米国戦艦大和        太平洋の天使となれ

みにみ

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太平洋の天使

トラウマ

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大和の46センチ主砲による最初の砲撃は
朝鮮半島の戦況に大きな衝撃を与えた。
その圧倒的な破壊力は、国連軍に希望をもたらし
北朝鮮軍の士気を根底から揺るがした。
しかし、戦場は常に変化し、新たな脅威が次々と生まれる。
大和の出現は、敵陣営に戦慄を与えると同時に、その排除を最大の目標とさせた。

大和が朝鮮半島の沿岸に展開し、その絶大な砲火を振るい始めたことは
北朝鮮軍とそれを支援する中国人民志願軍、そして彼らを陰で支える
ソ連の関心を一気に引き寄せた。彼らにとって
この「地獄からの使者」は、自らの戦略を根本から覆しかねない脅威であり
その存在は看過できるものではなかった。大和の排除は
最優先目標として位置づけられ
あらゆる手段を講じて彼女に迫る作戦が練られた。

大和の砲撃によって沿岸陣地が壊滅的な打撃を受けたにもかかわらず、
北朝鮮軍の砲兵隊は諦めなかった。
彼らは、山中に巧妙に隠された砲陣地から
執拗な逆襲砲撃を仕掛けてきた。
米軍が誇る最新レーダーは、彼らの砲弾の弾道を捕捉し
逆算することで砲陣地の位置を特定しようと試みた。
しかし、北朝鮮軍の砲兵は、ソ連から供与された新型砲を使いこなすだけでなく
長年の経験と地の利を活かして、時には地形を利用した巧妙な射撃を行った。
山々の稜線を越える曲射砲撃や、砲撃後に迅速に陣地を移動する
「ヒット・アンド・アウェイ」戦術によって、米軍のレーダー網を掻い潜り
大和を狙ってきたのである。大和の周囲に水柱が上がるたびに
艦内には緊張が走った。砲弾が直撃することはなかったが
その心理的圧力は決して軽視できるものではなかった。

海上からの脅威も増大した。朝鮮戦争の混乱に乗じて
北朝鮮軍の特殊部隊やゲリラ部隊は、夜陰に紛れて神出鬼没な活動を展開した。
彼らは、漁船や小型貨物船に偽装した小型のボートに
爆薬を積んで突進する特攻艇による奇襲攻撃を繰り返した。
これらの特攻艇は、レーダーに映りにくい低速・小型船であり
夜間の警戒網をすり抜けてくることがあった。
彼らは、大和の巨体を狙い、決死の覚悟で突進してきた。
また、より巧妙な試みとして、闇夜に紛れて大和の喫水線下まで接近し
艦底に磁気吸着機雷を仕掛けようとする試みも複数報告された。
これらの試みは、大和の強固な防御と警戒網によって未遂に終わったものの
常に乗組員たちに緊張感を強いるものであった。

空からの脅威は、最も危険なものであった。
ソ連は、中国人民志願軍を通して、最新鋭の航空機を北朝鮮に供与しており
彼らは大和を最大目標と定めた。特に恐れられたのは
高性能なMiG-15戦闘機が護衛するTu-2爆撃機による執拗な空襲であった。
Tu-2は双発の中型爆撃機で、急降下爆撃や低空からの雷撃を得意とした。
勇敢なTu-2のパイロットたちは、大和の巨大な船体を狙い
高高度からの精密爆撃や、低空からの危険な雷撃を敢行した。

大和の対空兵装は、ポーツマスでの改修によって大幅に強化されていた。
ボフォース40㎜機関砲、3インチ砲、エリコン20㎜機関砲
そして九八式長10cm連装高角砲が、空の脅威に対し猛烈な弾幕を形成した。
しかし、数に勝る航空機の波状攻撃は、常に脅威であった。
何機ものMiG-15が編隊を組み、大和の対空砲火を避けながら
Tu-2の進路を確保しようとした。対空砲火が唸りを上げ
曳光弾が夜空を彩る中、大和は幾度となく空襲に晒された。
至近弾による衝撃や、機銃掃射の弾痕が大和の甲板に刻まれることもあったが
幸いにも致命的な損傷を受けることはなかった。


