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幽霊戦闘機隊
F4U1D部隊邀撃
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1945年1月26日早朝。ルソン島北部
山間部の秘匿飛行場には、張り詰めた空気が漂っていた。
第382海軍航空隊の格納壕には、黒緑色に塗られた6機の試製 陣風が整然と並んでいた。
前日の偵察情報により、米海兵隊のF4U-1D「コルセア」9機による
大規模な哨戒・対地支援掃討任務が
午後にもルソン島中央山脈の西側を通過することが確認されていた。
横尾 一 飛曹長は、作戦ブリーフィングのテーブルを叩き、静かに命令を下した。
「目標、F4U-1D編隊、9機。コールサイン『シー・ドッグ』
高度は概ね4,000メートル。奴らは今日も、この空が
自分たちのものだと信じて悠々と飛んでくるだろう。
今回の任務は、『敵編隊の完全撃滅』。一機たりとも帰すな。」
彼の視線が、中心的な役割を担う神崎 猛 少尉に向けられた。
「神崎、お前には三番機(直掩機)を任せる。
最初の突入角度、目標選択は貴様の判断を優先する。
いいな、格闘戦は禁止だ。陣風の性能を
最大限に生かせ。一撃で叩き、そのまま離脱せよ。」
神崎は微動だにせず、「了解」と短く答えた。
彼の視線は、陣風の主翼に集中配置された20mm機銃の銃口に向けられていた。
この日から陣風隊は最大の火力を発揮するための特殊な弾薬を装填していた。
20mm機銃 × 6 (翼):着発破砕榴弾(SAPHEI)
徹甲弾の機能も持ちつつ、機体の外板を貫通した直後に炸裂し
内部構造や油圧系統を破壊することを目的としている。
コルセアのような頑丈な機体を確実に破壊するための、一撃必殺の弾薬である。
13.2mm機銃 × 2 (機首):徹甲焼夷弾(APHE)
主に敵機のエンジンや燃料タンクを狙い、発火・炎上させるための弾薬。
「陣風」は、零戦に比べると一回り大きく
翼が付け根からわずかに下向きに折れた逆ガル翼が特徴的だった。
この特徴的な翼形と、2,000馬力級の強力なエンジンが
従来の日本機では到達し得なかった驚異的な高速性能と上昇力を実現させていた。
「出撃!」
横尾飛曹長の号令とともに
6機の陣風は秘匿飛行場を勢いよく飛び立ち、全速で迎撃地点へ向かった。
午後、指定された迎撃高度4,000メートル。
陣風隊の6機は、雲の合間、太陽を背にする位置で敵編隊の接近を待っていた。
この高度は、日本の戦闘機にとっては通常不利な高空域であったが
陣風にとってはむしろ性能を発揮しやすい領域であった。
遠方に、米軍コルセア編隊のシルエットが確認された。
その姿は、逆ガル翼を持つ陣風と奇しくも似た、武骨で力強い形状をしていた。
9機のF4U-1Dは、隊形を組み、ルソン島内部へ向け、悠然と飛行していた。
彼らは、この空に敵機が存在することを、もはやほとんど警戒していなかった。
横尾飛曹長が静かに指示を出す。
「隊列を整えろ。第一撃は神崎隊。速度を極限まで上げ
敵の編隊後方から垂直降下で突入する。『シー・ドッグ』を分断せよ。」
神崎少尉は、僚機を率い、太陽を盾にして陣風のエンジンを唸らせた。
高度を5,000メートルまで上げ、そこから一気に目標に向けて機首を下げた。
重力加速度を利用した加速により、陣風の速度は瞬く間に700km/hを超過した。
神崎は、コルセア編隊の真後ろから、編隊中央部の2機を狙って突入した。
「射撃開始!」
距離500メートル。彼の視界には、F4Uの黄色い機首と
長いエンジンカウルが大きく映った。神崎は迷いなく引き金を引いた。
ドォン!ドォン!ドォン!
