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第22話 籠の鳥
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「あ」
と、私は声を上げた。
今は馬車の中。そして、帰りの真っ最中だ。
「レナ様、どうかなされましたか?」
アリシア様は、不安そうな顔で私を見た。
「え? あー、その――街へでること、お母様に伝えるのを忘れてたなって思って」
お母様と別れてから、おそらく4時間以上は過ぎている。あの人の中では、私とラナはお屋敷へ戻っている――という認識のはず。
もしかしたら、心配しているのかもしれない。っていうか、絶対に心配している。うん、間違いない。
妹も同じ考えなのか、微妙な顔をしている。
「心配なさらずとも、大丈夫ですよ」
と、何故かアリシア様は自信満々に言うのだった。
「お二人と街へ行くこと――そしてこの私が、お二人のことはこの命に懸けて御守りいたすこと――ラウラ様にお伝えしていただくよう、部下にはお願いしてありますから」
アリシア様の顔は、とても得意げだ。
一体、なぜ?
「謁見の間で、ラウラ様とは目で通じ合いました。ですから、大丈夫です」
私と妹は顔を見合わせた。
何とも言えない顔をしている。
多分、私の顔もそうなのだろう。
アリシア様は何も分かっていない。
お母様の心配症は伊達じゃないのだから。
もはや、病気だと言っても過言じゃない。
――とはいえ、そのようなことをドヤ顔になっているアリシア様に言えるはずもない。
「そ、そうですね」
と、私は答えた。
すると、アリシア様はむふーっと、鼻息を荒くし始める。
「そうですとも、どうぞご安心ください。私、ラウラ様からはちゃんと信頼を得ていますから!」
そう言って、アリシア様は再び自分の胸を叩くと、ドヤ顔で私たちを見た。
* * *
借りている御屋敷の方へと戻った。
その建屋の外でお母様が仁王立ちで私たち? を待ち構えている。その姿を馬車の窓から見たアリシア様は、あわあわと口を動かした。
うん、気持ちはよく分かる。
だってあれ――めちゃくちゃキレてるからね!
しかも、お母様の後ろには女王様までいるし、たくさんの兵士の方々までいた。兵士の方々はお母様のプレッシャーにビビっているのが表情でよく分かる。女王様の顔は呆れたような表情――それは、私たちではなくお母様に対しての筈。多分だけど!
馬車は先程から停車中。
運転してくれた――女騎士の顔が、車窓から見える。
その顔が――扉を開けても、大丈夫です? という顔をしていた。
まぁ、気持ちは分かる。
私だって彼女と同じように、どうしたもんかと相手にお伺いをたてることだろう。
それにしても――妹だけでなく、アリシア様までびびっていた。
私は思いっきり自分の頬を叩く。
いい音がした。
めちゃくちゃいい音がしたぜ!
そして、めちゃくちゃ痛いんだぜ!
「大丈夫。アリシア様が悪いわけじゃないんだから」
そう――心配をかけてしまうような、駄目な私が悪いのだ。
だから、アリシア様には本当に申し訳ない。
こんなの、ただのもらい事故だ。
全ては――私が悪い。
お母様に認められていない、私が悪いのだ。
お母様がこの王都を発つのがいつになるのかは分からない。分からないけど――それまでに、私は認めてもらわないといけないのかもしれない。
「2人はここで待っていてよ。私一人で十分だから」
そう言って、私は笑みを浮かべた。
きっとこの笑顔なら、2人とも安心してくれることだろう。
それぐらい、完璧な笑顔だ。しかも、サムズアップまでした。これでさらに万全となったはず。
私は勇ましく、立ち上がった――――んだけどもぉ、車窓から見える光景に足が竦みやがった! しかし、私は自分を奮い立たせる。ここは女の意地の見せ所だぜぇ!
そして意を決した私は、扉を開け――ようとしたんだけど、2人から腕を引っ張られる。
「そ、そんな引きつった笑いをして、ひとりでかっこつけないでくださいよ、姉様!」
「そうですとも、ひとり立ち向かうのはこのわたくし! このわたくしの役目なんですからね!」
2人にずいっと、顔を近づけられる。どちらも鼻息荒くしていた。
超絶美少女の顔が目の前にふたつも存在している。それだけでなく、ふたりの身体が私の身体に押し付けられ密着している!
え? なんなの、これ。ご褒美なの? ご褒美なのかな!?
私、めちゃくちゃどぎまぎしてきました!
反射的に後ずさると、手で掴んでいたノブをひねってしまう。
あ、やべ。
悪い予感のまま、扉が開き――私の身体に圧をかけているふたり共々、転げ落ちた。
私の身体は地面に押し付けられ、ふたりの下敷きとなってしまう。
それを役得だと、一瞬でも考えてしまった私は、もう人間終わってるかもね!
