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第七章
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会場では音楽が流れ出した。
ダンスが始まったのだろう。
叔父との対面で感じた嫌悪感を振り払い、会場へと戻った。
既に会場ではダンスが始まっており、多くの男女が音楽に合わせて踊っていた。
「クリスティアーヌ。ここにいたのか」
名を呼ばれ振り返ると、私を目指して窓に沿って駆け寄ってくるルイスレーン様が見えた。
「すまない。慣れないあなたを序盤から放っておいた…………イヴァンジェリン様はご一緒ではないのか?」
ルイスレーン様は私の顔色を伺い、頭から足元までを眺めて様子を聞いてくれる。
「皇子妃様はお知り合いの方が久しぶりに夜会に来られたからと、会いに行かれました」
「それではあなた一人で?大丈夫だったか?」
私が一人でいたことを知り、彼は不安そうに訊ねた。
「心配をおかけしてすいません…実は筆頭侯爵家の方々にお声をかけていただきました」
「筆頭侯爵家の?どなただ?」
「先ほど馬車停まりでお会いしたカレンデュラ侯爵夫人のマリアーサ様とマイセラ侯爵夫人のフランチェスカ様、そしてルクレンティオ侯爵夫人にオーレンス侯爵夫人、ルクレンティオ侯爵令嬢に……マイセラ侯爵にもお会いしました」
つらつらと私が告げた名前を聞いて彼は目を大きくした。
「そんなに……フランチェスカ様のご実家は男爵だが、お父上は今の陛下と並ぶ剣豪で、その娘のフランチェスカ様も剣の腕を買われて侯爵家に雇い入れられ、イヴァンジェリン様付の従者になられていた。そこで兄君の今のご当主に見初められたそうだ」
「そのことはイヴァンジェリン様からお伺いしました。ローガン様……でしたね。イヴァンジェリン様にとても良く似た……イヴァンジェリン様が似ているのかしら……フランチェスカ様がお羨ましいと思うくらい。とても素敵な方でした」
キャシディー様が今でも頬を染めるくらいだから、そう言い掛けて、こんなことを言ったら誤解されそうかなと思い、それは口にしなかった。
「確かに仕事もお出来になるご立派な方だ。私と違って人当たりも良く、社交界でも指折りの貴公子でいらっしゃる。ああ言う方が好みか?」
「え?」
好みかと訊かれルイスレーン様を見返す。
暗い窓の前に立つため、ルイスレーン様の右顔半分に影が色濃く差している。
そのせいで彼の右側の瞳は青と黄色に、反対側は緑とオレンジ色に見える。
「いえ……一般論を言っただけで、仰る通りマイセラ侯爵のような方は社交界では持て囃されるでしょうが、フランチェスカ様のことをとても大事にされていらっしゃるのが短時間お会いしただけでもわかりました。少し剣呑な雰囲気だったのが、あの方の出現で収まりましたし」
「剣呑な雰囲気!……何があったのだ?」
少し声が大きくなり、近くにいた何人かがこちらを向いたので、後半は声を落として訊ねられた。
「こっちへ……」
ルイスレーン様に促され、さっきとは違う窓から外に出ると、二人掛けのソファーが置かれていた。
「それで?」
そこに腰を下ろしてからルイスレーン様が私に説明を求めた。
「あの……大したことでは……イヴァンジェリン様とご一緒していた時に、ルクレンティオ侯爵夫人を始め何人かの奥様方がいらっしゃいまして………」
できるだけ主観を交えず、あったことを彼を心配させないように言葉を選んで話した。
ただヴァネッサ嬢が語ったデビュタントでのことは何故か話せなかった。
彼女のデビュタントはとても華やかだっただろう。おそらく急に決まった今夜の夜会でも、少し胸を強調し過ぎだとは思うが彼女を引き立て素晴らしかったのだから、早くから準備をすることができるデビュタントなら尚更だ。日本の成人式だって早くから晴れ着の手配をしたり前撮りなどもして早い内から美容室を予約する。
