、信濃の航空戦力にかかっている。
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