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ミッドウェーの盾
反撃
日本時間6月5日午前7時を過ぎても
太平洋上に立ち上る黒煙の柱は、その勢いを衰えることを知らなかった
「赤城」と「加賀」。日本海軍が誇る、
最強の第一航空戦隊の航空母艦二隻が
今や炎と煙に包まれ、海面を漂うだけの鉄の塊と化していた。
「筑波」の艦橋から、海野信一郎少尉は
その地獄絵図を直視するしかなかった。
彼は、目の前で繰り広げられている惨状が信じられなかった。
数分前まで、低空の雷撃機を次々と撃墜し、
勝利に沸いていた彼らの指揮所は、今や深い絶望と無力感に沈んでいた。
あれほど頑丈な装甲、あれほど強力な対空火力を備えた「筑波」が、
最も守るべきものを守りきれなかった。頭上からの一撃は、防ぎようがなかったのだ。
艦隊全体が、深い混乱と絶望に陥っていた。
司令部機能を喪失した「赤城」からは、煙が機関部に侵入し、
航行不能を知らせる信号が上がる。隣の「加賀」もまた、
猛烈な火災と爆発を繰り返し、その巨大な艦体は大きく傾いていた。
艦隊の心臓部が、まさに今、燃え尽きようとしている。
しかし、その絶望の淵に、一条の光が差していた。
第二航空戦隊を率いる「飛龍」と「蒼龍」は、
奇跡的に米軍急降下爆撃機の攻撃を免れていたのだ。
二航戦は、空母「ヨークタウン」から発進した雷撃機群の攻撃を回避するため、
本隊からやや離れ、さらに低く垂れ込めた雲の下を進んでいたことが功を奏した。
その位置と、雲が、彼らを敵の目を眩ませる役割を果たしたのだ。
「飛龍」の艦橋では、第二航空戦隊司令官、
山口多聞少将が、蒼白な顔で炎上する「赤城」と「加賀」の方向を見つめていた。
彼の表情は、悲痛なまでに引き締まっていたが、
その瞳の奥には、まだ戦い続ける意志の炎が燃え盛っていた
彼には、この状況で、空母部隊の攻撃力を維持し
敵に一矢報いるという、唯一の道しか残されていないことが分かっていた。
午前7時50分(日本時間10:50)
旗艦「赤城」が被弾炎上し
南雲忠一中将が事実上指揮不能に陥ったことを受け
第一航空艦隊の次席指揮官である
第八戦隊司令官の阿部弘毅少将が、艦隊の指揮を執った。
彼の元には、「赤城」と「加賀」が大破炎上したという報告と共に
誤って「蒼龍」も被弾炎上しているという情報が伝えられていた。
この誤報は、阿部少将のその後の判断に大きな影響を与えることになる。
阿部は、主力部隊に対し、
「赤城、加賀、蒼龍の被弾炎上を確認。(蒼龍被弾は誤報)」と通報し
続けて
「飛龍ヲシテ敵空母ヲ攻撃セシメ
機動部隊ハ一応北方ニ避退、兵力ヲ結集セントス」
と、現時点での彼の認識に基づく艦隊の今後の行動を表明した。
そして、生存していると判断された第二航空戦隊
すなわち「飛龍」に対し、「敵空母ヲ攻撃セヨ」と直接命令を発した。
阿部少将の命令は、混乱と悲劇の最中で
艦隊に残された最後の攻撃力を集中させようとする、彼の必死の決断だった。
彼は、自分に与えられた情報に基づき、最善の行動を取ろうと努めていた。
しかし、この時、山口多聞少将は、阿部少将からの命令を受け取る以前に、
既に独自の判断で行動を開始していた。
「飛龍」と「蒼龍」、そして護衛の第八戦隊(重巡洋艦「利根」「筑摩」)
第三戦隊第二小隊(戦艦「榛名」「霧島」)
第十七駆逐隊(陽炎型駆逐艦「磯風」「浦風」「浜風」「谷風」)
そして「筑波」「生駒」の第十戦隊分隊を率いて、被爆した二隻の空母と
それを取り巻く第十戦隊本隊の「長良」以下各艦からは
