【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

文字の大きさ
92 / 266
第七章

15

しおりを挟む
会場では音楽が流れ出した。
ダンスが始まったのだろう。
叔父との対面で感じた嫌悪感を振り払い、会場へと戻った。
既に会場ではダンスが始まっており、多くの男女が音楽に合わせて踊っていた。

「クリスティアーヌ。ここにいたのか」

名を呼ばれ振り返ると、私を目指して窓に沿って駆け寄ってくるルイスレーン様が見えた。

「すまない。慣れないあなたを序盤から放っておいた…………イヴァンジェリン様はご一緒ではないのか?」

ルイスレーン様は私の顔色を伺い、頭から足元までを眺めて様子を聞いてくれる。

「皇子妃様はお知り合いの方が久しぶりに夜会に来られたからと、会いに行かれました」
「それではあなた一人で?大丈夫だったか?」

私が一人でいたことを知り、彼は不安そうに訊ねた。

「心配をおかけしてすいません…実は筆頭侯爵家の方々にお声をかけていただきました」
「筆頭侯爵家の?どなただ?」
「先ほど馬車停まりでお会いしたカレンデュラ侯爵夫人のマリアーサ様とマイセラ侯爵夫人のフランチェスカ様、そしてルクレンティオ侯爵夫人にオーレンス侯爵夫人、ルクレンティオ侯爵令嬢に……マイセラ侯爵にもお会いしました」

つらつらと私が告げた名前を聞いて彼は目を大きくした。

「そんなに……フランチェスカ様のご実家は男爵だが、お父上は今の陛下と並ぶ剣豪で、その娘のフランチェスカ様も剣の腕を買われて侯爵家に雇い入れられ、イヴァンジェリン様付の従者になられていた。そこで兄君の今のご当主に見初められたそうだ」
「そのことはイヴァンジェリン様からお伺いしました。ローガン様……でしたね。イヴァンジェリン様にとても良く似た……イヴァンジェリン様が似ているのかしら……フランチェスカ様がお羨ましいと思うくらい。とても素敵な方でした」

キャシディー様が今でも頬を染めるくらいだから、そう言い掛けて、こんなことを言ったら誤解されそうかなと思い、それは口にしなかった。

「確かに仕事もお出来になるご立派な方だ。私と違って人当たりも良く、社交界でも指折りの貴公子でいらっしゃる。ああ言う方が好みか?」
「え?」

好みかと訊かれルイスレーン様を見返す。
暗い窓の前に立つため、ルイスレーン様の右顔半分に影が色濃く差している。
そのせいで彼の右側の瞳は青と黄色に、反対側は緑とオレンジ色に見える。

「いえ……一般論を言っただけで、仰る通りマイセラ侯爵のような方は社交界では持て囃されるでしょうが、フランチェスカ様のことをとても大事にされていらっしゃるのが短時間お会いしただけでもわかりました。少し剣呑な雰囲気だったのが、あの方の出現で収まりましたし」
「剣呑な雰囲気!……何があったのだ?」

少し声が大きくなり、近くにいた何人かがこちらを向いたので、後半は声を落として訊ねられた。

「こっちへ……」

ルイスレーン様に促され、さっきとは違う窓から外に出ると、二人掛けのソファーが置かれていた。

「それで?」

そこに腰を下ろしてからルイスレーン様が私に説明を求めた。

「あの……大したことでは……イヴァンジェリン様とご一緒していた時に、ルクレンティオ侯爵夫人を始め何人かの奥様方がいらっしゃいまして………」

できるだけ主観を交えず、あったことを彼を心配させないように言葉を選んで話した。
ただヴァネッサ嬢が語ったデビュタントでのことは何故か話せなかった。

彼女のデビュタントはとても華やかだっただろう。おそらく急に決まった今夜の夜会でも、少し胸を強調し過ぎだとは思うが彼女を引き立て素晴らしかったのだから、早くから準備をすることができるデビュタントなら尚更だ。日本の成人式だって早くから晴れ着の手配をしたり前撮りなどもして早い内から美容室を予約する。
そんな彼女の装いをルイスレーン様が誉めたことが私の気持ちをなぜか重苦しくさせていた。
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...