北海道防衛作戦 赤き嵐を吹きとめよ

みにみ

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開戦

嵐の前の静けさ

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1945年8月、北海道旭川。第七師団
通称「北鎮師団」の駐屯地は、朝の冷気と松林の静寂に包まれていた
約2万人の兵士を擁するこの師団は、北海道防衛の要であり
ソ連の千島侵攻を受けて最高度の警戒態勢にあった
山本健太郎大佐は、機甲部隊の点検場に立ち、戦車の列を厳しい目で眺めた
九七式中戦車、一式中戦車、そして貴重な三式中戦車が整然と並ぶ
戦車は戦争末期の燃料不足などであまり動かせていなかったが
先頭の可能性があるということで兵士たちの手で整備され、戦闘準備が整えられていた。

「大佐、点検の準備が完了しました。」副官の小林中佐が敬礼し、報告した。

山本は頷き、「始めろ。」と低く命じた。

戦車の列を歩きながら、彼は各車両の状態を確認した
九七式の47mm砲は時代遅れだが、信頼性が高い
一式中戦車は機動力が向上し、三式中戦車は75mm砲を備え
ソ連のT-34に対抗可能な数少ない戦力だった
しかし、三式はわずか数台。物資不足が師団の戦力を削いでいた。

「この三式中戦車は即時運用可能か?」
山本は乗務員の長に尋ねた。

「はい、大佐。整備済みで、弾薬も確保しています。」
若い兵士が緊張しながら答えた。

「よし。いつでも出撃できるようにしろ。」
山本の声には重みがこもっていた。

点検を終え、司令室に戻った彼は、地図と情報報告書を広げた。
ソ連は満州を席巻し、千島列島と樺太に進軍中
北海道への侵攻が現実味を帯びていた
降伏宣言後も、北鎮師団は武装解除を拒否し、2万人の兵力を維持
山本は、北海道の山岳と森林を活かし、機動戦で敵を翻弄する計画を練っていた。

「大佐、最新の情報です。ソ連軍が樺太で大規模な兵力集結を確認。」
小林が電報を手に報告した。

山本は眉をひそめた。
「我々の防衛線はどうだ?」

「留萌から釧路まで、哨戒を強化しています
 2万人の兵力で、主要拠点を固めていますが
 敵の装備は我々を上回る可能性があります。」

「ならば、地形を最大限に活用する
 戦車部隊は山間部での待ち伏せに備え、歩兵はゲリラ戦を展開しろ。」

夕方、訓練場を訪れた。戦車が轟音を立て、土煙を上げながら動く
2万人の兵士たちは、疲れを見せず、故郷を守る決意に燃えていた。
「よくやっている。」
山本は声をかけたが心は北の海を越えた脅威に囚われていた。

夜、緊急電報が届いた。

「ソ連軍ハ樺太ヨリ北海道ヘ向ケ移動開始
 八月二十四日上陸ノ可能性大ナリテ 警戒配備ニ備エラレタシ」

山本は拳を握り、
「ついに来たか。」と呟いた。


札幌の病院は、戦後の混乱で溢れかえっていた
佐藤美和は、白衣に血と汗を滲ませ、負傷兵や避難民の世話に追われていた
病室は、空襲の犠牲者や帰還兵で埋まり、物資不足が治療を困難にしていた。

「美和、3号室の患者が危篤!」
先輩看護師の声に、彼女は急いで駆けつけた
ベッドには、片足を失った若い兵士が横たわる。顔は青白く、苦痛に喘いでいた。

「大丈夫、すぐに手当てします。」
美和は落ち着いた声で言い
傷口を消毒した。兵士は弱々しく呟いた。
「ありがとう…故郷に帰りたかった…」

彼女は涙をこらえ、包帯を巻いた。戦争は終わったはずなのに
苦しみは続く。病院の外では、避難民が食料を求めて列をなし
子供たちが焼け跡で遊ぶ姿が見えた。

休憩時間、屋上で札幌の空を見上げた
街は傷つきながらも、生きようとしていた
美和は函館の両親を思い出した
連絡は途絶え、生存の希望だけが支えだった。

「美和、今日はよくやった。少し休みなさい。」
院長の言葉に、彼女は微笑んだ。

「はい、ありがとうございます。」

病院を出て、街を歩く。焼け野原に屋台が立ち、
人々が笑顔を取り戻しつつある。だが、北からのソ連の脅威の噂が
彼女の心に影を落とした。北鎮師団の2万人の兵士が
北海道を守る最後の砦だと囁かれていた。



樺太の軍港は、侵攻準備の喧騒に包まれていた
イワン・ペトロフ中将は、輸送船の甲板に立ち
第87歩兵軍団の積み込みを監督した。冷たい海風が頬を刺す
約2万から3万人の兵力、T-34戦車、航空支援を備えたこの軍団は
北海道を迅速に制圧する任務を負っていた。

「中将、初波の2個連隊が留萌上陸を担当します。準備は整いました。」
副官のアレクセーエフ大佐が報告した。

ペトロフは頷いた。
「輸送船の状況は?」

「プロジェクト・フラの米供与船が到着しましたが
 数が不足しています。2回に分けて輸送が必要です。」

「ならば、迅速に動け。スターリン同志の命令は絶対だ。」

会議室で、将校たちと作戦を練った
地図には、留萌から札幌への進軍ルートが描かれている。
「日本軍は降伏したが、第七師団の2万人が抵抗する可能性が高い。油断するな。」

一部の将校が疑問を呈した。
「中将、輸送能力が不足し、海軍の支援も限定的です。成功は困難では?」

ペトロフは厳しく答えた。
「我々の任務は、同志スターリンの言う通り
 北海道を確保し、ソ連の地位を高めることだ。議論は無用。」

夜、1人 海を見つめた。東部戦線での勝利を重ねた彼だが
降伏した国への侵攻に不安がよぎる。だが、命令は命令。ソ連の栄光のため、戦うしかない。


東京の連合国占領軍司令部は、書類と無線の雑音で満たされていた
ジェームズ・ミラー中尉は、ソ連の動向を示す報告書を読み込んだ
机には、焼け焦げた東京の地図が広がる。

「中尉、ソ連が樺太で兵力を集結させています北海道侵攻の可能性があります。」
情報将校のオブライエン軍曹が報告した。

ミラーは眉をひそめた。
「それはまずい。ソ連が北海道を占領すれば、戦後の均衡が崩れる。」

彼は上司のハリス大佐に電話をかけた。
「大佐、ソ連の動きが活発化しています。対応が必要です。」

「情報収集を続けろ。トルーマン大統領はソ連との衝突を避けたいが、必要なら動く。」

ミラーは窓の外を見た。東京の街は廃墟と化し
人々が復興に励む。ソ連の侵攻が始まれば、新たな混乱が起きるだろう
彼は家族の写真を取り出し、故郷を思った
北鎮師団の2万人の抵抗が、どれだけ時間を稼げるのか、未知数だった。
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