20mm機銃6門が一斉に火を噴き、着発破砕榴弾が猛烈な勢いで
コルセアへと吸い込まれていく。一瞬の掃射にもかかわらず
編隊中央の2番機と5番機が、信じられないほどのダメージを受けた。
2番機は、主翼の付け根付近に集中弾を受け
たちまち巨大な火花と黒煙を噴き上げた。着発破砕榴弾は外板を貫通し、内部で炸裂した。
火花は瞬時に油圧系統を焼き切り
機体は操縦不能に陥り、螺旋を描いて落下していった。
5番機は、エンジンのカウル後部に被弾。
13.2mm APHEが燃料系統に引火し
機体後部から激しい炎を吹き出しながら、編隊から離脱しようと機首を下げた。
米軍機パイロットたちが「幽霊」の正体に気づいたのは、この瞬間だった。
「エンジェルス・ワン! あれは何だ!? 」
「ジャップの新しい戦闘機だ!」
「速い! 追いつけない! ブレイク!ブレイク!」
神崎は、コルセアの混乱を尻目に、一切減速することなく編隊を突っ切り
その驚異的な高速性能で一気に戦場から離脱し、雲の中に姿を消した。
神崎隊の一撃は、コルセア編隊を完全に分断させた。
9機いた編隊は、わずか数秒で7機に減少。残されたパイロットたちは
「何が起こったのか」を理解する前に、次の攻撃に晒されることとなった。
横尾飛曹長率いる残る3機の陣風隊が
コルセア隊の左側面、約20度の角度から、今度は水平に近い高速突入を開始した。
「慌てるな! 敵の機動に引きずられるな! コルセアは曲がれない!」
横尾は、無線で冷静に僚機に指示を出す。
コルセアは低速での旋回性能は優れていて
高速域での横転率(ロール性能)は当時の戦闘機としては高いものの
高速で突入してくる陣風を捕捉し、照準を合わせるには、一瞬のタメが必要となる。
横尾は、その「タメ」を許さなかった。
陣風の3機は、まるで編隊を組んだままの
巨大なカミソリのようにコルセア編隊の側面を切り裂いた。
横尾機が狙ったのは、編隊長機1番機。
横尾は、機首の13.2mm機銃は使わず、翼の20mm機銃のみに集中させた。
着発破砕榴弾は、コルセアの頑丈な主翼桁と、内部の冷却器を粉砕した。
F4U-1Dは、機体後部から白煙を吹き出し
急激に速度を失い始めた。横尾は追撃せず、そのまま高速で離脱。
4番機(竹中二飛曹)が狙ったのは、混乱した8番機。
8番機は、神崎の攻撃を避けようと不用意に急旋回を試みていた。
竹中は、その旋回中に機体が最も無防備になる瞬間を見極め
全弾をコックピット後方の燃料タンクに叩き込んだ。
APHE弾は、分厚い外板を貫通し、燃料タンク内部で炸裂、炎上。
8番機は空中でバラバラになり、爆散した。
6番機(吉田一飛)が狙ったのは、横尾隊の離脱を阻止しようと急上昇してきた7番機。
吉田は、陣風の圧倒的な上昇力(陣風の設計上の強み)を利用し
7番機の上昇軌道に一瞬で追いついた。7番機パイロットが
自機の真上に陣風が居ることに気づいた時には、すでに遅かった。
吉田は、上から下への垂直射撃で20mm弾を集中。
7番機のエンジンブロックを破壊し、機体を錐揉み状態にして叩き落とした。
横尾隊の離脱後、空には再び静寂が訪れた。
コルセア編隊は、9機からわずか3機へと激減していた。
わずか1分にも満たない間に、6機が撃墜されたのだ。
残された3機のパイロットは、パニック状態に陥った。
彼らの知る「ジャップの戦闘機」は、低速で格闘戦を挑んでくるものであり
このような「高速・重武装・一撃離脱」を徹底する戦闘機ではなかった。
彼らは「ゴースト・ファイター」が実在したことを確信した。
3番機のパイロット、フランク・アレン中尉
(彼こそ、後にボロボロになって帰投する搭乗員である)は
恐怖に顔面蒼白になりながら、無線で残存機に叫んだ。
