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双子の巨星
只今ノ本艦ノ速力ハ…
竣工式を終えた「筑波」と「生駒」は
数日後、静かに呉の岸壁を離れた
大勢の工廠関係者や見送りの人々に見守られながら
双子の巨艦は汽笛を鳴らし、ゆっくりと外洋へと針路を取る。
海野信一郎少尉は、初めて軍艦として自らが乗る艦が岸を離れるのを感じ
胸に込み上げる感慨を禁じ得なかった。真新しい鋼鉄の船体が波を切り裂いて進む感触は
彼にとって、これから始まる未知の旅への第一歩を実感させるものだった。
外洋に出た両艦は、まずは基本的な慣熟訓練に入った。
艦を構成する無数の区画、複雑な機械、そして千三百人もの乗組員が
一つの有機体として機能するための擦り合わせである
砲塔の旋回試験、揚錨機の操作、防水訓練、火災訓練……
海野は砲術科士官として、31cm主砲や長10cm高角砲の機構
射撃指揮装置の操作法などを習得するために、連日猛烈な訓練に励んだ
砲塔内部は、巨大な機械の塊であり、油の匂いと鋼鉄が擦れる音に満ちていた
長門や陸奥の41cm砲ではなく、より新設計の31cm三連装砲は
理論上は高い発射速度と命中精度を持つとされていた
しかし、実機を動かすのには、まだ多くの不慣れと調整が必要だった。
松本耕三上等兵曹は、そんな海野を辛抱強く指導した
射撃盤の操作、目標捕捉のコツ、そして何よりも
艦の揺れや風、波といった自然条件を読み取る「勘」の重要性を説いた。
「理論は大事だ、少尉殿。だが、海の上じゃ
風が吹きゃ弾は流されるし、波が来りゃ艦は揺れる
全部、計算通りにはいかねえ。そこに、俺たちの経験と
お前さんの新しい頭脳をどう組み合わせるかだ」
松本の言葉は厳しかったが
その的確な指導は海野にとって何よりも勉強になった
彼は、松本が長年の経験で培ってきた
数字や理論だけでは捉えきれない海の厳しさ
そして正確な射撃に必要な「生きた」感覚を、少しずつ吸収していった。
慣熟訓練のハイライトは、全力公試訓練である
これは、艦の最大速力と機関の限界性能を測定するための重要な試験だ
指定された海域は、外洋に面した宿毛岬沖。波穏やかな湾内ではなく
荒々しい外洋で行うことで、実戦に近い状況での性能を把握するのだ。
全力公試の日、「筑波」の機関室は尋常ではない熱気に包まれていた
ロ号艦本式重油専焼水管缶八基が全ての蒸気をタービンに送り込み
四基のオールギヤード・タービンが猛烈な唸りを上げている
機関科の乗組員たちは、汗と油にまみれながら、
計器を監視しバルブを調整、わずかな異音も聞き逃さないよう
極度の集中力を維持していた。この日のために整備に整備を重ねてきた彼らにとって
全力公試は己の仕事の成果を示す場でもあった。
艦橋では、黒島艦長以下
航海科や機関科の士官たちが緊張した面持ちで速度計を見つめている
海野は砲塔の中で待機していたが、艦全体を伝わってくる振動と
加速に伴って高まっていくタービンの唸りから
艦が尋常ではない速度を出そうとしていることを感じ取っていた。
速度計の針が上昇していく。
二〇ノット
二五ノット
そして三〇ノット
計画最大速力である三三ノットに近づいていくにつれて
艦全体が軋みを上げているかのようだ。波を切る音が激しくなり
艦首から立ち上る白波がまるで壁のように見える。
「速力、三二ノット!」
「三三ノット、到達!」
艦橋から報告が飛ぶ。計画最大速力に到達した。
しかし、機関室からの報告はまだ加速可能を示唆している。黒島艦長は冷静に指示を出した。
「機関一杯最大速力!どこまで行けるか見てみろ!」
機関室の乗組員たちは、歓喜にも似た緊張感の中で
さらに機関を絞り出した。タービンの唸りが一段と高まり