「あなたたち、本当に仲良くなったみたいね。お母様、とっても嬉しいわ」
と、笑顔で言った。
アリシア様と妹は私の身体から離れると、慌てて正座をした。
え? まじ? 地面で、正座? 2人がしちゃったらこれ、私までしないと駄目なやつじゃん。
「レナ?」
お母様の声で、私も慌てて正座をした。
これは――もう、ドレス、相当汚れたな。カトレアには怒られる。絶対に、怒られる!
だけど今は、何よりも――。
「……怒ってる?」
私は、おそるおそる――目の前にいるお母様へ尋ねた。
「レナには、私が怒っているように見えるのかしら?」
うん。めちゃくちゃそう見えるよ!
「うん。全然そんなことないかな!」
驚いた。
何故か、私の口からは正反対の言葉が出てしまった!
べ、別に、ビビってはいないからね!
「そうよ、その通り。私は全然怒っていないわ。ただ、ふたりにはお仕置きが必要ね」
「ら、ラウラ様! ふたりを街へ誘ったのは、このわたくし。お叱りは、どうかこのわたくしに!」
そう言って、アリシア様は何故か私の右腕を掴んできた。そして左腕は、妹が。
「アリシアさまが悪いわけではありません。娘ふたりとは、私の許しなく街へ出ないこと――それを固く約束していました。それは誓いでもあり、ひとつの契約に近いものでした。それを破ったふたりには、きついお仕置きをしなければなりません」
「し、しかし――」
「ラウラよ。先程も言ったが、お主はふたりを儂らに任せたのではなかったのか?」
「私は――街へ出ることまで許可したわけではありません」
「それは、屁理屈ではないのか?」
「屁理屈だろうとなんだろうと、私は街へ出ることを、ふたりにはまだ許可しておりません」
「ふたりには、この城内から一歩も出すなと言う気か?」
「少なくとも、自分の身を自分で守れるようになるまでは、出るべきではないかと」
「それはもう、過保護というレベルではないぞ?」
「別に構いません」
そう言って、お母様は再び私たちの方へと顔を向けた。
「レナ、ラナ――あなたたちだって、街でどんな目にあったのか、それを忘れたわけではないでしょ?」
お母様は――今にも泣き出しそうな顔で、私たちを見た。
本当に私たち家族は、一歩進んだつもりで――その実、全く進めていない。
こんなの、とんだお笑い草だ。
でも、全ては――私が弱いからだ。
そう――全ては私が悪いのだ。
だから、私は――。
と、私は声を上げた。
今は馬車の中。そして、帰りの真っ最中だ。
「レナ様、どうかなされましたか?」
アリシア様は、不安そうな顔で私を見た。
「え? あー、その――街へでること、お母様に伝えるのを忘れてたなって思って」
お母様と別れてから、おそらく4時間以上は過ぎている。あの人の中では、私とラナはお屋敷へ戻っている――という認識のはず。
もしかしたら、心配しているのかもしれない。っていうか、絶対に心配している。うん、間違いない。
妹も同じ考えなのか、微妙な顔をしている。
「心配なさらずとも、大丈夫ですよ」
と、何故かアリシア様は自信満々に言うのだった。
「お二人と街へ行くこと――そしてこの私が、お二人のことはこの命に懸けて御守りいたすこと――ラウラ様にお伝えしていただくよう、部下にはお願いしてありますから」
アリシア様の顔は、とても得意げだ。
一体、なぜ?
「謁見の間で、ラウラ様とは目で通じ合いました。ですから、大丈夫です」
私と妹は顔を見合わせた。
何とも言えない顔をしている。
多分、私の顔もそうなのだろう。
アリシア様は何も分かっていない。
お母様の心配症は伊達じゃないのだから。
もはや、病気だと言っても過言じゃない。
――とはいえ、そのようなことをドヤ顔になっているアリシア様に言えるはずもない。
「そ、そうですね」
と、私は答えた。
すると、アリシア様はむふーっと、鼻息を荒くし始める。
「そうですとも、どうぞご安心ください。私、ラウラ様からはちゃんと信頼を得ていますから!」
そう言って、アリシア様は再び自分の胸を叩くと、ドヤ顔で私たちを見た。
* * *
借りている御屋敷の方へと戻った。
その建屋の外でお母様が仁王立ちで私たち? を待ち構えている。その姿を馬車の窓から見たアリシア様は、あわあわと口を動かした。
うん、気持ちはよく分かる。
だってあれ――めちゃくちゃキレてるからね!
しかも、お母様の後ろには女王様までいるし、たくさんの兵士の方々までいた。兵士の方々はお母様のプレッシャーにビビっているのが表情でよく分かる。女王様の顔は呆れたような表情――それは、私たちではなくお母様に対しての筈。多分だけど!