「ダメだ!奴らを追うな!撤退だ! 全速力で海へ出ろ! 奴らの速度には勝てない!」
生き残った3機は、隊形を崩したまま
命からがら戦場からの離脱を図り、全速で東の洋上へ向かった。
横尾飛曹長は、この状況を冷静に分析していた。
「神崎、残る3機を追撃する。目標は完全撃滅だ。
奴らを帰せば、この陣風の存在が米軍全土に知れ渡る。この奇襲効果を失うわけにはいかん。」
陣風隊は、再びコルセアの航路を先回りし、待ち伏せを行った。
離脱を図るコルセア3機は
全速で飛行していたものの、陣風の持つ最大速力には及ばなかった。
陣風隊は、逃げる敵機の真上、高度6,000メートルから
再び垂直に近い降下で追撃を開始した。
神崎は、最も低く飛んでいた9番機をロックオンした。
彼は今回、より確実を期すため、射撃距離を300メートルまで詰めた。
20mm着発破砕榴弾の集中弾は、9番機の主翼付け根と胴体を貫いた。
凄まじい炸裂音とともに
9番機は空中分解し、ルソンの山中に黒い煙を引いて落ちていった。
残るは、アレン中尉の3番機と、僚機の6番機の2機。
横尾は、僚機に6番機を任せ、自らはアレン機に狙いを定めた。
横尾の陣風と、アレンのコルセアが、一対一の追撃戦となった。
横尾は、コルセアのやや上空、後方45度の位置を取り続けた。
一撃離脱戦法の鉄則である。彼は、20mm機銃を短く、正確に掃射した。
「ダッ! ダッ! ダッ!」
数発の20mm弾が、アレン機の胴体と主翼を掠めた。
凄まじい衝撃に、アレンは操縦桿を強く握りしめた。
彼の機体は、油圧系統が一部損傷し、操縦が困難になり始めた。
横尾は、次の追撃のために機体を上昇させようとした、その瞬間、異変に気づいた。
6番機を追撃していた僚機の一機が、コルセアの回避機動に惑わされ
不用意に速度を落としすぎたのだ。6番機パイロットは
この隙を見逃さず、機首を急旋回させ、横尾機の僚機に向けて機首の12.7mm機銃を乱射した。
「しまった!」
横尾機は、味方の危機を救うため、目標としていた
アレン中尉の追撃を中断せざるを得なかった。
彼は、急いで6番機を追撃中の僚機へと向かい、コルセアを追い払った。
その間、フランク・アレン中尉の3番機は、多数の被弾でボロボロになりながらも
この一瞬の隙を利用し、文字通り命からがら戦場を離脱することに成功したのである。
陣風隊6機は、再び高度を取り、全機無事に秘匿飛行場へ帰還した。
地上には、彼らの帰還を静かに見守る整備員と地上要員が待っていた。
機体から降りた神崎少尉は、整備員に銃身の点検を指示した後、横尾飛曹長と向かい合った。
「飛曹長、敵機9機中、撃墜7機。撃破1機
被弾による離脱1機。完全撃滅を果たせませんでした。」
神崎の報告には、完璧を期した彼ならではの悔しさが滲んでいた。
横尾は、被弾痕がほとんどない自らの陣風を見上げ、静かに頷いた。
「神崎、十分な戦果だ。このルソンの空で、我々は彼らに8対0という
信じられない戦果を叩きつけた。だが、お前の言う通り、1機が逃げた。
あの被弾したコルセアは、我々の存在を、そしてこの『陣風』の性能を
米軍司令部に報告するだろう。これで、『幽霊戦闘機』の時代は終わる。
次からは、米軍は必ず本気で、我々を潰しに来る。」
横尾は、整備員に指示を出した。
「全機、整備急げ。特に翼内の20mm機銃の再装填を最優先で行え。
我々に与えられた時間は短い。たった一人の目撃者が帰ったのだからな。」
その日、ボロボロになりながらも奇跡的に帰投したフランク・アレン中尉の証言は
米軍司令部に衝撃を与え、ルソン島上空に突如として現れた
「ジャップの新型機」の脅威を、初めて具体的に認識させた。
