幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第2章

第27話

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 更衣室で着替え、鏡に映る自分の姿を見る。
 つい、鼻で笑ってしまった。
 正直、違和感しかない。
 ちび助が指を突きつけ、笑い転げる姿が思い浮かぶ。

 丈の長い黒いワンピースに、白いエプロン、白いカチャース。フリルは少なめだが、正直――目立つし凄く邪魔だ。なんか、イライラしてくる。

 少々目つきの悪い人間には、全く似合わないということだけは、よく分かった。

 更衣室のカーテンから外を覗く。
 この区画には現在、人が見当たらない。
 私は更衣室を出ると、隣に視線を向け、カーテンの奥にいる藤宮へ声をかける。

「着替えは終わった?」

 しばらく、返事が返ってこない。

「終わったけれど……」

 そこから、言葉が途切れる。

「終わってんの? じゃあ、入るから」

 カーテンを掴んで引く動作とほぼ同じタイミングで、静止する声を聞いたがもう遅い。

 開かれた世界に、プリンセス姿の藤宮が立っている。完璧な姿であり、静止した意味がよく分からない。

「な、何で開けるのよ」

 普段より、声が弱々しい。
 
「開けるって、言ったじゃん」
「私は止めたわよね」
「言うのが遅すぎだから」
「普通、了承を得てから開けるものでしょ」

 確かに、と頷いてしまう。

 藤宮は身をかがめ、胸元付近を隠しながら睨みつけてくる。

 少し――ムラっとした。

 私は靴を脱ぐと、中に入り、カーテンを閉めた。

「な、何で入ってくるのよ」
「だって、もう着替え終わってるし」
「そんなの、理由になんてならないわよ」
「私には、それが理由になるから」
「い、意味が分からないのだけれど」

 何で私は、藤宮の前だとこんなにも――強気な自分でいられるのだろうか?
 深雪では――踏み込めない領域でも、彼女の前だと足が勝手にでてしまう。

 もしかしたら、藤宮になら嫌われてしまっても構わない――とでも、私は思っているのだろうか?

 本当に――よく分からない。

「藤宮」
「……何よ」

 彼女の剥れた顔すら、可愛いと思う。

 きっと私の頭は――少しだけ、おかしくなってしまったようだ。

 私は静かに、息を吐く。
 
「凄く似合ってる」

 藤宮は私から背を向ける。

 でも、鏡に映る彼女の目と重なる。

「……馬鹿」

 藤宮は視線を下げ、私を罵倒した。



 更衣室からプリクラ機まで二人で移動する。
 藤宮は私の背中に隠れながら歩く。しかも、私の服を掴みながら。
 それが思いのほか可愛く、ニヤニヤが止まらない。

「気持ち悪いのだけれど」

 藤宮は私の顔を見て、顰め面をした。



 お金を入れ、プリ機前のモニターを触る。
 藤宮はそわそわとしていた。
 色々と選択できるため、何がいいかと聞いてやったのに、早くしてと怒られる。
 そのため、適当に選んだ。
 カーテンをくぐり、中に入ると、藤宮はホッとした顔をした。私の視線に気づくと、何故か睨まれる。
 
 お互い、床に立ち位置を表す足跡マークを踏みつけた。

「近いのだけれど」

 藤宮は不満そうに言う。

 正直、そこまで近いとは思わないのだが?

 画面の指示に合わせて、私たちはカメラに目線を向ける。
 カウントが始まる。
 一枚目は二人共、ほぼ無表情で何のポーズもとらないまま、撮影された。
 私としては笑みを浮かべたつもりだが、顔が強張って見える。別に、緊張しているつもりはないのだが。

「もうちょっと笑ったら?」

 自分のことを棚に上げて、私はそう言った。

 藤宮よりは笑えているので、言う資格はあるのかもしれない。

「う、うるさいわね」

 声が震えている気がした。

 もしかして、緊張している?

 一瞬、そう思ったが勘違いだろうと考え直す。

 二枚目を撮るカウントが始まる。

 カメラから視線を外し、藤宮を見る。

 相変わらず、表情が硬い。

 カウントダウンが終わる直前に、私は藤宮の肩を引き寄せ、頭と頭を重ねた。
 そして、できる限りの笑みを浮かべる。画面に映る藤宮は驚きの表情で切り抜かれた。

 正直、変な画像だが先程よりはだいぶマシだと思う。

 藤宮からはキャンキャン吠えられたが、それ以来、お互い緊張も解れたのか、大分マシな画像になった。あくまで、一枚目と比べればの話だが。

 全てが撮り終わり、落書きブースへと移動する。
 しかし、加工ひとつせずに終えた。

 最後にシールを受け取ると、藤宮に背中を押される。しかも、かなり強めのため早足となってしまう。文句を言っても、無視される。

 更衣室がある区画に入ると、藤宮は私の背中から手を離し、急いでカーテンの中へ入った。

「他の服は着ないの?」

 私は外から声をかける。

 返事が返ってこない。

 しばらく私は待ち続けた。

「……絶対に着ない」

 予想通りの返事が返ってきた。
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