超甲巡 筑波        いざ太平洋へ出撃せん

みにみ

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ミッドウェーの盾

第二次攻撃の要あり

日本時間6月5日午前1時30分
太平洋の闇に包まれた海上で 第一機動部隊の四隻の空母は
ミッドウェー島への第一次攻撃隊の発進を控えていた
「赤城」「加賀」「飛龍」「蒼龍」の飛行甲板には
零式艦上戦闘機、九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機が整然と翼を並べ
発艦を待つエンジンの低いうなりが、あたりを満たしていた
燃料と火薬の混じった独特の匂いが、夜の潮風に乗って漂う。

「筑波」の海野信一郎少尉は、艦橋の左舷側に立ち
遠目に「赤城」の甲板を見つめていた。ライトに照らされた飛行甲板では
搭乗員たちが最終の機体点検に追われている。薄暗い中で
整備兵たちの顔には疲労と緊張が刻まれていた。その一人ひとりの動きが
これから始まる巨大な作戦の歯車であることを海野は感じていた
彼は、この艦隊の、そして日本の命運が、今、この瞬間に飛び立とうとしている
108機の航空機に託されていることを知っていた。

「筑波」は、機動部隊の最前線、空母群の最も近くに位置していた
その巨大な艦体は、いつでも敵の攻撃を迎え撃つべく、全火器を整えている
艦橋では、黒島鉄蔵艦長が、静かに
しかし鋭い眼光で周囲の状況を監視していた
彼の指示一つで、この巨艦は瞬時に対応できる態勢にあった。

友永丈市大尉は、「飛龍」の飛行甲板で、
自らの九七式艦攻に乗り込もうとしていた。周囲に広がる数多の艦船
それが日本海軍の誇る巨大な機動部隊だ
彼の一挙手一投足が、この作戦の成否を左右する
ミッドウェーは、米軍が重要視する太平洋の拠点。そこを叩き
敵機動部隊を誘い出して殲滅する。それが、友永に与えられた任務だった
彼の顔には、恐怖ではなく、ただ純粋な使命感と、成功への強い決意が刻まれていた。

発艦開始の合図とともに、まず甲板前部の戦闘機隊が
次々とエンジンを唸らせ、滑走を開始した。夜闇の中、機体から吹き出す炎が
一瞬だけ飛行甲板を明るく照らす。海野の目には
零式艦上戦闘機が、まるで夜空を舞う流星のように次々と飛び立っていく姿が映った
一機、また一機。その全てが、遥か東方の目標へと向かっていく
続いて、九九式艦上爆撃機、そして友永大尉の率いる九七式艦上攻撃機が
重い機体を持ち上げては夜空へと消えていった。108機もの航空機が
四隻の空母から間断なく発進していく光景は、圧巻の一言だった
轟音が海面全体に響き渡り、艦隊全体が振動するかのようだった。

「行きましたな…」

松本上等兵曹が、発艦を終え、静かになった「赤城」の甲板を眺めながら言った
海野もまた、その壮大な始まりを目撃し、興奮を抑えきれないでいた。
しかし、同時に、彼らの脳裏には、この空母部隊が索敵態勢に万全を期しているのか
という一抹の不安がよぎった。偵察機発進の遅れ、そして索敵線の不備


この時点ではまだ、彼らはそれが後に悲劇を招くとは知らなかった。





空襲隊は、太平洋の夜明け前の闇を切り裂き、ミッドウェー島へと向かった
三時間近い航海の間、友永隊のパイロットたちは
迫りくる決戦に備えて、静かに集中力を高めていた
機体の計器だけが、カチカチと単調な音を立てる。

午前3時16分(日本時間06:16)
ついにミッドウェー基地の姿が視界に捉えられた。
しかし、基地上空には、日本軍の攻撃隊の到来を予期していたかのように
米軍戦闘機隊が展開していた。突然、空中に吊光弾が投下され、
その閃光が夜明けの空を一瞬だけ照らし出した
カタリナ飛行艇による日本軍機の発見だった。

その直後、米軍戦闘機が、先頭を進む友永隊に奇襲を仕掛けてきた。
バッファロー戦闘機やワイルドキャットが、
まるで嵐のように日本軍攻撃隊に襲いかかる。
先頭の友永隊長機を始め、多くの九七式艦攻が被弾した。
機体が揺れ、機銃弾が掠める音が駆け抜ける。

「くそっ、奇襲か!母艦に通信送れ!」

通信員が急いで無電を打つ

「我敵戦闘機の攻撃を受く」

直掩の零戦隊が直ちに反撃に転じた。
ミッドウェー上空は、たちまち激しい空中戦の舞台と化した
零戦の優位性は、米軍パイロットの勇敢な抵抗をもってしても覆ることはなかった
機銃の火線が交錯し、曳光弾が空に赤い筋を描く
キーンという高音を立てて宙返りする零戦、その背後を追う米軍機。
撃墜された機体から黒煙が上がり、燃え盛る破片が海面へと落下していく。

約15分にも及ぶ死闘の末、日本軍は制空権を確保した
迎撃に上がったバッファロー二〇機のうち一三機
ワイルドキャット六機のうち二機が撃墜され
帰還できたバッファロー五機、ワイルドキャット二機も使用不能となった
日本側は、九七式艦攻五機、九九式艦爆一機、零戦二機を失ったが
空中戦は日本軍の勝利に終わったのだ。

