If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ

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総力戦

「た号作戦」終結

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昭和十七年十一月
ソロモン海の激闘は、すでに日本艦隊に甚大な損耗をもたらしていた。
第二航空戦隊の「飛龍」と「蒼龍」は、米軍の猛攻により炎上し
その姿は絶望そのものだった。しかし、日本の希望はまだ潰えていなかった。
第五航空戦隊の「翔鶴」と「瑞鶴」から発進した第三次攻撃隊は
その双肩に日本の未来を乗せ、夜明け前のソロモンの空へと飛び立っていった。

この攻撃隊の指揮官は、「瑞鶴」飛行隊長、高橋定大尉
彼の瞳には、燃え盛る母艦たちの姿と、米空母への激しい復讐心が宿っていた。
編成は、零戦20機、九七式艦上攻撃機12機、九九式艦上爆撃機18機という
第一次、第二次攻撃隊に比べて小規模なものだった。
しかし、ここには、母艦を失った「飛龍」と「蒼龍」の艦載機も加わっていた。
彼らは、自らの母艦が炎上する姿を目の当たりにし、激しい怒りと悲しみを胸に秘めていた。



高橋大尉率いる第三次攻撃隊は、ソロモンの空を広く索敵した。
彼らの最大の任務は、最初の触接で発見して以降
依然としてその姿を現さない、残り一隻の米空母(「サラトガ」)を捕捉し
撃滅することだった。米軍は、ミッドウェーで受けた損害を
大西洋から引き抜いた戦力で補強していることを、日本の情報部は把握していた。
だが、その艦名や詳細な配置は、依然として謎のままだった。

「索敵機、全機、広範囲を警戒せよ!奴らは必ずどこかに潜んでいる!」

高橋大尉は、無線で指示を飛ばした。
各機は、目を皿のようにして、雲の下、水平線の彼方を凝視した。
しかし、広大な太平洋の海は、彼らにとってあまりにも広すぎた。
何時間にもわたる索敵にもかかわらず、「サラトガ」の姿は
影も形も見えなかった。燃料は刻一刻と消費され、焦燥感が募る。

その時だった。

「敵機!頭上!」

突然、警戒網の隙を突いて、オーストラリアから飛来した
豪空軍のスピットファイアが、日本の攻撃隊に襲いかかった。
彼らは、日本の航空隊が米空母に集中している隙を狙い、奇襲を仕掛けてきたのだ。

「くそっ、どこから現れた!?」

高橋大尉は叫んだ。スピットファイアは
その俊敏な動きで日本の九七式艦上攻撃機の編隊に突入し、機銃を乱射した。
日本の零戦隊も、即座に迎撃に転じたが、予期せぬ敵の出現に、一瞬の隙が生じた。

「九七式艦攻、被弾!二機、墜落!」

悲痛な叫びが無線を飛び交う。激しい空中戦の結果
九七式艦上攻撃機2機が、炎上しながらソロモン海の藻屑と消えた。
この予期せぬ襲撃は、日本の第三次攻撃隊に、さらなる損害をもたらした。



高橋大尉は、刻々と減っていく燃料計と、損傷した機体の状況を見て
苦渋の決断を迫られた。このまま未知の米空母を捜索し続けても
燃料切れで全機が墜落する危険性がある。
しかし、何もせずに帰投すれば、二航戦の無念を晴らすことはできない。

その時、彼の脳裏に、先ほど上空を飛んだ第二次攻撃隊が攻撃し
航行不能になっている米空母「ホーネット」の炎上する姿が浮かんだ。

「ホーネットを攻撃目標とする!全機、ホーネットへ向かえ!」

高橋大尉は、残された航空機に指示を飛ばした。
すでに航行不能で回避行動も取れず、電源が落ちているため対空砲火すらままならない
「ホーネット」は、まさに無防備な標的だった。
それは、戦果を挙げ、残されたわずかな希望を繋ぐための、最後の選択だった。

米空母「ホーネット」は、第二次攻撃隊の猛攻により
巨大な火災と浸水に苦しんでいた。飛行甲板は焼けただれ
艦体は大きく傾いていた。艦内では、消火活動が続けられていたが
爆弾と魚雷による損傷はあまりにも甚大で、もはや手の施しようがなかった。

「日本軍機、来襲!」

ホーネットの随伴駆逐艦の見張員が叫んだ。
その声は、絶望に震えていた。もはや戦力は残されておらず
この艦隊を守る術はなかった。

随伴駆逐艦は、残された対空砲を撃ち上げた。
弾幕は、空に小さな黒い煙の輪を描いたが、それは
迫りくる日本の航空隊には、ほとんど効果がなかった。

高橋大尉率いる日本のパイロットたちは、その瞳に燃え盛る復讐の炎を宿らせていた。
彼らは、世界を見てもトップレベルの操縦技術と
幾度もの激戦を生き抜いてきた経験を持っていた。
彼らは、死に体の敵とはいえ、決して油断することなく、正確無比な攻撃を仕掛けた。

まず、九九式艦上爆撃機隊が、高空から垂直に
「ホーネット」めがけて急降下を開始した。彼らは
まるで的を射るかのように、次々と爆弾を投下していく。

「ホーネット」の飛行甲板に、爆弾が次々と命中した。
甲板はさらに崩壊し、格納庫からは、これまでの比ではないほどの
巨大な炎と黒煙が噴き上がった。煙と炎が、艦全体を包み込み
もはやその艦影を捉えることすら困難になった。