艦の振動が増す。速度計の針は、まだ僅かだが上昇を続けている。
「三四ノット!」
艦橋に驚きの声が漏れる。計画を上回ったのだ。
しかし、機関室からはまだ悲鳴は上がらない。
「三四・五ノット!」
そして
「……三五ノット!」
「おおっ…」
その瞬間、艦橋に集まっていた全員から
小さな、しかし確かな歓声が漏れた。信じられないような数値だ
三五ノット。それは、設計値を二ノットも上回る、まさに驚異的な速力だった。
ほぼ同時に、艦内には興奮した声の艦内放送が響き渡った。
「只今、本艦は公試速力、三五ノットを達成いたしました!」
その放送を聞いた瞬間、「筑波」の艦内は
まるで祝勝会場のような熱狂に包まれた
砲塔の中、通路、居住区、食堂……。誰もが互いに顔を見合わせ
驚きと歓喜の声を上げた。
「嘘だろ…!三五ノットだって!?」
「すげえ!化け物だ!やっぱりこの艦は化け物だ!」
「あのデカさで三五ノットかよ!駆逐艦並みじゃねえか!」
海野も、砲塔の中で思わず拳を握りしめた。三五ノット
その意味は、海軍士官である彼には痛いほどよく理解できた
白露型や朝潮型といった、当時の日本の主力駆逐艦の計画速力が三四ノット程度だ
つまり、「筑波」は、あの巨体でありながら、駆逐艦に匹敵する
いや、凌駕する速力を持っているということなのだ
そして、戦艦クラスの装甲と砲力を持つ艦としては、これはまさに破格中の破格の性能と言える。
松本上等兵曹は、歓喜に沸く周囲の水兵たちとは異なり
静かにその放送を聞いていた。彼の顔には
驚きと、そして深い満足感が浮かんでいるように見えた
彼は海野の方を向き、かすかに笑った。
「少尉殿 どうやら俺らの乗ってる艦は化け物どころじゃないらしいぞ」
その言葉に、海野は力強く頷いた。三五ノット
それは、この艦の持つ可能性の大きさを雄弁に物語っていた
この速力があれば、機動部隊の高速空母に楽々と追随できる
敵艦隊から迅速に離脱することも、追撃することも可能だ
そして、何よりも、この速度で敵の懐に飛び込み
31cm砲の洗礼を浴びせることもできるのだ。
全力公試を成功させた後も、慣熟訓練は続いた
特に重点が置かれたのは、対空戦闘訓練である
MI作戦が目前に迫るこの時期、海軍上層部は敵航空攻撃の脅威を強く意識していた。
「筑波」には、最新鋭の対空射撃指揮装置である
九四式高射装置が四基備えられていた
これは、目標の高度、速度、方向などを測定し
高角砲や機関砲の射撃諸元を自動的に計算する装置である
訓練では、味方の航空機や曳航標的が模擬敵機となり、「筑波」に襲いかかる。
「対空戦闘用意!」
号令一下、乗組員たちはそれぞれの配置につく
九四式高射装置が旋回し、模擬敵機を捕捉する
目標の距離、速度などのデータが射撃盤に送られ、計算された射撃諸元が各砲に伝達される。
「目標、敵機!距離三〇〇〇!」
砲術長の声が響く。八基の九八式一〇センチ連装高角砲が
旋回しながら目標を追尾する
そして、その脇では、十二基の九六式25粍三連装機関砲と二十八基の単装機関砲
合計六四門の機関砲が、まるで生き物のように蠢いている。
「撃ち方始め!」
法術長の号令と共に、凄まじい轟音が響き渡った
まず、長10cm高角砲から火を噴く。高い初速を持つ10cm砲弾が
鋭い弾道を描いて空に吸い込まれていく。そして、それを追うように
25粍機関砲が一斉に火を噴いた。ダダダダ、という連射音と共に
無数の曳光弾が空を切り裂き、赤い筋となって模擬敵機へと殺到する
三連装機関砲が生み出す弾幕は、まさに鉄の壁のようだ
六四門の二五ミリ機関砲から放たれる弾丸の量は、想像を絶するものだった。
海野は、その対空火力の凄まじさに目を見張った。
これほどの弾幕を張られれば、敵機といえども容易には近づけないだろう。
特に25粍機関砲の数は、他の日本艦艇と比較しても圧倒的に多い。