「ジャップのゼロでもジャックでもジョージでもない新型機に襲われた」という
アレンの告白は、米軍にとって、ルソン島攻略戦における
新たな、そして最も深刻な空中戦の始まりを意味していた。
陣風隊は、この一戦でルソンの空に確かな足跡を残した。
それは、彼らが創り出した、最初で最大の「空の軌跡」だった。
山間部の秘匿飛行場には、張り詰めた空気が漂っていた。
第382海軍航空隊の格納壕には、黒緑色に塗られた6機の試製 陣風が整然と並んでいた。
前日の偵察情報により、米海兵隊のF4U-1D「コルセア」9機による
大規模な哨戒・対地支援掃討任務が
午後にもルソン島中央山脈の西側を通過することが確認されていた。
横尾 一 飛曹長は、作戦ブリーフィングのテーブルを叩き、静かに命令を下した。
「目標、F4U-1D編隊、9機。コールサイン『シー・ドッグ』
高度は概ね4,000メートル。奴らは今日も、この空が
自分たちのものだと信じて悠々と飛んでくるだろう。
今回の任務は、『敵編隊の完全撃滅』。一機たりとも帰すな。」
彼の視線が、中心的な役割を担う神崎 猛 少尉に向けられた。
「神崎、お前には三番機(直掩機)を任せる。
最初の突入角度、目標選択は貴様の判断を優先する。
いいな、格闘戦は禁止だ。陣風の性能を
最大限に生かせ。一撃で叩き、そのまま離脱せよ。」
神崎は微動だにせず、「了解」と短く答えた。
彼の視線は、陣風の主翼に集中配置された20mm機銃の銃口に向けられていた。
この日から陣風隊は最大の火力を発揮するための特殊な弾薬を装填していた。
20mm機銃 × 6 (翼):着発破砕榴弾(SAPHEI)
徹甲弾の機能も持ちつつ、機体の外板を貫通した直後に炸裂し
内部構造や油圧系統を破壊することを目的としている。
コルセアのような頑丈な機体を確実に破壊するための、一撃必殺の弾薬である。
13.2mm機銃 × 2 (機首):徹甲焼夷弾(APHE)
主に敵機のエンジンや燃料タンクを狙い、発火・炎上させるための弾薬。
「陣風」は、零戦に比べると一回り大きく
翼が付け根からわずかに下向きに折れた逆ガル翼が特徴的だった。
この特徴的な翼形と、2,000馬力級の強力なエンジンが
従来の日本機では到達し得なかった驚異的な高速性能と上昇力を実現させていた。
「出撃!」
横尾飛曹長の号令とともに
6機の陣風は秘匿飛行場を勢いよく飛び立ち、全速で迎撃地点へ向かった。
午後、指定された迎撃高度4,000メートル。
陣風隊の6機は、雲の合間、太陽を背にする位置で敵編隊の接近を待っていた。
この高度は、日本の戦闘機にとっては通常不利な高空域であったが
陣風にとってはむしろ性能を発揮しやすい領域であった。
遠方に、米軍コルセア編隊のシルエットが確認された。
その姿は、逆ガル翼を持つ陣風と奇しくも似た、武骨で力強い形状をしていた。
9機のF4U-1Dは、隊形を組み、ルソン島内部へ向け、悠然と飛行していた。
彼らは、この空に敵機が存在することを、もはやほとんど警戒していなかった。
横尾飛曹長が静かに指示を出す。
「隊列を整えろ。第一撃は神崎隊。速度を極限まで上げ
敵の編隊後方から垂直降下で突入する。『シー・ドッグ』を分断せよ。」
神崎少尉は、僚機を率い、太陽を盾にして陣風のエンジンを唸らせた。
高度を5,000メートルまで上げ、そこから一気に目標に向けて機首を下げた。
重力加速度を利用した加速により、陣風の速度は瞬く間に700km/hを超過した。
神崎は、コルセア編隊の真後ろから、編隊中央部の2機を狙って突入した。
「射撃開始!」
距離500メートル。彼の視界には、F4Uの黄色い機首と
長いエンジンカウルが大きく映った。神崎は迷いなく引き金を引いた。
ドォン!ドォン!ドォン!
