装甲航空母艦信濃 南東の海へといざ参らん

南洋諸島沖決戦

夜明けの海と迫る時

1944年1月18日、マリアナ近海の空が朝焼けに染まる。
連合艦隊の本隊甲部隊――空母大鳳、翔鶴、瑞鶴――は多少の傷を負いながらも
波を切り進む。飛行甲板には、紫電改ニと零戦が整然と並び
整備員たちが燃料と弾薬を補充。護衛の重巡妙高、羽黒
駆逐艦島風、雪風、霜月が周囲を固める。大鳳の艦橋では
小沢治三郎中将が双眼鏡を手に水平線を睨む。
夜戦で米重巡インディアナポリスを撃沈した戦果は、乗組員の士気を高めたが
米軍の圧倒的艦載機数――約850機残存――は依然脅威だった。

「敵の第二波が来る。」小沢の声は低く、決意に満ちていた。

参謀の田中司令が海図を指す。
「提督、彩雲の報告では、敵空母が攻撃隊を準備中。
　迎撃隊を整え、反撃の機会を待ちましょう。」小沢は頷き、

「迎撃戦闘機隊として紫電改ニと零戦を即刻発進させろ。
　信濃の天山隊でエセックスを叩く準備も進め。」命令が無線で飛び、各艦が動き出す。

信濃の艦橋では、阿部俊雄大佐が夜戦の報告を確認。
副長の山田義雄中佐が応じる。
「艦長、紫電改ニ20機、天山10機が準備完了　甲部隊からの指示でいつでも」

阿部は甲板を見下ろし
「米軍の空母を仕留めねば、マリアナは守れん。」と呟く。



米第58任務部隊の旗艦レキシントンIIでは
マーク・ミッチャー中将が作戦室で航空隊の編成を調整。
夜戦の混乱――インディアナポリスの喪失、駆逐艦2隻の無力化――は痛手だったが、
空母15隻の戦力は健在。「日本艦隊を今朝で壊滅させる。」
ミッチャーの声に、参謀のアーレイ・バーク大佐が頷く。

「F6F200機、SB2C80機、TBF60機を投入。
　目標は敵本隊の大鳳と翔鶴、瑞鶴です。」
ホーネットIIとエセックスの飛行甲板では
F6Fヘルキャットのパイロット、ジェームズ・トンプソン中尉がエンジンを始動。

「紫電改ニは手強いが、数の差で圧倒するぜ。」

整備員が翼に触れ　言った「ジェームズ、ぶっ潰せ！」


午前6時、マリアナの空が戦場と化した。
米軍のF6Fヘルキャット200機が編隊を組み、日本艦隊へ突進。
その後方には、SB2Cヘルダイバー80機、TBFアベンジャー60機が続く。

大鳳のレーダー室で、オペレーターが叫ぶ。
「敵機多数！方位280、距離120000！」

小沢が命令。「迎撃隊、発進！全対空砲、準備！」

警報が艦内に響き、紫電改ニ50機、零戦30機が次々と飛び立つ。
信濃の林飛曹は紫電改ニの先頭で出撃。「F6Fを仕留め、艦隊を守る！」
瑞鶴の藤田総司少佐も零戦で出撃。「兄貴の仇、今日こそ取る！」

米軍のトンプソン中尉はF6Fのコックピットで無線に叫ぶ。
「敵戦闘機、12時方向！突っ込め！
　かかれ！イカれた日本機を叩き落とせ」
ヘルキャットの12.7mm機銃が火を噴き
紫電改ニと零戦が応戦。空は機銃の閃光と爆発の炎で埋め尽くされる。

林は紫電改ニを急旋回させ、F6Fの背後に回り込む。20mm機関砲が唸り
ヘルキャットの右翼が吹き飛ぶ。「1機目！」林は次の標的を追う。

別のF6Fが背後に迫るが、急上昇で振り切り
2機目の胴体に20mm弾を叩き込む。「2機目！」林の声が無線に響く。

藤田少佐は零戦でSB2Cヘルダイバーを追う。
軽量な零戦は機動性に優れるが、装甲の薄さが仇となる。
藤田は急降下でヘルダイバーの尾部に機銃を浴びせ、1機を炎に包む。
「やった！」だが、F6Fの集中砲火で僚機の権田中尉が撃墜される。

