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第五章
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部屋に入るとマディソンたちがすでに代わりの服を用意して待っていてくれた。
コルセットを外すと途端に呼吸が楽になった。
「明日の夜会はもう少し緩めに着付けますね。それにしてもクリスティアーヌ様は遠慮し過ぎます。今度からは苦しかったらちゃんとおっしゃってくださいね」
「ごめんなさい。少しの間なら大丈夫だと思ったの………旦那様……きっと呆れたよね……出迎えに出てきた妻がコルセットが苦しくて気絶しちゃうなんて」
夫の留守に倒れて記憶を失い、帰って来た夫の出迎えにまた倒れた。
満足に出迎えもできないとは情けない。
「気にしすぎです。旦那様はそんなこと気にされていませんよ。むしろクリスティアーヌ様がご自分の目の前で倒れて大慌てだったんですから。すぐスベン先生を呼べとか、ダレクや私たちが何を言っても、まったく聞き入れてくれなくて……」
意識の向こうで何か言い合っていたのはそれだったのか。
「私もこちらにお世話になって五年ほどですが、いつも毅然とされていて、あんなに声を張り上げられたのは初めて見ました」
マディソンが言うと他の皆もうんうんと頷く。
「何だか眉間に皺を寄せて上から睨み付けられている感じだったけど、いつもあんな風なの?」
ルイスレーン様は「また怖がらせた」とおっしゃった。
前もクリスティアーヌは睨まれたことがあるのだろうか。
「決して怒っていらっしゃるわけではありませんよ。誤解なさらないでください。お父上が厳しかったせいで、小さい頃からあんな風ですが、私ども使用人を折檻したり無理難題をおっしゃることもありません」
どうやらあの表情は彼に取っては普通らしい。知らなければ機嫌が悪いのかと思ってしまう。
軍にあってはその方が指導しやすいと言えるが、怖がる人もいるだろう。
あの容姿なら笑わなくても寄ってくる女性はたくさんいるだろうが。
皇太子妃様たちもおっしゃっていたではないか。
「………ねえ、マリアンナ、私の気のせいかな……ルイスレーン様の瞳の色は緑とオレンジ?何だか気絶する前は違う色だったような………」
玄関口で見つめた彼の瞳の虹彩は青と黄色ではなかったか?私が何か勘違いしているのだろうか。
「お気づきになられましたか?……そうですね、以前に旦那様の目の色について少し変わっているとお話したと思いますが」
前侯爵夫妻の肖像画の前でそんな話を聞いた気がする。気のせいではなかったのか。
「私ちがじっくりと見ることはありませんが、旦那様の瞳は太陽の下で見た時と室内では色が少し違って見えます」
「不思議な色ね………でもとても綺麗だったわ」
日本人は瞳孔が黒で虹彩が濃い茶色が殆どだから余計にそう思う。
少し無表情な上に眉間に皺を寄せて厳しい顔つきだが、別段怒っているわけではない。
むしろ気を失った私を前に取り乱したり、大真面目に心配してくれ、ちゃんと意見も聞いてくれる。
もしかしたら、ニコラス先生の所へ通うことも話せばわかって許してくれるかもしれない。
いや、食事の時間とこのことを一緒にしてはいけない。
「さあ、クリスティアーヌ様、今度はこちらをお召しください」
そう言ってマリアンナが持ってたのは襟繰の大きくあいた淡いグリーンのゆったりとしたワンピースだった。
身頃の前が着物のように切り返しが入っていて、腰の辺りでリボンで結ぶようになっている。
「何を着ても同じだと思うけど……」
「いいえ、旦那様はちゃんと見ていますよ。さっきだってコルセットの件で私を叱らないどころか、誉めてくださったではないですか」
確かに張り切りすぎたと言ったマリアンナに対して何か言っていたが。
「旦那様も男だと言うことです」
マリアンナがニヤニヤする。
「もちろん、彼は女性でなく男性ですよ?」
「クリスティアーヌ様は旦那様をよくご存知ないから無理もありませんが、私はすぐにわかりましたよ。あんな風に誰か……女性に積極的に構う旦那様を初めて見ました」
「それは目の前で倒れたら誰だって」
「いいえ、下を向いていて気づかなかったかもしれませんが、旦那様の腕に倒れ込む前から、それこそ馬車を降りてダレクや私と話をしている間もずっとクリスティアーヌ様を見ていましたよ。それに、クリスティアーヌ様が何度も大丈夫、降ろして欲しいとおっしゃっても、頑として譲りませんでした。お仕事ではどうかわかりませんが、今までの旦那様なら一度大丈夫だと言えば、相手が遠慮してそう言ったとしても無理強いはせずすんなり言うとおりになさったと思います」
「それは、私は前にも倒れたことがあるし、また倒れると思われたのでは?自分が怖がらせたと思ったみたいだし」
「今すぐは信じられないかもしれませんが、旦那様はクリスティアーヌ様をきっと大切にされます。私が保証します」
マリアンナを信用しないではないが、使用人と妻は違う。
使用人は主の命令に従い、優秀であれば重宝され、気に入らなければ解雇すればいい。