20mm機銃6門が一斉に火を噴き、着発破砕榴弾が猛烈な勢いで
コルセアへと吸い込まれていく。一瞬の掃射にもかかわらず
編隊中央の2番機と5番機が、信じられないほどのダメージを受けた。
2番機は、主翼の付け根付近に集中弾を受け
たちまち巨大な火花と黒煙を噴き上げた。着発破砕榴弾は外板を貫通し、内部で炸裂した。
火花は瞬時に油圧系統を焼き切り
機体は操縦不能に陥り、螺旋を描いて落下していった。
5番機は、エンジンのカウル後部に被弾。
13.2mm APHEが燃料系統に引火し
機体後部から激しい炎を吹き出しながら、編隊から離脱しようと機首を下げた。
米軍機パイロットたちが「幽霊」の正体に気づいたのは、この瞬間だった。
「エンジェルス・ワン! あれは何だ!? 」
「ジャップの新しい戦闘機だ!」
「速い! 追いつけない! ブレイク!ブレイク!」
神崎は、コルセアの混乱を尻目に、一切減速することなく編隊を突っ切り
その驚異的な高速性能で一気に戦場から離脱し、雲の中に姿を消した。
神崎隊の一撃は、コルセア編隊を完全に分断させた。
9機いた編隊は、わずか数秒で7機に減少。残されたパイロットたちは
「何が起こったのか」を理解する前に、次の攻撃に晒されることとなった。
横尾飛曹長率いる残る3機の陣風隊が
コルセア隊の左側面、約20度の角度から、今度は水平に近い高速突入を開始した。
「慌てるな! 敵の機動に引きずられるな! コルセアは曲がれない!」
横尾は、無線で冷静に僚機に指示を出す。
コルセアは低速での旋回性能は優れていて
高速域での横転率(ロール性能)は当時の戦闘機としては高いものの
高速で突入してくる陣風を捕捉し、照準を合わせるには、一瞬のタメが必要となる。
横尾は、その「タメ」を許さなかった。
陣風の3機は、まるで編隊を組んだままの
巨大なカミソリのようにコルセア編隊の側面を切り裂いた。
横尾機が狙ったのは、編隊長機1番機。
横尾は、機首の13.2mm機銃は使わず、翼の20mm機銃のみに集中させた。
着発破砕榴弾は、コルセアの頑丈な主翼桁と、内部の冷却器を粉砕した。
F4U-1Dは、機体後部から白煙を吹き出し
急激に速度を失い始めた。横尾は追撃せず、そのまま高速で離脱。
4番機(竹中二飛曹)が狙ったのは、混乱した8番機。
8番機は、神崎の攻撃を避けようと不用意に急旋回を試みていた。
竹中は、その旋回中に機体が最も無防備になる瞬間を見極め
全弾をコックピット後方の燃料タンクに叩き込んだ。
APHE弾は、分厚い外板を貫通し、燃料タンク内部で炸裂、炎上。
8番機は空中でバラバラになり、爆散した。
6番機(吉田一飛)が狙ったのは、横尾隊の離脱を阻止しようと急上昇してきた7番機。
吉田は、陣風の圧倒的な上昇力(陣風の設計上の強み)を利用し
7番機の上昇軌道に一瞬で追いついた。7番機パイロットが
自機の真上に陣風が居ることに気づいた時には、すでに遅かった。
吉田は、上から下への垂直射撃で20mm弾を集中。
7番機のエンジンブロックを破壊し、機体を錐揉み状態にして叩き落とした。
横尾隊の離脱後、空には再び静寂が訪れた。
コルセア編隊は、9機からわずか3機へと激減していた。
わずか1分にも満たない間に、6機が撃墜されたのだ。
残された3機のパイロットは、パニック状態に陥った。
彼らの知る「ジャップの戦闘機」は、低速で格闘戦を挑んでくるものであり
このような「高速・重武装・一撃離脱」を徹底する戦闘機ではなかった。
彼らは「ゴースト・ファイター」が実在したことを確信した。
3番機のパイロット、フランク・アレン中尉
(彼こそ、後にボロボロになって帰投する搭乗員である)は
恐怖に顔面蒼白になりながら、無線で残存機に叫んだ。
「ダメだ!奴らを追うな!撤退だ! 全速力で海へ出ろ! 奴らの速度には勝てない!」
生き残った3機は、隊形を崩したまま
命からがら戦場からの離脱を図り、全速で東の洋上へ向かった。
横尾飛曹長は、この状況を冷静に分析していた。
