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第九章
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夕食は不自然なほど静かだった。
昼間のフォルトナー先生のお宅での食事とは雲泥の差だった。
物静かに食事を口に運ぶルイスレーン様は、いつにも増して無表情で、何を考えているのかわからなかった。
私は私でどうやって切り出そうかとシナリオを組み立てる。
救いはマリアンナが私から何を聞いても受け止めて欲しいと、ルイスレーン様に言ってくれていたことだ。
あれでいくらか気持ちが楽になった。
「書斎で待っている。暫く誰も来ないように」
お通夜のような夕食が終わり、前半は私に、後半はダレクたちに言い置いて、私の返事を待たずに先に行ってしまった。
「大丈夫です。旦那様はわかってくれます」
エールを送ってくれるダレクとマリアンナに微笑んで書斎に向かった。
書斎に入るとルイスレーン様も落ち着かないのか本棚の前で立ち尽くしていた。
「それで、あなたの話だが……私なりに考えてみたのだが、まるで検討がつかなかった。倒れて記憶を失くしたのは事実なんだろう?」
二人で隣に座り、まずはルイスレーン様が訊ねた。黙ってこくりと頷く。
「なら、他に何が……」
「『クリスティアーヌ』の記憶は失くしましたが、変わりに別の記憶が甦りました」
「………?どういう意味だ?」
「私は見かけはクリスティアーヌですが、中身は『如月 愛理』という名前の別人格です。多分クリスティアーヌの前世。こことは違う世界の地球という所で生まれて、そして二十九で亡くなりました」
瞬きも忘れて……呼吸も忘れているのではないかと思う。本当に長い時間、ルイスレーン様は沈黙していた。
私もその後の話を続けていいのかわからず、沈黙する。
「………続けても?」
「あ、ああ………」
まだ戸惑いを見せるルイスレーン様が反射的に返事を返す。
「この世界のことは、もちろん知識としてありませんでしたので、一から学び直す必要があったのは本当です。ただ、地球……私の生まれ育った日本という国にある文化で、別の世界に生まれ変わったりする転生や、別の世界に召喚される転移と言った小説などがあったので、私に起こった事象については、何となくそうなのかなと受け入れることはできました」
特に嵌まっていたわけではないが、そういう分野のものが流行っていたことは知っていた。
生まれ変わりなどは昔から題材としてあったし、世界観に馴染む必要はあったが、生まれ変わり事態は意外にあっさり受け入れられた。
「ルイスレーン様が違和感を感じたのも無理はありません。中身が別人なのですから」
「クリスティアーヌは………私が結婚式を挙げたクリスティアーヌは?」
「多分ですが………この前までこの体を支配していたクリスティアーヌもこの体の中に眠っていると思います。始めの頃はわかりませんでしたが、時折彼女を感じます。今は眠っていて、その代わり私が……『愛理』が目覚めたのだと思います」
「すまない……覚悟は出来ていたが……いや……どんな話かはまったく考え付かなかったが………」
額に左手を当て、反対側の手は私に待ったをかけるように前に差し出して、たどたどしく話す。
「いきなり信じろとは言いません。でも嘘は言っていません。それだけは信じてください」
「嘘……嘘にしては荒唐無稽過ぎて、同じ吐くなら分かりやすい話をするだろう」
「信じてくださいますか?」
「納得はいかないし、理解もできない。だが、信じるしかないのだろう………では、あの手紙は……私に送ってくれた手紙は……」
「私が書きました。最初は文字の練習のために……外国語は得意でしたのでこちらの文字も先生に教わって何とか……クリスティアーヌからでなくてすいません。あなたが妻にと望んだクリスティアーヌと違ってごめんなさい。黙っていてすいません」
「いや、あなたは何も悪くない……なりたくてなったわけではないのだろう?」
混乱している筈なのに謝る私のことを彼は気遣ってくれる。
その優しさがクリスティアーヌと愛理のどちらに向いているのかわからない。
「『愛理』は、……私は前世で夫がおりました。親の勧めで家のために。でも幸せな結婚ではありませんでした。彼には別に愛する人がいて、邪魔者は私。追い出されるところを事故に合い、その後亡くなった。それが私の前世です」
「それは……そんなことまで覚えているのか」
『愛理』という人物の過去を耳にしてショックを受けている。
死の瞬間の記憶など、聞いて気持ちのいいものではない。
「失礼かとは思いましたが、以前あなたがクリスティアーヌに宛てた手紙を読みました。特に結婚式の夜、何があったか……というか何もなかったということを」
「……ああ………そんなこともあったな……確かに手紙は書いた……それが何か?」
「幸い……というか、もし私のことを……クリスティアーヌであり愛理である私のことをあなたが受け入れられないなら、婚姻不成立でこの結婚を無効にしていただいて構いません」
ルイスレーン様のことは嫌いではない。むしろ好ましくさえ思っている自分がいる。
でも、もし彼がこの事実を知った後、彼に疎まれ、腫れ物に触るような結婚生活を送ることになるなら、二度も愛情のない結婚を繰り返すなら、始めは辛くても別々の道を歩いた方がいい。