だが妻は、一度結婚したら簡単にはお払い箱にはできないのだから。
コルセットを外すと途端に呼吸が楽になった。
「明日の夜会はもう少し緩めに着付けますね。それにしてもクリスティアーヌ様は遠慮し過ぎます。今度からは苦しかったらちゃんとおっしゃってくださいね」
「ごめんなさい。少しの間なら大丈夫だと思ったの………旦那様……きっと呆れたよね……出迎えに出てきた妻がコルセットが苦しくて気絶しちゃうなんて」
夫の留守に倒れて記憶を失い、帰って来た夫の出迎えにまた倒れた。
満足に出迎えもできないとは情けない。
「気にしすぎです。旦那様はそんなこと気にされていませんよ。むしろクリスティアーヌ様がご自分の目の前で倒れて大慌てだったんですから。すぐスベン先生を呼べとか、ダレクや私たちが何を言っても、まったく聞き入れてくれなくて……」
意識の向こうで何か言い合っていたのはそれだったのか。
「私もこちらにお世話になって五年ほどですが、いつも毅然とされていて、あんなに声を張り上げられたのは初めて見ました」
マディソンが言うと他の皆もうんうんと頷く。
「何だか眉間に皺を寄せて上から睨み付けられている感じだったけど、いつもあんな風なの?」
ルイスレーン様は「また怖がらせた」とおっしゃった。
前もクリスティアーヌは睨まれたことがあるのだろうか。
「決して怒っていらっしゃるわけではありませんよ。誤解なさらないでください。お父上が厳しかったせいで、小さい頃からあんな風ですが、私ども使用人を折檻したり無理難題をおっしゃることもありません」
どうやらあの表情は彼に取っては普通らしい。知らなければ機嫌が悪いのかと思ってしまう。
軍にあってはその方が指導しやすいと言えるが、怖がる人もいるだろう。
あの容姿なら笑わなくても寄ってくる女性はたくさんいるだろうが。
皇太子妃様たちもおっしゃっていたではないか。
「………ねえ、マリアンナ、私の気のせいかな……ルイスレーン様の瞳の色は緑とオレンジ?何だか気絶する前は違う色だったような………」
玄関口で見つめた彼の瞳の虹彩は青と黄色ではなかったか?私が何か勘違いしているのだろうか。
「お気づきになられましたか?……そうですね、以前に旦那様の目の色について少し変わっているとお話したと思いますが」
前侯爵夫妻の肖像画の前でそんな話を聞いた気がする。気のせいではなかったのか。
「私ちがじっくりと見ることはありませんが、旦那様の瞳は太陽の下で見た時と室内では色が少し違って見えます」
「不思議な色ね………でもとても綺麗だったわ」
日本人は瞳孔が黒で虹彩が濃い茶色が殆どだから余計にそう思う。
少し無表情な上に眉間に皺を寄せて厳しい顔つきだが、別段怒っているわけではない。
むしろ気を失った私を前に取り乱したり、大真面目に心配してくれ、ちゃんと意見も聞いてくれる。
もしかしたら、ニコラス先生の所へ通うことも話せばわかって許してくれるかもしれない。
いや、食事の時間とこのことを一緒にしてはいけない。
「さあ、クリスティアーヌ様、今度はこちらをお召しください」
そう言ってマリアンナが持ってたのは襟繰の大きくあいた淡いグリーンのゆったりとしたワンピースだった。
身頃の前が着物のように切り返しが入っていて、腰の辺りでリボンで結ぶようになっている。
「何を着ても同じだと思うけど……」
「いいえ、旦那様はちゃんと見ていますよ。さっきだってコルセットの件で私を叱らないどころか、誉めてくださったではないですか」
確かに張り切りすぎたと言ったマリアンナに対して何か言っていたが。
「旦那様も男だと言うことです」
マリアンナがニヤニヤする。
「もちろん、彼は女性でなく男性ですよ?」
「クリスティアーヌ様は旦那様をよくご存知ないから無理もありませんが、私はすぐにわかりましたよ。あんな風に誰か……女性に積極的に構う旦那様を初めて見ました」
「それは目の前で倒れたら誰だって」
「いいえ、下を向いていて気づかなかったかもしれませんが、旦那様の腕に倒れ込む前から、それこそ馬車を降りてダレクや私と話をしている間もずっとクリスティアーヌ様を見ていましたよ。それに、クリスティアーヌ様が何度も大丈夫、降ろして欲しいとおっしゃっても、頑として譲りませんでした。お仕事ではどうかわかりませんが、今までの旦那様なら一度大丈夫だと言えば、相手が遠慮してそう言ったとしても無理強いはせずすんなり言うとおりになさったと思います」
「それは、私は前にも倒れたことがあるし、また倒れると思われたのでは?自分が怖がらせたと思ったみたいだし」
「今すぐは信じられないかもしれませんが、旦那様はクリスティアーヌ様をきっと大切にされます。私が保証します」
マリアンナを信用しないではないが、使用人と妻は違う。
使用人は主の命令に従い、優秀であれば重宝され、気に入らなければ解雇すればいい。
だが妻は、一度結婚したら簡単にはお払い箱にはできないのだから。
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