レイテの逆光 帝国海軍最後の勝利

みにみ

文字の大きさ
13 / 22
栗田艦隊の苦闘

ビックセブンの矜持

しおりを挟む
1944年10月24日 12時30分――シブヤン海

静かな海を切り裂くように、旗艦武蔵の電探が新たな敵影を捉えた。

「敵機捕捉!正面角度 数、約100以上!」

電探員の声が「武蔵」の艦橋に響き渡る。
第三次空襲——その規模は、今までとは比較にならなかった。

「対空戦闘用意! 各艦、三式弾装填!」

栗田艦隊の全艦が直ちに対空戦闘態勢へと移行する。12時45分、敵機の編隊が視界に入った。

「敵艦載機、急降爆約60、雷撃機約40、戦闘機20!」

「……対空戦闘開始 撃ち方始め」

旗艦「武蔵」をはじめ、各艦が対空砲火を開始した。

第三次空襲(13:00)— 長門、死闘

「敵急降下爆撃機、長門に集中!」
いまだに第二次空襲の際の黒煙を噴き上げるままの長門に敵編隊が向かう
しかし長門も黙ってはいない
砲塔がうなりを上げ、主砲の三式弾が一斉に発射される。

——ドォン!!

巨弾が炸裂し、襲いかかる米軍機の一部を飲み込んだ。
だが、それでも敵は怯まず突進してくる。

「主砲塔撃ち方やめ 右舷高角砲撃ち方始め」

12.7cm高角砲が激しく火を噴いた。

急降下爆撃機に対しては高角砲は分が悪い
高角砲は元々弾幕の形成で敵機を範囲内に入らせないようにするものだ
機動性の高い急降下爆撃機には不向きだ

「右舷機銃群撃ち方始め 目標敵三番隊」
——ズダダダダダ!!

曳航弾が敵機を掠め、弾道修正された焼夷榴弾が敵機の機体を裂き、
数機が炎に包まれて海へと落ちていく。
しかし、それをものともせずに敵機群が長門へと殺到した。

「敵機直上急降下!」

「総員衝撃に備え!!」

——ズドン!!

最初の爆弾が甲板に命中した。

「第一主砲塔付近、直撃弾! 甲板損傷!」

「火災発生! 消火班、急げ!」

「敵雷撃機、接近! 左舷に魚雷!!」

「取舵一杯! 回避急げ!」

長門は大きく左へ旋回し、魚雷を避けようとした。しかし、回避機動の最中、新たな爆弾が降り注ぐ。

——ズドン!! ズドン!!

「中央部直撃! 火薬庫付近に被弾!!」

「火災拡大!! 砲塔内部への延焼を防げ!!」

「舵が効かん! 航行不能!!」

甲板上では砲弾が爆発し、火柱が上がる。
艦内は煙と熱気で充満し、乗員たちは息をするのも困難な状況だった。

——ドォン!!

その時、今日一番の衝撃が訪れる。

「左舷、魚雷二本命中!!」

回避しきれなかった2本が長門に突き刺さる

「浸水発生 拡大中! 排水ポンプが追いつきません!!」

「四番六番八番罐室応答なし 機関出力六万まで低下」

浸水で艦が大きく傾き始めた。

「さらに魚雷接近! 今度は右舷!」

「もう舵が……!」

罐室故障で速力が低下し浸水で重量が増えた状態の長門に
満足に回避する術はなかった。

——ドォン!! ドォン!!

右舷にも魚雷が命中し、喫水線から1m近くも沈下。

しかし、まだ長門は動き続ける

この頃にはF6Fからのロケット弾攻撃で機銃員が殺傷され
対空戦闘能力が大きく低下していた

「敵雷撃機接近」

艦隊の中で一艦 速力を落とし、黒煙を振り撒く長門には
とどめを刺さんと敵機が群がってくる

「高角砲 目標左舷から接近する雷撃機 てっ」

と、その時射撃指示を出していない主砲が放たれた

ーードォォン!

放たれた零式通常弾が海面に突き刺さって
即起爆し、か巨大な水柱を立てて
水面スレスレを飛んできていた
アヴェンジャー雷撃機を海中に叩き落とす

「むぅ、撃墜できたからいいものの…」

主砲の射撃の衝撃で艦前部の機銃員が伸びてしまっている

「敵雷撃機艦後方から接近!魚雷投下!」

やられた 右舷からの敵機に気を取られている間に
左舷側から敵機が突っ込んで来ていた 今更機銃が撃つが間に合わない

ドドォン!ドドォン!ドドォォン!

