レイテの逆光 帝国海軍最後の勝利

みにみ

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栗田艦隊の苦闘

第四戦隊壊滅

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1944年10月24日 14時05分――シブヤン海

「敵機、接近中! 今度は左舷方向!」

「数、約80! 艦爆多数、雷撃機40!」

栗田艦隊が第三次空襲で長門を失った直後
再び敵機が押し寄せてきた。これが第四次空襲——

防空巡洋艦として改装された摩耶は、
その増設された対空砲火能力を活かし
第一次、第二次、第三次空襲と幾度となく敵機を撃墜してきた。

「対空戦闘用意! 三式弾装填!」

高雄型の5基から1基下ろしたものの
4基8門を持つ摩耶の20.3cmE型連装砲が砲口を敵編隊へと向ける
このE型砲塔は妙高型までのD型とは異なり最大仰角を75度まで向上させ
対空戦闘能力を大幅に向上させた砲だ
高雄型以後の最上型、利根型にも改修されたものが搭載されている

「一番三番五番高角砲、敵艦爆に照準合わせ!
 主砲塔対空斉射始め」

砲術長の声が響く。摩耶の主砲が天を仰ぎその砲門から爆炎が迸る

それとほぼ同時に12.7cm高角砲と25mm機銃が一斉に火を噴いた。


「撃てぇぇぇッ!!」

——ドォン!! ドォン!!

摩耶の主砲から放たれた三式弾が炸裂し、敵機の編隊の中に炎の壁を生み出す。

「命中! 二機撃墜!」

「25mm機銃、右舷側で敵機撃墜!」

「高角砲、さらに照準合わせ!」

——ダダダダダダ!!

機銃弾が敵機の正面を捉えて敵機は避けていく
元々、機銃の意図は撃墜することではない 投弾コースに敵機を入れないためにあるのだ
撃たれるのに臆した敵機はこちらに腹を向けて回避していくので一番当たりやすい

「へっ…アメ公めガキの頃に習わなかったのか?
 殴っていいのは殴られる覚悟がある奴だけってのをな!」

艦橋前の25㎜機銃の集中配備からの射撃を喰らった
数機が炎上しながら墜落していく。しかし、それでも米軍機は恐れることなく突進してくる。

「敵急降下爆撃機、接近!」

「左舷前方、爆弾投下!!」

「回避!!」

舵が切られ、摩耶はギリギリで爆撃を回避しようとした。

——ズドォォォン!!!

大きな揺れが艦を貫いた。

「回避!! 艦尾付近、爆弾至近弾!!」

「避けきれんかったか 舵中央戻せ」

切り抜けたと思った瞬間、見張り員からの報告

「敵艦爆直上!」

「取り舵に戻せ 一杯!!!」

号令を出して全長200m近くある艦が回り始める
敵機の投弾までの時間が永遠にも思える

ヒュゥゥゥゥーーーーーゴン と艦に走る

「チッ……」

途端に一番煙突付近から爆風が溢れ出る

「3、4、5、6罐室直撃弾!!」

「応答なし 機関出力低下中!ボイラー圧下がります」

「火災発生!! 消火班、急げ!」

摩耶の中央部から黒煙が立ち上り、火炎が艦内を駆け巡る。
しかし、なおも摩耶は戦い続けた。

「高角砲、まだ撃てるな!?」

「はい! まだ戦えます!!」

「ならば撃て!! 最後まで!!」

「雷撃機、低空で接近!!」

「左舷へ魚雷発射!!」

「回避! 左へ回避!!」

艦橋で叫ばれる。しかし、火災の影響で艦がうまく動かない。

「間に合わない!!」

「衝撃備えッ!」

——ドォン!! ドォン!!

「魚雷二本、左舷後部命中!!」

「機関停止!!」

摩耶の速度が一気に落ちた。
と言うよりも推進器が惰性で回転しているに過ぎない
摩耶は航行能力を失っていた

「火災が広がっています!!」

「消火が追いつきません!!」

艦内に焦げた金属の匂いが充満し、
逃げ場のない炎が乗組員たちを襲う。
艦内各所に塗られた塗料が消しても消しても火元から引火し
パチパチっと音を立てて膨れ上がって炎を上げるのだキリがない


「対空砲、まだ撃てるな!?」

「はい! まだ弾はあります 電気系統も幸い生きてますし」

「ならば、最後まで撃ち続けろ!!」

摩耶は艦の後部を火に包まれながらも、なお対空砲火を撃ち続けた。

——ダダダダダダ!!

——ズドン!!

「艦後部被弾……!!」

その瞬間——

——ズドォォォン!!!

「後部弾薬庫、誘爆!!」

爆風が艦全体を包み込んだ。摩耶の後部から3分の1から
艦体が二つに裂ける。

「艦が……!!」

「総員退艦!!」

艦長の命令が下る。だが、既に艦の後部は沈み始めていた。

「急げ!!」

生存者たちは次々と海へ飛び込んでいく。
しかし、火炎に巻かれて逃げられない者たちもいた。
特に機関科員は艦内の奥深くの防御装甲の中に閉じ込められており
この段階ではほぼ全員が重油の不完全燃焼で発生した薄い一酸化炭素で気絶していた
しかし、上部の者たちはそんなこと知る由もない
結果的に摩耶では機関科員423人中生存者はたった14人だった

「艦長!! 早く!!」

「……摩耶が沈むのか……」

艦長は最後まで艦橋に留まり、艦の最期を見届けようとしていた。

その時、摩耶は大きく傾いた。

「艦長!! もう時間がありません!!」

「副長 脱出した乗員たちの事を頼む……!!」

そう言い残し、艦長は艦長室に入り鍵をかける。

艦長の最後の言葉を聞いた副長は甲板から傾斜していない右舷側に飛び込む

次の瞬間——

——ズゴォォォォン……!!!

摩耶は海中へと沈み、黒煙を上げながら消えていった。

海面には炎が広がり、瓦礫と生存者が浮かんでいた。


旗艦「武蔵」の艦橋では、その様子を見つめる者たちがいた。

「摩耶が沈んだか……」

「しかし、あれほどの対空砲火を展開し、
 最後まで敵を撃ち落とし続けた……」

「これで第四戦隊は壊滅か」

しかしまだ戦いは続いていた。
栗田艦隊は、なおもサンベルナルジナ海峡を目指し、進撃を続ける。
サンベナルジナ海峡を抜ければそこはサマール沖
その海域を突破すれば目標となるレイテ湾が見えてくる

「全艦縦列陣 第五戦隊、第三十一駆を先頭とし
 第二種警戒航行序列で海峡を突破する!」

かくして、栗田艦隊は長門、摩耶を失う損害を出しながらも
その他の艦はほぼ被害のない状態でサンベナルジナ海峡を通過した
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