「すげえな、少尉殿。これだけありゃ、どんな奴だって近寄れねえぜ!」
松本上等兵曹が、耳元で叫んだ。彼の顔には
自艦の能力に対する確かな自信が浮かんでいた。
しかし、訓練が続くにつれて、海野は別のことも感じ始めていた。
確かに、この対空火力は強力だ。
しかし、敵機の速度は速く、動きもトリッキーだ。
九四式高射装置は光学式であり、高速で機動する目標に対する追尾には
限界があるように見えた。そして、何よりも、実際の戦闘では、
敵機はたった一機や二機で来るわけではない。
数百機という規模で波状攻撃を仕掛けてくるのだ。
これだけの火器があっても、果たしてその全てを防ぎきれるのだろうか。
訓練を終え、自室に戻った海野は、対空戦闘訓練の様子を思い返していた。
強力な火器、最新の射撃指揮装置。しかし、どこかに拭い去れない不安が残る。
次の戦場で、空母部隊は敵の航空攻撃に晒されることになるだろう。
そして、「筑波」と「生駒」は、その盾となるのだ。
慣熟訓練は順調に進み、「筑波」と「生駒」は
間もなく連合艦隊に編入されることになった。
配属先は、空母を中心とした第一機動部隊。
その直掩という、最も重要で危険な任務である。
「筑波」の乗組員たちの間には、機動部隊の一員となれることへの誇りと、
来るべき戦への高揚感が満ちていた。
三五ノットの高速力、三一センチ砲の威力、そして圧倒的な対空火力。
この艦ならば、必ずや帝国海軍の勝利に貢献できるだろう。
しかし、海野は、あの三五ノットを達成した時の興奮と、
対空戦闘訓練で感じた一抹の不安、そして山本長官の厳粛な言葉が、
胸の中で交錯しているのを感じていた。双子の巨星は、
今、実戦の海へと旅立とうとしている。
その行く手に待ち受けるものが、希望の光なのか、
あるいは絶望の淵なのか、それはまだ誰にも分からなかった。
ただ、嵐の予感だけが、静かに海野の心に降り積もっていくのだった。
数日後、静かに呉の岸壁を離れた
大勢の工廠関係者や見送りの人々に見守られながら
双子の巨艦は汽笛を鳴らし、ゆっくりと外洋へと針路を取る。
海野信一郎少尉は、初めて軍艦として自らが乗る艦が岸を離れるのを感じ
胸に込み上げる感慨を禁じ得なかった。真新しい鋼鉄の船体が波を切り裂いて進む感触は
彼にとって、これから始まる未知の旅への第一歩を実感させるものだった。
外洋に出た両艦は、まずは基本的な慣熟訓練に入った。
艦を構成する無数の区画、複雑な機械、そして千三百人もの乗組員が
一つの有機体として機能するための擦り合わせである
砲塔の旋回試験、揚錨機の操作、防水訓練、火災訓練……
海野は砲術科士官として、31cm主砲や長10cm高角砲の機構
射撃指揮装置の操作法などを習得するために、連日猛烈な訓練に励んだ
砲塔内部は、巨大な機械の塊であり、油の匂いと鋼鉄が擦れる音に満ちていた
長門や陸奥の41cm砲ではなく、より新設計の31cm三連装砲は
理論上は高い発射速度と命中精度を持つとされていた
しかし、実機を動かすのには、まだ多くの不慣れと調整が必要だった。
松本耕三上等兵曹は、そんな海野を辛抱強く指導した
射撃盤の操作、目標捕捉のコツ、そして何よりも
艦の揺れや風、波といった自然条件を読み取る「勘」の重要性を説いた。
「理論は大事だ、少尉殿。だが、海の上じゃ
風が吹きゃ弾は流されるし、波が来りゃ艦は揺れる
全部、計算通りにはいかねえ。そこに、俺たちの経験と
お前さんの新しい頭脳をどう組み合わせるかだ」
松本の言葉は厳しかったが
その的確な指導は海野にとって何よりも勉強になった
彼は、松本が長年の経験で培ってきた
数字や理論だけでは捉えきれない海の厳しさ
そして正確な射撃に必要な「生きた」感覚を、少しずつ吸収していった。
慣熟訓練のハイライトは、全力公試訓練である