相当離れた、北東方向に進路を取っていたのだ。
「司令、このまま北東へ!攻撃隊、発艦準備を急がせろ!」
山口少将の声は、緊張感に満ちていたが、揺らぐことはなかった。
「飛龍」艦橋では、参謀たちが慌ただしく海図を広げ通信機に向かっていた
彼の眼には、炎上する僚艦の悲劇が焼き付いていたが
それ以上に、目の前に広がる唯一の好機を逃すまいとする、鋭い輝きがあった
彼は、来襲した米艦載機の数と種類から、敵空母は二隻と判断していた
そして、自身の指揮下にある中型空母
「飛龍」と「蒼龍」の航空戦力でならば十分に戦えると考えていた
彼には、躊躇する時間も、思考を巡らせる余裕もなかった
動くべきは今この瞬間しかない。
「飛龍」の飛行甲板では、九九式艦上爆撃機が既に攻撃の準備を終え
発艦を待っていた。九七式艦上攻撃機は、格納庫から引き上げられ
雷装が急ピッチで進められている。
そして、辛うじて間に合った数機の零戦が、護衛として随伴する準備を整えていた。
「筑波」の艦橋で、海野は、遠く炎上する
「赤城」と「加賀」を眺めながら、自らの艦が、山口少将の指揮の下
別行動を取っていることに気づいていた。
本来の第十戦隊本隊(「長良」以下)が、南雲司令部に留まっているのに対し
「筑波」と「生駒」は、第十七駆逐隊と共に山口少将の分隊に組み込まれ
北方へと進んでいる。それは、この二隻の強力な対空火力が
今、最も生き残っている空母の護衛にこそ
必要とされているという何よりの証だった。
まさにその時、阿部少将からの「敵空母ヲ攻撃セヨ」という命令が
「飛龍」に届いた。しかし、山口少将は
その命令をほぼ同時に受け取った直後
阿部少将の意図を理解しつつも、自らの決断を全艦隊に発信した。
「全機今より発進、敵空母を撃滅せんとす!」
その簡潔で力強い無電は、艦隊に、そして海野の胸に
絶望の底からの希望をもたらした。先任の阿部少将をさしおいて
山口少将が反撃を主導したのは、彼の果断な性格と
二航戦が現時点での唯一残された主力であり、この機を逃せば全てが失われるという
重要な戦機であるという認識がなせる業だった
敵空母は、まさに攻撃を終えた艦載機を収容中であり
接近して攻撃力を発揮できる、まさに好機だったのだ。
「突撃か…!」
海野は、目の前が熱くなるのを感じた。
炎上する「赤城」と「加賀」を救うことはできないかもしれない。
しかし、この決死の反撃で、敵空母を撃滅すれば、まだ戦いの行方は分からない。
自分たちは、この「筑波」と「生駒」の対空火力で
山口司令官が発進させた攻撃隊を、敵空母まで送り届け
そして無事に帰還させるという、新たな使命を帯びたのだ。
午前7時54分(日本時間10:54)
南の水平線上には、未だ猛烈な炎を噴き上げている
二隻の空母が見える状況だった。その悲劇的な光景を背に
「飛龍」は攻撃隊発艦のために、風上の東に針路を変更した。
飛行甲板では、整備員たちが最後の点検を終え
パイロットたちがそれぞれの機体に乗り込んでいく
その顔には、決死の覚悟と、炎上する仲間への怒りが浮かんでいた
発艦を促す旗が振られ、機体は轟音を響かせながら
次々と飛行甲板を滑り出す。九九式艦爆、九七式艦攻、そして零戦
彼らは、この戦いの行方を左右する反撃のために
次々と空へと舞い上がっていった。
「筑波」と「生駒」は、その決死の出撃を見届けた。
彼らは、空母と共に、敵空母への針路を取る。
その艦体には、今、炎上する旗艦の無念と、仲間への怒り
そして、この一撃で戦況を覆すという、全艦隊の希望が託されていた。
ミッドウェーの海は、まだ終わらない。