その直後、九七式艦上攻撃機隊が、低空で突進してきた。
彼らは、もはや抵抗できない「ホーネット」の喫水線下めがけて、魚雷を放った。

「魚雷、発射! よーい てっ」

水面に波紋が広がり、魚雷の白い航跡が敵艦へと向かう。
一本、二本、三本…次々と魚雷が命中し、巨大な水柱が上がった。
爆弾9発、魚雷6本。日本の航空隊は、容赦なく
そして執拗に、瀕死の「ホーネット」を叩き潰した。

そして、その瞬間は訪れた。「ホーネット」の艦底で
機関部の水蒸気爆発が起こったのだ。巨大な衝撃波が
ソロモン海の空と海を震わせた。真っ二つに裂けるかのように艦体が崩壊し
燃え盛る鉄の塊が、瞬く間に深海へと吸い込まれていった。米空母「ホーネット」、爆沈。


同時に、高橋攻撃隊は、「ホーネット」を護衛していた随伴駆逐艦にも猛攻を仕掛けた。

「駆逐艦も叩け!一隻残らず!」

九九式艦上爆撃機が、正確に爆弾を投下し
6発の爆弾が駆逐艦の艦体に命中した。爆弾の衝撃で、艦体は大きく揺れ
火災が発生する。その直後、九七式艦上攻撃機が
1本の魚雷を駆逐艦の喫水線下に叩き込んだ。

駆逐艦の艦体は、魚雷の衝撃に耐えきれず、まるで折れた鉛筆のように
真っ二つに折れて沈んだ。その小さな船体は
巨大な火柱を上げた後、あっという間に海の藻屑と消えた。

この第三次攻撃隊の攻撃は、まさに完璧だった。
熟練した日本のパイロットたちは、抵抗力を失った敵に対し
一切の無駄なく攻撃を成功させた。そして、奇跡的なことに
この攻撃での日本の航空隊の被害はゼロだった。


第三次攻撃隊が、海上に浮かぶ敵艦の残骸を後に
帰途につくのと同時に、日本の艦隊は撤退を開始した。

「蒼龍」の惨状は、もはや手の施しようがなかった。
機関部まで火が回り、浸水が止まらない。艦長は、苦渋の決断を下した。

「全員退艦!蒼龍は、雷撃処分とする!」

「蒼龍」の乗組員たちは、次々と救助艦へと移乗していった。
そして、日本の駆逐艦から放たれた魚雷が、その炎上する巨体を襲った。
「蒼龍」は、最後の咆哮を上げ、ゆっくりとソロモンの海底へと沈んでいった。
ミッドウェーを生き抜いた栄光の空母は、このソロモンの海で、その生涯を閉じた。

一方、大破した「飛龍」は、奇跡的に機関部の作動が可能なことが判明した。
消火作業が続けられ、火勢は徐々に弱まっていった。
艦長は、艦の限界まで速度を上げるよう命じた。

「出しえる最高の速度で撤退する!決して艦を沈めるな!」

「飛龍」は、航行可能な最大速度である25ノットで
すでに撤退を開始していた。その姿は、満身創痍ながらも
必死に生き残ろうとする執念のようだった。

「翔鶴」と「瑞鶴」は、第三次攻撃隊の航空機を収容すると
即座に南方へと針路を取った。疲弊しきった将兵たちを乗せ
彼女たちは、日本海軍の最後の希望を乗せ、一路トラック泊地へと向かった。



この「た号作戦」の最終戦果は
米空母2隻(エンタープライズ、ホーネット)撃沈、米駆逐艦1隻撃沈だった。

しかし、日本軍の損害もまた、甚大だった。
艦艇では
空母「蒼龍」喪失
空母「飛龍」大破(事実上の戦力喪失)

航空機
零戦:21機(第一次9機+第二次12機)
九九式艦爆:27機(第一次12機+第二次15機)
九七式艦攻:25機(第一次13機+第二次10機+スピットファイアによる2機)
計71機もの貴重な航空機を失った。

この戦果は、ミッドウェー海戦の「限定的な勝利」を
補強するかのように見えた。米太平洋艦隊は、三隻の主力空母を失い
一時的に戦力は大幅に低下した。しかし、日本の航空戦力は
この激戦で完全に疲弊し、熟練パイロットの損耗は、取り返しのつかない打撃となった。

高倉義人は、トラック泊地に帰還した艦隊の損害報告書を読みながら
深く息を吐いた。米軍の物量は、想像をはるかに超えていた。
そして、日本軍の消耗は、もはや無視できないレベルに達していた。
この「た号作戦」は、確かに戦術的な勝利を収めたかに見えたが
それは、日本の国力を根こそぎ削り取っていく消耗戦の始まりに過ぎないことを
彼は誰よりも理解していた。

この勝利は、日本の軍部強硬派に、さらなる過信と傲慢をもたらすだろう。
そして、それが、後に日本をさらなる破滅へと導くことになることを
高倉は予感していた。静かにソロモンの海に沈んだ「蒼龍」の残骸と
満身創痍で帰還した「飛龍」の姿は、この戦争の過酷さと
日本が背負う重い宿命を象徴していた。


そして、まだ見ぬ「サラトガ」が
どこかで日本の反攻の機会を窺っていることを、彼らは知る由もなかった
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