そう考えて私は自分の考えを彼にぶつけた。
昼間のフォルトナー先生のお宅での食事とは雲泥の差だった。
物静かに食事を口に運ぶルイスレーン様は、いつにも増して無表情で、何を考えているのかわからなかった。
私は私でどうやって切り出そうかとシナリオを組み立てる。
救いはマリアンナが私から何を聞いても受け止めて欲しいと、ルイスレーン様に言ってくれていたことだ。
あれでいくらか気持ちが楽になった。
「書斎で待っている。暫く誰も来ないように」
お通夜のような夕食が終わり、前半は私に、後半はダレクたちに言い置いて、私の返事を待たずに先に行ってしまった。
「大丈夫です。旦那様はわかってくれます」
エールを送ってくれるダレクとマリアンナに微笑んで書斎に向かった。
書斎に入るとルイスレーン様も落ち着かないのか本棚の前で立ち尽くしていた。
「それで、あなたの話だが……私なりに考えてみたのだが、まるで検討がつかなかった。倒れて記憶を失くしたのは事実なんだろう?」
二人で隣に座り、まずはルイスレーン様が訊ねた。黙ってこくりと頷く。
「なら、他に何が……」
「『クリスティアーヌ』の記憶は失くしましたが、変わりに別の記憶が甦りました」
「………?どういう意味だ?」
「私は見かけはクリスティアーヌですが、中身は『如月 愛理』という名前の別人格です。多分クリスティアーヌの前世。こことは違う世界の地球という所で生まれて、そして二十九で亡くなりました」
瞬きも忘れて……呼吸も忘れているのではないかと思う。本当に長い時間、ルイスレーン様は沈黙していた。
私もその後の話を続けていいのかわからず、沈黙する。
「………続けても?」
「あ、ああ………」
まだ戸惑いを見せるルイスレーン様が反射的に返事を返す。
「この世界のことは、もちろん知識としてありませんでしたので、一から学び直す必要があったのは本当です。ただ、地球……私の生まれ育った日本という国にある文化で、別の世界に生まれ変わったりする転生や、別の世界に召喚される転移と言った小説などがあったので、私に起こった事象については、何となくそうなのかなと受け入れることはできました」
特に嵌まっていたわけではないが、そういう分野のものが流行っていたことは知っていた。
生まれ変わりなどは昔から題材としてあったし、世界観に馴染む必要はあったが、生まれ変わり事態は意外にあっさり受け入れられた。
「ルイスレーン様が違和感を感じたのも無理はありません。中身が別人なのですから」
「クリスティアーヌは………私が結婚式を挙げたクリスティアーヌは?」
「多分ですが………この前までこの体を支配していたクリスティアーヌもこの体の中に眠っていると思います。始めの頃はわかりませんでしたが、時折彼女を感じます。今は眠っていて、その代わり私が……『愛理』が目覚めたのだと思います」
「すまない……覚悟は出来ていたが……いや……どんな話かはまったく考え付かなかったが………」
額に左手を当て、反対側の手は私に待ったをかけるように前に差し出して、たどたどしく話す。
「いきなり信じろとは言いません。でも嘘は言っていません。それだけは信じてください」
「嘘……嘘にしては荒唐無稽過ぎて、同じ吐くなら分かりやすい話をするだろう」
「信じてくださいますか?」
「納得はいかないし、理解もできない。だが、信じるしかないのだろう………では、あの手紙は……私に送ってくれた手紙は……」
「私が書きました。最初は文字の練習のために……外国語は得意でしたのでこちらの文字も先生に教わって何とか……クリスティアーヌからでなくてすいません。あなたが妻にと望んだクリスティアーヌと違ってごめんなさい。黙っていてすいません」
「いや、あなたは何も悪くない……なりたくてなったわけではないのだろう?」
混乱している筈なのに謝る私のことを彼は気遣ってくれる。
その優しさがクリスティアーヌと愛理のどちらに向いているのかわからない。
「『愛理』は、……私は前世で夫がおりました。親の勧めで家のために。でも幸せな結婚ではありませんでした。彼には別に愛する人がいて、邪魔者は私。追い出されるところを事故に合い、その後亡くなった。それが私の前世です」
「それは……そんなことまで覚えているのか」
『愛理』という人物の過去を耳にしてショックを受けている。
死の瞬間の記憶など、聞いて気持ちのいいものではない。
「失礼かとは思いましたが、以前あなたがクリスティアーヌに宛てた手紙を読みました。特に結婚式の夜、何があったか……というか何もなかったということを」
「……ああ………そんなこともあったな……確かに手紙は書いた……それが何か?」
「幸い……というか、もし私のことを……クリスティアーヌであり愛理である私のことをあなたが受け入れられないなら、婚姻不成立でこの結婚を無効にしていただいて構いません」
ルイスレーン様のことは嫌いではない。むしろ好ましくさえ思っている自分がいる。
でも、もし彼がこの事実を知った後、彼に疎まれ、腫れ物に触るような結婚生活を送ることになるなら、二度も愛情のない結婚を繰り返すなら、始めは辛くても別々の道を歩いた方がいい。
そう考えて私は自分の考えを彼にぶつけた。
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