最後の希望を乗せた栄光の二航戦の航空隊が、今、反撃の狼煙を上げたのだ。
太平洋上に立ち上る黒煙の柱は、その勢いを衰えることを知らなかった
「赤城」と「加賀」。日本海軍が誇る、
最強の第一航空戦隊の航空母艦二隻が
今や炎と煙に包まれ、海面を漂うだけの鉄の塊と化していた。
「筑波」の艦橋から、海野信一郎少尉は
その地獄絵図を直視するしかなかった。
彼は、目の前で繰り広げられている惨状が信じられなかった。
数分前まで、低空の雷撃機を次々と撃墜し、
勝利に沸いていた彼らの指揮所は、今や深い絶望と無力感に沈んでいた。
あれほど頑丈な装甲、あれほど強力な対空火力を備えた「筑波」が、
最も守るべきものを守りきれなかった。頭上からの一撃は、防ぎようがなかったのだ。
艦隊全体が、深い混乱と絶望に陥っていた。
司令部機能を喪失した「赤城」からは、煙が機関部に侵入し、
航行不能を知らせる信号が上がる。隣の「加賀」もまた、
猛烈な火災と爆発を繰り返し、その巨大な艦体は大きく傾いていた。
艦隊の心臓部が、まさに今、燃え尽きようとしている。
しかし、その絶望の淵に、一条の光が差していた。
第二航空戦隊を率いる「飛龍」と「蒼龍」は、
奇跡的に米軍急降下爆撃機の攻撃を免れていたのだ。
二航戦は、空母「ヨークタウン」から発進した雷撃機群の攻撃を回避するため、
本隊からやや離れ、さらに低く垂れ込めた雲の下を進んでいたことが功を奏した。
その位置と、雲が、彼らを敵の目を眩ませる役割を果たしたのだ。
「飛龍」の艦橋では、第二航空戦隊司令官、
山口多聞少将が、蒼白な顔で炎上する「赤城」と「加賀」の方向を見つめていた。
彼の表情は、悲痛なまでに引き締まっていたが、
その瞳の奥には、まだ戦い続ける意志の炎が燃え盛っていた
彼には、この状況で、空母部隊の攻撃力を維持し
敵に一矢報いるという、唯一の道しか残されていないことが分かっていた。
午前7時50分(日本時間10:50)
旗艦「赤城」が被弾炎上し
南雲忠一中将が事実上指揮不能に陥ったことを受け
第一航空艦隊の次席指揮官である
第八戦隊司令官の阿部弘毅少将が、艦隊の指揮を執った。
彼の元には、「赤城」と「加賀」が大破炎上したという報告と共に
誤って「蒼龍」も被弾炎上しているという情報が伝えられていた。
この誤報は、阿部少将のその後の判断に大きな影響を与えることになる。
阿部は、主力部隊に対し、
「赤城、加賀、蒼龍の被弾炎上を確認。(蒼龍被弾は誤報)」と通報し
続けて
「飛龍ヲシテ敵空母ヲ攻撃セシメ
機動部隊ハ一応北方ニ避退、兵力ヲ結集セントス」
と、現時点での彼の認識に基づく艦隊の今後の行動を表明した。
そして、生存していると判断された第二航空戦隊
すなわち「飛龍」に対し、「敵空母ヲ攻撃セヨ」と直接命令を発した。
阿部少将の命令は、混乱と悲劇の最中で
艦隊に残された最後の攻撃力を集中させようとする、彼の必死の決断だった。
彼は、自分に与えられた情報に基づき、最善の行動を取ろうと努めていた。
しかし、この時、山口多聞少将は、阿部少将からの命令を受け取る以前に、
既に独自の判断で行動を開始していた。
「飛龍」と「蒼龍」、そして護衛の第八戦隊(重巡洋艦「利根」「筑摩」)
第三戦隊第二小隊(戦艦「榛名」「霧島」)
第十七駆逐隊(陽炎型駆逐艦「磯風」「浦風」「浜風」「谷風」)
そして「筑波」「生駒」の第十戦隊分隊を率いて、被爆した二隻の空母と
それを取り巻く第十戦隊本隊の「長良」以下各艦からは
相当離れた、北東方向に進路を取っていたのだ。
「司令、このまま北東へ!攻撃隊、発艦準備を急がせろ!」