そんな彼女の装いをルイスレーン様が誉めたことが私の気持ちをなぜか重苦しくさせていた。
ダンスが始まったのだろう。
叔父との対面で感じた嫌悪感を振り払い、会場へと戻った。
既に会場ではダンスが始まっており、多くの男女が音楽に合わせて踊っていた。
「クリスティアーヌ。ここにいたのか」
名を呼ばれ振り返ると、私を目指して窓に沿って駆け寄ってくるルイスレーン様が見えた。
「すまない。慣れないあなたを序盤から放っておいた…………イヴァンジェリン様はご一緒ではないのか?」
ルイスレーン様は私の顔色を伺い、頭から足元までを眺めて様子を聞いてくれる。
「皇子妃様はお知り合いの方が久しぶりに夜会に来られたからと、会いに行かれました」
「それではあなた一人で?大丈夫だったか?」
私が一人でいたことを知り、彼は不安そうに訊ねた。
「心配をおかけしてすいません…実は筆頭侯爵家の方々にお声をかけていただきました」
「筆頭侯爵家の?どなただ?」
「先ほど馬車停まりでお会いしたカレンデュラ侯爵夫人のマリアーサ様とマイセラ侯爵夫人のフランチェスカ様、そしてルクレンティオ侯爵夫人にオーレンス侯爵夫人、ルクレンティオ侯爵令嬢に……マイセラ侯爵にもお会いしました」
つらつらと私が告げた名前を聞いて彼は目を大きくした。
「そんなに……フランチェスカ様のご実家は男爵だが、お父上は今の陛下と並ぶ剣豪で、その娘のフランチェスカ様も剣の腕を買われて侯爵家に雇い入れられ、イヴァンジェリン様付の従者になられていた。そこで兄君の今のご当主に見初められたそうだ」
「そのことはイヴァンジェリン様からお伺いしました。ローガン様……でしたね。イヴァンジェリン様にとても良く似た……イヴァンジェリン様が似ているのかしら……フランチェスカ様がお羨ましいと思うくらい。とても素敵な方でした」
キャシディー様が今でも頬を染めるくらいだから、そう言い掛けて、こんなことを言ったら誤解されそうかなと思い、それは口にしなかった。
「確かに仕事もお出来になるご立派な方だ。私と違って人当たりも良く、社交界でも指折りの貴公子でいらっしゃる。ああ言う方が好みか?」
「え?」
好みかと訊かれルイスレーン様を見返す。
暗い窓の前に立つため、ルイスレーン様の右顔半分に影が色濃く差している。
そのせいで彼の右側の瞳は青と黄色に、反対側は緑とオレンジ色に見える。
「いえ……一般論を言っただけで、仰る通りマイセラ侯爵のような方は社交界では持て囃されるでしょうが、フランチェスカ様のことをとても大事にされていらっしゃるのが短時間お会いしただけでもわかりました。少し剣呑な雰囲気だったのが、あの方の出現で収まりましたし」
「剣呑な雰囲気!……何があったのだ?」
少し声が大きくなり、近くにいた何人かがこちらを向いたので、後半は声を落として訊ねられた。
「こっちへ……」
ルイスレーン様に促され、さっきとは違う窓から外に出ると、二人掛けのソファーが置かれていた。
「それで?」
そこに腰を下ろしてからルイスレーン様が私に説明を求めた。
「あの……大したことでは……イヴァンジェリン様とご一緒していた時に、ルクレンティオ侯爵夫人を始め何人かの奥様方がいらっしゃいまして………」
できるだけ主観を交えず、あったことを彼を心配させないように言葉を選んで話した。
ただヴァネッサ嬢が語ったデビュタントでのことは何故か話せなかった。
彼女のデビュタントはとても華やかだっただろう。おそらく急に決まった今夜の夜会でも、少し胸を強調し過ぎだとは思うが彼女を引き立て素晴らしかったのだから、早くから準備をすることができるデビュタントなら尚更だ。日本の成人式だって早くから晴れ着の手配をしたり前撮りなどもして早い内から美容室を予約する。
そんな彼女の装いをルイスレーン様が誉めたことが私の気持ちをなぜか重苦しくさせていた。
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