「権田！」藤田の叫びが響くが、戦闘の混乱は彼を次の敵へ駆り立てる。
紫電改ニ15機、零戦10機が次々と失われ、迎撃隊は苦戦を強いられる。


迎撃隊がF6Fを食い止める中、SB2Cヘルダイバーが大鳳へ急降下。
94式高射装置と96式25mm機銃が火を噴き、黒煙が空を覆う。
エンスン・デビッド・リーのヘルダイバーが急降下し
500ポンド爆弾を投下。爆弾は大鳳の飛行甲板後部、格納庫近くに命中。
轟音と共に甲板が裂け、爆発が予備機に飛び火。オレンジ色の炎が立ち上り、
黒煙が艦を覆う。「火災発生！消火班、急げ！」艦長が叫び
乗組員がホースを手に駆けつける。消火班の佐々木一等兵は炎の中を進み、
「燃料タンクに達する前に止めろ！」と叫ぶ。火は30分で鎮火したが、
甲板の焦げ跡とひび割れは発着艦を制限した。

翔鶴はTBFアベンジャーの雷撃を受ける。
低空で接近したアベンジャーが魚雷を放ち、翔鶴の左舷中央に命中。
爆発が船体を揺らし、浸水が始まる。「浸水！応急班、隔壁を閉めろ！」

艦長の命令が響き、乗組員がポンプで排水を開始。損傷は深刻だが、
航行は可能。対空砲手の山田二等兵は25mm機銃を撃ちながら、
「沈むかよ、こんなんで！」と叫ぶ。米軍の攻撃隊は40機を失うが
大鳳と翔鶴に損傷を与え、任務を終える。


小沢は迎撃の隙を突き、反撃を命じる。
「信濃の天山隊、エセックスを叩け！翔鶴の彗星隊はホーネットIIを狙う！」
信濃の天山10機が発進。
「エセックスを止める！」紫電改ニの護衛隊がF6Fを迎撃し、
道を開く。エセックスの対空砲――5インチ砲、40mmボフォース――が火を噴き、
天山3機が撃墜される。雷撃隊は波すれすれを飛行し、「魚雷、発射！」
魚雷はエセックスの右舷後部に命中。爆発が飛行甲板を揺らし、火災が発生。
「命中！」信濃へ帰還。

翔鶴の彗星10機はホーネットIIを狙うが
F6Fの迎撃と対空砲火で5機が撃墜。山口中佐の彗星が爆弾を投下するが、外れ。
反撃はエセックスに損傷を与えたが、ホーネットIIへの攻撃は失敗に終わる。
林は信濃の甲板で佐藤に支えられ、「宮崎、エセックスに一発食らわせたぜ。」と呟く。


レキシントンIIの作戦室で、ミッチャーは戦果を確認。
「大鳳と翔鶴に損傷を与えたが、エセックスもやられた。」

バーク大佐が提案。
「次の攻撃隊で日本艦隊を仕留めましょう。
　艦載機はまだ600機以上残存。」

ミッチャーは頷き、
「夜間戦闘の失敗を繰り返すな。第三波を準備しろ。昼で仕留めるぞ」

エセックスの艦長は消火班を指揮し、
「飛行甲板を復旧！戦闘続行だ！」と叫ぶ。


第二次空戦は連合艦隊に深刻な打撃を与えた。
紫電改ニ15機、零戦10機の喪失、大鳳と翔鶴の損傷は、
航空戦力の限界を露呈。米軍は40機を失ったが、
予備機とパイロットの余力は圧倒的。小沢は作戦室で顔を曇らせる。

「敵の空母を沈めねば、勝機はない。残存機で反撃を準備しろ。」

連合艦隊は、残存艦載機を再編し、米空母への最後の反撃を計画。
米軍は第三波の攻撃隊を準備し、マリアナの空は決戦の舞台となる。
両軍の乗組員は、緊張と決意を胸に、戦いの続きを待つ。