山口少将の声は、緊張感に満ちていたが、揺らぐことはなかった。
「飛龍」艦橋では、参謀たちが慌ただしく海図を広げ通信機に向かっていた
彼の眼には、炎上する僚艦の悲劇が焼き付いていたが
それ以上に、目の前に広がる唯一の好機を逃すまいとする、鋭い輝きがあった
彼は、来襲した米艦載機の数と種類から、敵空母は二隻と判断していた
そして、自身の指揮下にある中型空母
「飛龍」と「蒼龍」の航空戦力でならば十分に戦えると考えていた
彼には、躊躇する時間も、思考を巡らせる余裕もなかった
動くべきは今この瞬間しかない。
「飛龍」の飛行甲板では、九九式艦上爆撃機が既に攻撃の準備を終え
発艦を待っていた。九七式艦上攻撃機は、格納庫から引き上げられ
雷装が急ピッチで進められている。
そして、辛うじて間に合った数機の零戦が、護衛として随伴する準備を整えていた。
「筑波」の艦橋で、海野は、遠く炎上する
「赤城」と「加賀」を眺めながら、自らの艦が、山口少将の指揮の下
別行動を取っていることに気づいていた。
本来の第十戦隊本隊(「長良」以下)が、南雲司令部に留まっているのに対し
「筑波」と「生駒」は、第十七駆逐隊と共に山口少将の分隊に組み込まれ
北方へと進んでいる。それは、この二隻の強力な対空火力が
今、最も生き残っている空母の護衛にこそ
必要とされているという何よりの証だった。
まさにその時、阿部少将からの「敵空母ヲ攻撃セヨ」という命令が
「飛龍」に届いた。しかし、山口少将は
その命令をほぼ同時に受け取った直後
阿部少将の意図を理解しつつも、自らの決断を全艦隊に発信した。
「全機今より発進、敵空母を撃滅せんとす!」
その簡潔で力強い無電は、艦隊に、そして海野の胸に
絶望の底からの希望をもたらした。先任の阿部少将をさしおいて
山口少将が反撃を主導したのは、彼の果断な性格と
二航戦が現時点での唯一残された主力であり、この機を逃せば全てが失われるという
重要な戦機であるという認識がなせる業だった
敵空母は、まさに攻撃を終えた艦載機を収容中であり
接近して攻撃力を発揮できる、まさに好機だったのだ。
「突撃か…!」
海野は、目の前が熱くなるのを感じた。
炎上する「赤城」と「加賀」を救うことはできないかもしれない。
しかし、この決死の反撃で、敵空母を撃滅すれば、まだ戦いの行方は分からない。
自分たちは、この「筑波」と「生駒」の対空火力で
山口司令官が発進させた攻撃隊を、敵空母まで送り届け
そして無事に帰還させるという、新たな使命を帯びたのだ。
午前7時54分(日本時間10:54)
南の水平線上には、未だ猛烈な炎を噴き上げている
二隻の空母が見える状況だった。その悲劇的な光景を背に
「飛龍」は攻撃隊発艦のために、風上の東に針路を変更した。
飛行甲板では、整備員たちが最後の点検を終え
パイロットたちがそれぞれの機体に乗り込んでいく
その顔には、決死の覚悟と、炎上する仲間への怒りが浮かんでいた
発艦を促す旗が振られ、機体は轟音を響かせながら
次々と飛行甲板を滑り出す。九九式艦爆、九七式艦攻、そして零戦
彼らは、この戦いの行方を左右する反撃のために
次々と空へと舞い上がっていった。
「筑波」と「生駒」は、その決死の出撃を見届けた。
彼らは、空母と共に、敵空母への針路を取る。
その艦体には、今、炎上する旗艦の無念と、仲間への怒り
そして、この一撃で戦況を覆すという、全艦隊の希望が託されていた。
ミッドウェーの海は、まだ終わらない。
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