回避する術なく右舷に4本全弾命中

「注排水区画完全浸水!!」

「艦が……持ちません!!」

艦の各所から悲鳴が上がる

「最後まで持ち場を守れ!!」

それでも対空砲は最後の弾丸を撃ち続けた。

しかし、その時だった。

「敵急降下爆撃機、再び接近!」

「今度は……艦橋を!!」

——ズドン!!

速度が落ちた長門の艦橋を敵急降下爆撃機が狙撃し
艦橋に1000lb爆弾が命中。
爆風が吹き荒れ、艦橋の測距儀や防空指揮所などの構造物が崩れ落ちる。

「艦長! 艦長!!」

しかし、その姿は炎と煙に包まれ、もはや確認することはできなかった。

「総員、持ち場を放棄するな!!」

それでも、長門は沈むまいと最後の力を振り絞る。
対空砲火は途切れることなく続き、何機もの敵機を撃ち落とした。

だが、それも限界だった。

——ゴゴゴゴゴ……!!!

長門の傾斜が30度を超えた。

「これ以上は……」

「……総員退艦!!」

指揮所にいた副長が指揮を引き継いでいたが
長門の損害を考えると戦闘は困難 沈没が近いとの考えで
退艦命令が降りた
しかし、空襲でぐちゃぐちゃになった甲板に無事な内火艇などあるわけがない
乗員たちは次々と海へ飛び込んでいった。

「長門、沈むぞ!!」

左舷に大きく傾いたまま、長門はゆっくりと沈んでいく。

「栄光ある長門が……!」

最後まで艦の上に残っていた者たちが海へと身を投げた直後、
それを待っていたかのように長門は完全に転覆し、
海面にその巨大な艦底を晒した。そして、次の瞬間——

——ズゴォォォォン……!!

後部の大爆発を起こして艦首を高く持ち上げた長門は急速に沈下
艦首部の旭日旗を最後まではためかせながら
ビックセブンのうちの一艦
大日本帝国海軍長門型戦艦一番艦
栄光の戦艦長門は深く冷たいフィリピンの沖へと沈んでいった

そこには長門から流れ出た木片と重油、漂う生存者たちだけが残された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

異聞第二次世界大戦     大東亜の華と散れ

みにみ
歴史・時代
1939年に世界大戦が起きなかった世界で 1946年12月、日独伊枢軸国が突如宣戦布告! ジェット機と進化した電子機器が飛び交う大戦が開幕。 真珠湾奇襲、仏独占領。史実の計画兵器が猛威を振るう中、世界は新たな戦争の局面を迎える。

米国戦艦大和        太平洋の天使となれ

みにみ
歴史・時代
1945年4月 天一号作戦は作戦の成功見込みが零に等しいとして中止 大和はそのまま柱島沖に係留され8月の終戦を迎える 米国は大和を研究対象として本土に移動 そこで大和の性能に感心するもスクラップ処分することとなる しかし、朝鮮戦争が勃発 大和は合衆国海軍戦艦大和として運用されることとなる

黎明の珊瑚海

みにみ
歴史・時代
MO作戦、米豪遮断作戦によって発生した珊瑚海海戦 この戦いにより双方空母一隻喪失、一隻中破で相打ちとなったが作戦失敗により 日本海軍の戦略的敗北となる 大本営は残る正規空母4隻、軽空母2隻を擁して第二次MO作戦を決行することを決定 だが対抗する米海軍も無線傍受で作戦の情報を得て… ミッドウェーに代わる太平洋戦争の天王山 第二次珊瑚海海戦いざ開幕

第二水上戦群 略称二水戦  南西諸島方面へ突入す

みにみ
歴史・時代
2027年 中華人民共和国陸海空軍は台湾島、沖縄本島を含む南西諸島方面へと軍事侵攻を開始 これに立ち向かうのは日本国海上自衛隊第二水上戦群、略称二水戦と米海軍最強艦隊第七艦隊 彼らが向かう先にあるものとは 自衛の先に見えるものは

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

離反艦隊 奮戦す

みにみ
歴史・時代
1944年 トラック諸島空襲において無謀な囮作戦を命じられた パターソン提督率いる第四打撃群は突如米国に反旗を翻し 空母1隻、戦艦2隻を含む艦隊は日本側へと寝返る 彼が目指したのはただの寝返りか、それとも栄えある大義か 怒り狂うハルゼーが差し向ける掃討部隊との激闘 ご覧あれ

処理中です...