これは、艦の最大速力と機関の限界性能を測定するための重要な試験だ
指定された海域は、外洋に面した宿毛岬沖。波穏やかな湾内ではなく
荒々しい外洋で行うことで、実戦に近い状況での性能を把握するのだ。
全力公試の日、「筑波」の機関室は尋常ではない熱気に包まれていた
ロ号艦本式重油専焼水管缶八基が全ての蒸気をタービンに送り込み
四基のオールギヤード・タービンが猛烈な唸りを上げている
機関科の乗組員たちは、汗と油にまみれながら、
計器を監視しバルブを調整、わずかな異音も聞き逃さないよう
極度の集中力を維持していた。この日のために整備に整備を重ねてきた彼らにとって
全力公試は己の仕事の成果を示す場でもあった。
艦橋では、黒島艦長以下
航海科や機関科の士官たちが緊張した面持ちで速度計を見つめている
海野は砲塔の中で待機していたが、艦全体を伝わってくる振動と
加速に伴って高まっていくタービンの唸りから
艦が尋常ではない速度を出そうとしていることを感じ取っていた。
速度計の針が上昇していく。
二〇ノット
二五ノット
そして三〇ノット
計画最大速力である三三ノットに近づいていくにつれて
艦全体が軋みを上げているかのようだ。波を切る音が激しくなり
艦首から立ち上る白波がまるで壁のように見える。
「速力、三二ノット!」
「三三ノット、到達!」
艦橋から報告が飛ぶ。計画最大速力に到達した。
しかし、機関室からの報告はまだ加速可能を示唆している。黒島艦長は冷静に指示を出した。
「機関一杯最大速力!どこまで行けるか見てみろ!」
機関室の乗組員たちは、歓喜にも似た緊張感の中で
さらに機関を絞り出した。タービンの唸りが一段と高まり
艦の振動が増す。速度計の針は、まだ僅かだが上昇を続けている。
「三四ノット!」
艦橋に驚きの声が漏れる。計画を上回ったのだ。
しかし、機関室からはまだ悲鳴は上がらない。
「三四・五ノット!」
そして
「……三五ノット!」
「おおっ…」
その瞬間、艦橋に集まっていた全員から
小さな、しかし確かな歓声が漏れた。信じられないような数値だ
三五ノット。それは、設計値を二ノットも上回る、まさに驚異的な速力だった。
ほぼ同時に、艦内には興奮した声の艦内放送が響き渡った。
「只今、本艦は公試速力、三五ノットを達成いたしました!」
その放送を聞いた瞬間、「筑波」の艦内は
まるで祝勝会場のような熱狂に包まれた
砲塔の中、通路、居住区、食堂……。誰もが互いに顔を見合わせ
驚きと歓喜の声を上げた。
「嘘だろ…!三五ノットだって!?」
「すげえ!化け物だ!やっぱりこの艦は化け物だ!」
「あのデカさで三五ノットかよ!駆逐艦並みじゃねえか!」
海野も、砲塔の中で思わず拳を握りしめた。三五ノット
その意味は、海軍士官である彼には痛いほどよく理解できた
白露型や朝潮型といった、当時の日本の主力駆逐艦の計画速力が三四ノット程度だ
つまり、「筑波」は、あの巨体でありながら、駆逐艦に匹敵する
いや、凌駕する速力を持っているということなのだ
そして、戦艦クラスの装甲と砲力を持つ艦としては、これはまさに破格中の破格の性能と言える。
松本上等兵曹は、歓喜に沸く周囲の水兵たちとは異なり
静かにその放送を聞いていた。彼の顔には
驚きと、そして深い満足感が浮かんでいるように見えた
彼は海野の方を向き、かすかに笑った。
「少尉殿 どうやら俺らの乗ってる艦は化け物どころじゃないらしいぞ」
その言葉に、海野は力強く頷いた。三五ノット
それは、この艦の持つ可能性の大きさを雄弁に物語っていた
この速力があれば、機動部隊の高速空母に楽々と追随できる
敵艦隊から迅速に離脱することも、追撃することも可能だ
そして、何よりも、この速度で敵の懐に飛び込み
31cm砲の洗礼を浴びせることもできるのだ。