「神崎、残る3機を追撃する。目標は完全撃滅だ。
奴らを帰せば、この陣風の存在が米軍全土に知れ渡る。この奇襲効果を失うわけにはいかん。」
陣風隊は、再びコルセアの航路を先回りし、待ち伏せを行った。
離脱を図るコルセア3機は
全速で飛行していたものの、陣風の持つ最大速力には及ばなかった。
陣風隊は、逃げる敵機の真上、高度6,000メートルから
再び垂直に近い降下で追撃を開始した。
神崎は、最も低く飛んでいた9番機をロックオンした。
彼は今回、より確実を期すため、射撃距離を300メートルまで詰めた。
20mm着発破砕榴弾の集中弾は、9番機の主翼付け根と胴体を貫いた。
凄まじい炸裂音とともに
9番機は空中分解し、ルソンの山中に黒い煙を引いて落ちていった。
残るは、アレン中尉の3番機と、僚機の6番機の2機。
横尾は、僚機に6番機を任せ、自らはアレン機に狙いを定めた。
横尾の陣風と、アレンのコルセアが、一対一の追撃戦となった。
横尾は、コルセアのやや上空、後方45度の位置を取り続けた。
一撃離脱戦法の鉄則である。彼は、20mm機銃を短く、正確に掃射した。
「ダッ! ダッ! ダッ!」
数発の20mm弾が、アレン機の胴体と主翼を掠めた。
凄まじい衝撃に、アレンは操縦桿を強く握りしめた。
彼の機体は、油圧系統が一部損傷し、操縦が困難になり始めた。
横尾は、次の追撃のために機体を上昇させようとした、その瞬間、異変に気づいた。
6番機を追撃していた僚機の一機が、コルセアの回避機動に惑わされ
不用意に速度を落としすぎたのだ。6番機パイロットは
この隙を見逃さず、機首を急旋回させ、横尾機の僚機に向けて機首の12.7mm機銃を乱射した。
「しまった!」
横尾機は、味方の危機を救うため、目標としていた
アレン中尉の追撃を中断せざるを得なかった。
彼は、急いで6番機を追撃中の僚機へと向かい、コルセアを追い払った。
その間、フランク・アレン中尉の3番機は、多数の被弾でボロボロになりながらも
この一瞬の隙を利用し、文字通り命からがら戦場を離脱することに成功したのである。
陣風隊6機は、再び高度を取り、全機無事に秘匿飛行場へ帰還した。
地上には、彼らの帰還を静かに見守る整備員と地上要員が待っていた。
機体から降りた神崎少尉は、整備員に銃身の点検を指示した後、横尾飛曹長と向かい合った。
「飛曹長、敵機9機中、撃墜7機。撃破1機
被弾による離脱1機。完全撃滅を果たせませんでした。」
神崎の報告には、完璧を期した彼ならではの悔しさが滲んでいた。
横尾は、被弾痕がほとんどない自らの陣風を見上げ、静かに頷いた。
「神崎、十分な戦果だ。このルソンの空で、我々は彼らに8対0という
信じられない戦果を叩きつけた。だが、お前の言う通り、1機が逃げた。
あの被弾したコルセアは、我々の存在を、そしてこの『陣風』の性能を
米軍司令部に報告するだろう。これで、『幽霊戦闘機』の時代は終わる。
次からは、米軍は必ず本気で、我々を潰しに来る。」
横尾は、整備員に指示を出した。
「全機、整備急げ。特に翼内の20mm機銃の再装填を最優先で行え。
我々に与えられた時間は短い。たった一人の目撃者が帰ったのだからな。」
その日、ボロボロになりながらも奇跡的に帰投したフランク・アレン中尉の証言は
米軍司令部に衝撃を与え、ルソン島上空に突如として現れた
「ジャップの新型機」の脅威を、初めて具体的に認識させた。
「ジャップのゼロでもジャックでもジョージでもない新型機に襲われた」という
アレンの告白は、米軍にとって、ルソン島攻略戦における
新たな、そして最も深刻な空中戦の始まりを意味していた。
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また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
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