馬車は先程から停車中。
運転してくれた――女騎士の顔が、車窓から見える。
その顔が――扉を開けても、大丈夫です? という顔をしていた。
まぁ、気持ちは分かる。
私だって彼女と同じように、どうしたもんかと相手にお伺いをたてることだろう。
それにしても――妹だけでなく、アリシア様までびびっていた。
私は思いっきり自分の頬を叩く。
いい音がした。
めちゃくちゃいい音がしたぜ!
そして、めちゃくちゃ痛いんだぜ!
「大丈夫。アリシア様が悪いわけじゃないんだから」
そう――心配をかけてしまうような、駄目な私が悪いのだ。
だから、アリシア様には本当に申し訳ない。
こんなの、ただのもらい事故だ。
全ては――私が悪い。
お母様に認められていない、私が悪いのだ。
お母様がこの王都を発つのがいつになるのかは分からない。分からないけど――それまでに、私は認めてもらわないといけないのかもしれない。
「2人はここで待っていてよ。私一人で十分だから」
そう言って、私は笑みを浮かべた。
きっとこの笑顔なら、2人とも安心してくれることだろう。
それぐらい、完璧な笑顔だ。しかも、サムズアップまでした。これでさらに万全となったはず。
私は勇ましく、立ち上がった――――んだけどもぉ、車窓から見える光景に足が竦みやがった! しかし、私は自分を奮い立たせる。ここは女の意地の見せ所だぜぇ!
そして意を決した私は、扉を開け――ようとしたんだけど、2人から腕を引っ張られる。
「そ、そんな引きつった笑いをして、ひとりでかっこつけないでくださいよ、姉様!」
「そうですとも、ひとり立ち向かうのはこのわたくし! このわたくしの役目なんですからね!」
2人にずいっと、顔を近づけられる。どちらも鼻息荒くしていた。
超絶美少女の顔が目の前にふたつも存在している。それだけでなく、ふたりの身体が私の身体に押し付けられ密着している!
え? なんなの、これ。ご褒美なの? ご褒美なのかな!?
私、めちゃくちゃどぎまぎしてきました!
反射的に後ずさると、手で掴んでいたノブをひねってしまう。
あ、やべ。
悪い予感のまま、扉が開き――私の身体に圧をかけているふたり共々、転げ落ちた。
私の身体は地面に押し付けられ、ふたりの下敷きとなってしまう。
それを役得だと、一瞬でも考えてしまった私は、もう人間終わってるかもね!
「あなたたち、本当に仲良くなったみたいね。お母様、とっても嬉しいわ」
と、笑顔で言った。
アリシア様と妹は私の身体から離れると、慌てて正座をした。
え? まじ? 地面で、正座? 2人がしちゃったらこれ、私までしないと駄目なやつじゃん。
「レナ?」
お母様の声で、私も慌てて正座をした。
これは――もう、ドレス、相当汚れたな。カトレアには怒られる。絶対に、怒られる!
だけど今は、何よりも――。
「……怒ってる?」
私は、おそるおそる――目の前にいるお母様へ尋ねた。
「レナには、私が怒っているように見えるのかしら?」
うん。めちゃくちゃそう見えるよ!
「うん。全然そんなことないかな!」
驚いた。
何故か、私の口からは正反対の言葉が出てしまった!
べ、別に、ビビってはいないからね!
「そうよ、その通り。私は全然怒っていないわ。ただ、ふたりにはお仕置きが必要ね」
「ら、ラウラ様! ふたりを街へ誘ったのは、このわたくし。お叱りは、どうかこのわたくしに!」
そう言って、アリシア様は何故か私の右腕を掴んできた。そして左腕は、妹が。
「アリシアさまが悪いわけではありません。娘ふたりとは、私の許しなく街へ出ないこと――それを固く約束していました。それは誓いでもあり、ひとつの契約に近いものでした。それを破ったふたりには、きついお仕置きをしなければなりません」
「し、しかし――」
「ラウラよ。先程も言ったが、お主はふたりを儂らに任せたのではなかったのか?」
「私は――街へ出ることまで許可したわけではありません」
「それは、屁理屈ではないのか?」
「屁理屈だろうとなんだろうと、私は街へ出ることを、ふたりにはまだ許可しておりません」
「ふたりには、この城内から一歩も出すなと言う気か?」
「少なくとも、自分の身を自分で守れるようになるまでは、出るべきではないかと」
「それはもう、過保護というレベルではないぞ?」
「別に構いません」
そう言って、お母様は再び私たちの方へと顔を向けた。
「レナ、ラナ――あなたたちだって、街でどんな目にあったのか、それを忘れたわけではないでしょ?」
お母様は――今にも泣き出しそうな顔で、私たちを見た。
本当に私たち家族は、一歩進んだつもりで――その実、全く進めていない。
こんなの、とんだお笑い草だ。
でも、全ては――私が弱いからだ。
そう――全ては私が悪いのだ。
だから、私は――。
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