大和は、パーカー少佐と徳永特務指揮官の的確な判断
そして日米混成乗組員の連携により、これらの全ての障害を撃破し
幸いにも直接的な大きな被害はなかった。
しかし、戦闘が激化するにつれて、乗組員たちの
特に日本人兵士たちの心理的な問題は大きかった。

彼らは、かつて日本海軍の兵士として、特攻隊の出撃を間近で見てきた。
彼らは、特攻の恐ろしさ
そしてそれに立ち向かうことの絶望感を身をもって知っていた。

だが今、彼らは図らずも、その特攻作戦を受ける
米軍の気持ちを味わうことになったのだ。
特攻艇が猛スピードで突進してくるのを見たとき
彼らの脳裏には、零戦や彗星が米艦隊に突入していった光景がフラッシュバックした。
狂気をはらんだ敵兵の突進は
かつて彼ら自身が経験した、あるいは目撃した、特攻隊員の姿と重なった。

日本人乗組員の中には、複雑な感情が渦巻いた。
「まさか、自分たちがこの立場になるとは…」
「これが、彼らが感じた恐怖なのか…」
彼らは、かつて敵であった米軍兵士たちが経験した
精神的な重圧と恐怖を、今、身をもって体験することになった。
それは、過去の戦争の残滓が、形を変えて彼らの前に現れたようなものであった。

夜間の警戒任務中、ある日本人水兵が恐怖に震えながら呟いた。
「あれは…あれは、我々の亡霊だ。ヤマトが、我々の特攻隊を呼び寄せたのかもしれない…」
この言葉は、他の日本人兵士たちの間にも、静かな動揺を広げた。
彼らは、自分たちが「地獄の使者」と化した大和に乗っていること
そして、その大和が、かつて自分たちが送り出した特攻隊と
似た攻撃を受けているという皮肉な現実に直面していた。

徳永特務指揮官もまた、この心理的な問題に深く心を痛めていた。
彼は日本人乗員たちの士気を維持するため、個別に話を聞き、彼らの不安を受け止めた。
「諸君の感じる恐怖は、決して臆病なことではない。
 私もまた、同じものを感じる。しかし、我々は今
 この艦で、大和の魂を未来へと繋ぎ、人々を救うという
 新たな使命を帯びているのだ。この攻撃は、我々の信念を試す試練だ。」
徳永は、彼らに、今の大和が単なる復讐の道具ではなく
人道的な目的のために動いていることを繰り返し説いた。

パーカー少佐は、日本人乗員たちの表情の変化に気づいていた。
彼は徳永から、彼らが抱えている心理的な葛藤について説明を受け、深く理解を示した。
「彼らの気持ちはよくわかる。彼らは、我々が過去に経験した恐怖を
 今、体験しているのだ。しかし、彼らは勇敢だ。
 この困難を乗り越えられると信じている。」
パーカーは、日本人乗員たちに対し、直接言葉をかけることは少なかったが
彼らの奮闘を常に高く評価し、その勇気を称賛した。
彼のそうした姿勢は、日本人乗員たちの心に深く響き
彼らの信頼をさらに強固なものにした。

大和は、朝鮮半島の厳しい冬の海で、文字通り火の海と化した
戦場を耐え抜いていた。その鋼鉄の巨体は、幾度も敵の猛攻に晒されながらも
びくともしない。しかし、乗組員たちの心の内では、激しい嵐が吹き荒れていた。
この戦いは、彼らにとって、単なる軍事作戦ではなく
過去と現在、そして未来が交錯する、深い精神的な戦いでもあったのである。
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