全力公試を成功させた後も、慣熟訓練は続いた
特に重点が置かれたのは、対空戦闘訓練である
MI作戦が目前に迫るこの時期、海軍上層部は敵航空攻撃の脅威を強く意識していた。
「筑波」には、最新鋭の対空射撃指揮装置である
九四式高射装置が四基備えられていた
これは、目標の高度、速度、方向などを測定し
高角砲や機関砲の射撃諸元を自動的に計算する装置である
訓練では、味方の航空機や曳航標的が模擬敵機となり、「筑波」に襲いかかる。
「対空戦闘用意!」
号令一下、乗組員たちはそれぞれの配置につく
九四式高射装置が旋回し、模擬敵機を捕捉する
目標の距離、速度などのデータが射撃盤に送られ、計算された射撃諸元が各砲に伝達される。
「目標、敵機!距離三〇〇〇!」
砲術長の声が響く。八基の九八式一〇センチ連装高角砲が
旋回しながら目標を追尾する
そして、その脇では、十二基の九六式25粍三連装機関砲と二十八基の単装機関砲
合計六四門の機関砲が、まるで生き物のように蠢いている。
「撃ち方始め!」
法術長の号令と共に、凄まじい轟音が響き渡った
まず、長10cm高角砲から火を噴く。高い初速を持つ10cm砲弾が
鋭い弾道を描いて空に吸い込まれていく。そして、それを追うように
25粍機関砲が一斉に火を噴いた。ダダダダ、という連射音と共に
無数の曳光弾が空を切り裂き、赤い筋となって模擬敵機へと殺到する
三連装機関砲が生み出す弾幕は、まさに鉄の壁のようだ
六四門の二五ミリ機関砲から放たれる弾丸の量は、想像を絶するものだった。
海野は、その対空火力の凄まじさに目を見張った。
これほどの弾幕を張られれば、敵機といえども容易には近づけないだろう。
特に25粍機関砲の数は、他の日本艦艇と比較しても圧倒的に多い。
「すげえな、少尉殿。これだけありゃ、どんな奴だって近寄れねえぜ!」
松本上等兵曹が、耳元で叫んだ。彼の顔には
自艦の能力に対する確かな自信が浮かんでいた。
しかし、訓練が続くにつれて、海野は別のことも感じ始めていた。
確かに、この対空火力は強力だ。
しかし、敵機の速度は速く、動きもトリッキーだ。
九四式高射装置は光学式であり、高速で機動する目標に対する追尾には
限界があるように見えた。そして、何よりも、実際の戦闘では、
敵機はたった一機や二機で来るわけではない。
数百機という規模で波状攻撃を仕掛けてくるのだ。
これだけの火器があっても、果たしてその全てを防ぎきれるのだろうか。
訓練を終え、自室に戻った海野は、対空戦闘訓練の様子を思い返していた。
強力な火器、最新の射撃指揮装置。しかし、どこかに拭い去れない不安が残る。
次の戦場で、空母部隊は敵の航空攻撃に晒されることになるだろう。
そして、「筑波」と「生駒」は、その盾となるのだ。
慣熟訓練は順調に進み、「筑波」と「生駒」は
間もなく連合艦隊に編入されることになった。
配属先は、空母を中心とした第一機動部隊。
その直掩という、最も重要で危険な任務である。
「筑波」の乗組員たちの間には、機動部隊の一員となれることへの誇りと、
来るべき戦への高揚感が満ちていた。
三五ノットの高速力、三一センチ砲の威力、そして圧倒的な対空火力。
この艦ならば、必ずや帝国海軍の勝利に貢献できるだろう。
しかし、海野は、あの三五ノットを達成した時の興奮と、
対空戦闘訓練で感じた一抹の不安、そして山本長官の厳粛な言葉が、
胸の中で交錯しているのを感じていた。双子の巨星は、
今、実戦の海へと旅立とうとしている。
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あるいは絶望の淵なのか、それはまだ誰にも分からなかった。
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