制空権を確保した日本軍攻撃隊は
午前3時30分(日本時間06:30)から午前4時10分(日本時間07:10)にかけて
ミッドウェー基地に対する空襲を実施した。

友永隊長は、基地の残存施設を見極めながら、攻撃目標を指示した
九九式艦爆が急降下爆撃を敢行し、正確に目標を捉える
重油タンクに命中した爆弾は、巨大な火柱を上げ
基地全体に激震が走った。
水上機格納庫が爆炎に包まれ、瞬く間に焼け落ちていく
戦闘指揮所、発電所、そして一部の対空砲台も
次々と破壊され、基地は壊滅的な打撃を受けた。

空襲は成功した。しかし、代償もまた大きかった。
九七式艦攻一六機、九九式艦爆四機、零戦一二機(うち二機は修理不能)が
損傷したという報告は、ミッドウェーの防衛が予想以上に頑強であったことを示していた
友永大尉機は、度重なる被弾によって無線機が使用不能となり
彼は小型の黒板を通じて、二番機に無電の中継代行を指示するほどだった。

ミッドウェー基地の破壊を確認した友永隊二番機から、作戦本隊へ無電が打たれた。

「第二次攻撃の要あり」

その無電は、「筑波」の艦内にも伝えられた。
海野は、司令部から送られてきたその一文に空襲の成功を喜びながらも、
複雑な感情を抱いた。基地の機能は停止したが、
敵の反撃能力はまだ残っている。そして、
対地爆弾に換装した装備をもう一度、兵装を転換して攻撃隊を送り出す必要がある。
それは、時間との戦いを意味していた。

その無電が届いた直後だった。

「敵機接近!方位〇四〇、距離六〇〇〇〇m!」

索敵機からの緊急報告が、「筑波」の艦橋に響き渡った。
ミッドウェー基地から発進した米基地航空隊による反撃である。
TBFアヴェンジャー雷撃機六機、B-26マローダー双発爆撃機四機。
合計10機という少数ではあるが
全てが、空母艦隊にとって直接的な脅威となる雷撃機、爆撃機だった。

「全艦、対空戦闘用意!」

「直掩の零戦隊、迎撃用意!」

艦隊全体に緊張が走る。機動部隊の直掩に就いていた零戦隊が
直ちに迎撃に上がった。空母の甲板から
零戦が次々と発艦していく
彼らは、ミッドウェー基地から来る敵機に対し、勇猛果敢に突入していく。

海野は、自らの配置である砲術科の防空指揮所にいた
九四式高射装置の測的手が、目標の動きを捕捉しようと懸命に目を凝らす。

「敵機、交戦中!TBF四機、B-26二機を撃墜!」

直掩の零戦隊の奮戦により、敵機の半数以上が撃墜されたという報告が入った
しかし、残るTBFアヴェンジャー二機とB-26マローダー二機が
零戦隊の猛攻を掻い潜り、防空圏へと侵入してきたのだ。

「来ます!敵機、本艦隊防空圏へ侵入!」

「筑波」の防空指揮所からの報告が、海野の耳に届いた。

「対空戦闘用意!目標、敵爆撃機!」

海野は、冷静に命令を下した。彼が担当する九四式高射装置が
既に目標を捕捉している。計算された射撃諸元が
瞬時に長10cm高角砲と25粍機関砲へと伝達される。

「撃ち方始め!」

轟音と共に、「筑波」と「生駒」の砲塔が火を噴いた
まず、両艦合わせて一六門にも及ぶ長10cm連装高角砲が
激しい噴煙を上げながら砲弾を吐き出した
その弾道は鋭く瞬く間に空に筋を描く。
そして、それを追うように、両艦合計128門にも及ぶ25粍機関砲が一斉に火を噴いた。

ダダダダダダダダッ!という、途切れることのない連射音が
耳をつんざく。無数の曳光弾が空を切り裂き
赤い筋となって、目標の敵機へと殺到する
それはまさに、夜空に張られた鉄の弾幕だった。

「筑波」と「生駒」の猛烈な対空砲火は、容赦なく敵機を捉えた。

「目標、右翼機、被弾!」

海野の視線の先で、一機のTBFアヴェンジャーの翼が閃光を上げた。
機体がバランスを崩し、錐揉み状態になって海面へと墜落していく。

「よし!次、左翼機!」

別のB-26マローダーが、弾幕の中を突き進もうと試みるが、
それも無数の曳光弾に包まれた。右翼燃料タンクから火を噴き
そのまま制御不能となって海面へと突っ込む。

「全機撃墜!」

その報告が司令部から届くと
対空戦闘員たちの間に歓声が上がった。海野も、安堵の息を吐いた
筑波型が持つ圧倒的な対空火力は、わずかではあったが、確実に敵機を撃滅したのだ。

この戦闘により、「筑波」と「生駒」の乗組員たちは
自艦の対空能力に対する絶対的な自信を深めた
ミッドウェー基地からの反撃は、確かに撃退された
しかし、それはまだ、これから始まる激戦の序章に過ぎなかった
南雲機動部隊は、この勝利の裏で、来るべき選択を迫られることになるとは
まだ誰も知らなかった。
甲板上では、第一次攻撃隊の帰還を待つため、航空機が甲板に引き上げられ、
兵装転換の準備が進められていた。

その選択が、後の歴史を大きく左右する転換点となることも、まだ誰もが知る由もなかった。
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