【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

文字の大きさ
59 / 266
第五章

10

しおりを挟む
ルイスレーン様は私が倒れたのは彼が怖がらせたせいだと思ったみたいだ。

実際私が意識を失って彼の胸に倒れるまで彼と視線を合わせていた。

どうやら以前のクリスティアーヌは彼を見るたび怯えていたらしい。

それで責任感を感じて世話を焼いてくれたのか。
怯えて気絶したなら余計に逆効果だと思うが、そこに考えが至らなかったところに彼が相当焦っていたのが伺える。

「コルセット……本当に?」

まだ少し疑っているのか何度も訊ねてくる。

「本当です。実は今も少し……」

腰に手を当てて思い切り深呼吸して酸素を取り込む。コルセットのせいでお腹に酸素が送りにくいのでどうしても胸式呼吸になる。

それがコルセットで盛り上げた胸を更に強調してしまう。

一瞬ルイスレーン様の視線が私の胸元に向いたように思った。

「コルセット……申し訳ございません。私の責任です」

後から上がってきたマリアンナがコルセットのせいで私が気を失ったことを耳にして駆け寄ってきた。

「マリアンナのせいではないわ。コルセットに慣れていない私が悪いのだから」

「ですが、そのせいで気を失われたのですから、やはり私が悪いのですわ。少々張り切りすぎたかもしれません。旦那様が久し振りにお帰りになられたと言うのに、台無しにしてしまいました」

「それを言うなら私が気を失わなければ……コルセットがきついって言えばよかった」

「いえ、コルセットに慣れていらっしゃらないことを考慮しなかった私が…」

「そのくらいにしておきなさい」

二人で私が、いえ、私がと言い合っているとルイスレーン様が割って入った。

「二人の言い分はわかった。マリアンナの努力は認めるし、成果はあった。それより早く脱がしてあげた方がいいのでないか、また呼吸困難になってしまうぞ」

そう言ってルイスレーン様が私の顎を持って顔をあげさせる。
顔色を確認しているのだろうが、まじまじと見られるとさすがに照れる。

黒の瞳孔の周りに緑にオレンジを溶かしたような虹彩。

目が覚めた時にも見えた瞳の色。

不思議な色だなぁと思うが、何か違和感を感じる。それが何なのか考えてぼうっとする。

息がかかるくらい距離が近くて困ってしまう。

女性との浮いた噂がないときいていたが、だからと言って女性慣れしていないとは言いきれない。

これはわざとなの?
軽々とお姫様抱っこをして男らしさを見せつけ、その次はアゴくい?

「あの、ほんとに……だいひょうぶ……」

見つめられて恥ずかしいのと、噛んでしまったことで一気に顔が火照るのがわかった。

「顔が赤い……まだ苦しいのか」

どうやらまた息苦しいと彼は勘違いしているようだ。

「旦那様、後は私が……」

マリアンナが察してルイスレーン様の前から私を押し出してくれた。

「旦那様も湯浴みの用意ができております。早くゆっくりなさってください。お食事はいつでもご用意できますが、どうなさいますか」

「では、いつも夕食をとっていた時間に……八時で構わないか?」

マリアンナから私に視線を移し、ルイスレーン様が訊いてくる。

「は、はい」

ニコラス先生の所へ通うようになってからは夕食はもっと早い時間に取っていたが、ルイスレーン様が帰ってきたからには彼のリズムに合わせなければならない。

「旦那様、クリスティアーヌ様はいつも夕食は六時にいただいております。それでは少し遅いかと」

「マリアンナ、私のことはいいのよ。旦那様が八時とおっしゃったなら、その時間に……」

「そうか、では六時半では?今からなら一時間はある。それだけあれば私は支度が出来る。あなたももう少しゆったりしたドレスに着替える必要があるだろう。それでいいか」

まさかマリアンナの提案を受け入れ譲歩してくれるとは思わず、しかも私の意見を訊こうとしてくれていることに驚き、目を丸くしてルイスレーン様を見返した。
特に気分を害しているようには見えない。
それどころか少し日に焼けたその顔には、特にどんな感情も見えない。

「やはりそれでは遅いか?」

「いえ、それで……いいです」

「そうか、ではまた後で」

「はい………」

向かい合わせにそれぞれの個室があり、その中央には夫婦の主寝室が配置されている。
私の部屋の反対側にある扉へと向かうルイスレーン様を目で追いながら、私はあることに気づき、呼び止めた。

「だ、旦那様……」

「何か?」

部屋に入りかけていたルイスレーン様が体をこちらに向けて訊ねる。

向かいの扉の前で私も彼に正面を向き、軽く膝を曲げ腰からお辞儀する。

「お帰りなさいませ。お勤めご苦労様でした。ご無事で何よりです」

「………」

表情が読みにくくても彼が驚いたのが何となくわかった。
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...