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第四章

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ぶつかった時にシャツについたクリームを必死になって拭いているクリスティアーヌは、自分の鼻と口にも付いていることに気づいていないようだ。

こちらが拭ってやると、それを見て恥ずかしそうに赤くなる。

洗って返すと私の手から強引にハンカチを奪い、もう王都から他へ移ると私が言うと、待っていてくれとどこかへ行ってしまった。

「ルーティアス様、何をされているのです。そろそろ戻りませんと……」

「もう少し待て」

痺れを切らして催促する部下を尻目に、言われるまま待っていると、彼女がはあはあと走って戻ってきた。

汚したハンカチの代わりを買い求めてきたという。

蒸気した顔で何度も謝り、お金まで握らせる。

僅かに触れた彼女の手は、結婚式で触れた時より遥かに温かった。

もう一度部下が声を掛けるので、彼女もそれ以上は引き留めなかった。

「早くまいりましょう。そろそろ結論が出ているはずです。一刻も早く勅命を頂いて砦に戻らなければ」

促されて走り去る彼女の背中を見送り、渡されたハンカチとお金をもう一度見る。

「誰に会うつもりだったのですか?うわっそのシャツ……陛下に謁見する前に着替えましょう。甘ったるい匂いがします」

「……そうだな」

シャツの胸元から甘い香りが立ち上る。そこに混じってミルクの香りと消毒薬?の香りがした。

甘いのはクリームの香りだが、その他は?彼女は何をしていたのだろうか。
ここには任務で来たのだから、自分の行動は部下である彼から見れば意味不明だし、普段の自分なら途中で抜け出すようなことなどしない。

だが、自分が想像もしていなかった彼女の行動を目の当たりにして、衝動的に動いてしまった。
場合によっては懲罰ものの行動に自分自身驚いていた。


上層部の答えはオリヴァー殿下の判断と同じものだった。

「リンドバルク、そなたに話がある」

国王陛下の勅命を持って、そのまま砦に急いで戻るため謁見の間を出る際に、陛下に呼び止められた。
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