謎めいたおじさまの溺愛は、刺激が強すぎます

七夜かなた

文字の大きさ
10 / 24

9

しおりを挟む
「お待たせいたしました。日替わりパスタ。ポロネーゼのBセットです」

 店員が注文した食事を運んでくるまで、どれくらい時間が経っていたのかわからない。 

「お客さま?」
 
「え、あ、はい」

 放心状態から我に返り、慌てて返事をした。

「ご注文は以上でよろしかったですか? お食事が終わったらお声掛けください。ドリンクを持ってまいります」

「あ、はい」

 伝票の紙を、机の上のプラスチックの筒に差し、怪訝な顔をしながら店員が立ち去った。

 正直、すっかり食欲は失せていた。

 頭の中では、なぜ、どうして? 急に…好きな人って誰? そんな言葉が取り止めなく頭を回っている。

 思い当たるのは、三ヶ月前の佐藤家のお通夜での彼との会話。電話の向こうで、鼻にかかった甘え声が聞こえてきた。
 
 小林綺羅らしき女性の声。

 あの後、結局私は父に文句を言われながら、告別式の参列を辞退して、朝早く一人でタクシーと電車を乗り継いで翌日出社した。

 出社した私を見て、彼は当然とばかりの顔で「すまない」のひと言もなかった。
 
「あの、昨夜って…どこに」
「関係ないだろ」

 尋ねようとすると、素っ気なくひと言で切り捨てられた。

「柳瀬さん、これ、手紙です」

 小林綺羅は、はっきり言ってコネ入社だ。父親が建築会社の重役で、そこの取引先がうちのクライアントだった。
 お嬢様学校の女子大を卒業し、結婚するまでの腰掛けで、受付をしている。
 電話で相手の名前を間違えるし、伝言は忘れる。おまけに残業は絶対NGで、仕事中も頻繁にトイレに行って化粧を直し、携帯ばかり触り、若い男性の客にはあからさまに媚を売る。

「あ、ありがとう」

 電話越しの声は、彼女の声に似ていた気がする。
 でも、彼女は私以外の男性には分け隔てなく甘い声を出すので、彼と特別な関係にあるのか、確証が得られなかった。

 そして、週に一度のデートを彼と続けて、それなりにうまく行っていると思っていたのに。
 
 運ばれてきたパスタを、とても食べる気になれなくて、フォークでクルクルしながら、「どういうこと? 会って話したい」というメッセージを送るかどうか考えていた。

「あれ?」

 そんな私の頭の上から、そんな声が降ってきた。

「旭ちゃんでしょ、偶然だね。一人?」

 物思いから還り、ゆっくり顔を上げると、女性と腕を組んて、国見唯斗が笑顔を向けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

年齢の差は23歳

蒲公英
恋愛
やたら懐く十八歳。不惑を過ぎたおっさんは、何を思う。 この後、連載で「最後の女」に続きます。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...