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第十章
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自分の腕を掴んでいる人物の顔を見て、ここがどこかぼんやりと思い出す。
「大丈夫か?」
「……えっと……本当に……ルイスレーン様……?」
まださっきまで見ていた夢の中にいるようで、どっちが現実かわからなくなっている。
「そうだ……」
ルイスレーン様が枕元の灯りを点けると、弱々しい光に彼の姿が浮かび上がった。
良く見れば彼も自分もまだ裸だ。何があったのか思い出して彼を見るのが恥ずかしくて視線を反らす。
ふと彼の左肩にくっきりと歯形が付いているのを見つけた。
「ルイスレーン様…これ、私ですよね……」
「あ、ああ……気にするな」
歯形に触れる私の手を掴み、掌に口づけを落とす。
「噛めと言ったのは私だ。破瓜の痛みは男には分からないからな。あなたと同じ痛みを感じたくて……あなたの顎の力で噛まれても、痛くも痒くもないくらいだが」
確かに血が出た痕はあるが、もう血は止まっている。良く見れば固い筋肉に覆われた彼の体には他にも細かい傷があって、私の噛み痕なんてまだ小さいくらいだ。
「……あの、今は何時頃ですか?」
まだ彼のものを受け入れた感触が足の間にあって、違和感にもぞもぞと足を擦り合わせながら窓を振り返ると、まだ外は真っ暗だった。
「夜中の三時くらいかな?」
「私……眠ってしまって……」
「大丈夫だ。私も少し仮眠を取ったところだ。夢でも見ていたのか?」
急に恥ずかしくなって彼の顔を直視できない私の頬に手を当てて、心配そうに顔を覗き込まれる。低い声で囁く彼の声が耳に心地いい。抱き合った後でこんな風に寄り添って余韻に浸ることなど以前ではなかった。
「ルイスレーン様………もしかして体を……」
「寝ている間に軽く拭いただけだ」
「す、すいません……そんなことまでさせてしまって……」
「何を謝る。……これは男の勤めだ。あちらでは違ったのか?」
「さ、さあ……少なくとも、後はいつも私が……」
そう言うと、ルイスレーン様が不愉快だと言わんばかりに顔をしかめる。
「男女の交わりについて、特に女性が初めての時は、かなり痛みを伴うものだとわかっている。一方的に男だけが悦楽のために強いるのは間違いだ。それが男らしさだと勘違いする者がいるのは残念だが」
私が知識不足なのか、常識が違うのか、夫に事後に世話をしてもらうのは当たり前のようだ。
申し訳なさそうにする私を不思議そうな顔をして見る。ここではこれが当たり前なのだと気づいた。
「それより何かうなされていたようだが、夢でも見ていたのか?」
気遣わしげに肩を撫でて訊ねられ、ぼんやりとした頭でさっき見ていた夢を思い出した。
「あの……もしかして…ルイスレーン様とクリスティアーヌは結婚式の前に会っていたりしましたか?」
「何か……思い出したのか?」
ルイスレーン様が驚いて訊ねる。
「今すぐ話辛いなら無理に話さなくていい。落ち着いて…水でも飲むか?」
「いいえ……はい……いいえ……」
考えが纏まらず、水を飲みたいのかどうかもわからない。
「やっぱり……いりません」
最終的に水はいらないと言うと、ルイスレーン様が眉を持ち上げて、本当に?と訊いてくる。
「私の夢でも見たのか?」
「……夢か現実にあったことなのかわからないけど……王宮の夜会で…多分……デビューの夜会で、ルイスレーン様と会っていたような気がするんです」
私が言うとルイスレーン様がはっと息を飲んだのがわかった。
「デビューの夜会……思い出した?」
私が思い出したのがデビューの日のことだと聞いて、ルイスレーン様の顔が何故か曇った。何かよくないことでもあったのだろうか。
「会っていたんですか?」
「確かに、会った……と言うよりは、見かけたという程度だ。そうか……あの日のことを……」
「私、何か失態をしでかしたんですか?」
ルイスレーン様は思い出さない方が良かったような口ぶりだ。想像がまったくつかないが、とんでもないことをしたのだろうか。
「あなたが心配しているようなことは何もない」
私の不安をその言葉が打ち消した。なら、何故彼の目が気の毒なものを見るように私を見ているのだろう。
「あなたに取って、いいデビューだったとは言えない。ならいっそ思い出さない方がよかったかもと思うかもしれない」
「それは衣裳のことですか?」
誰もがあこがれるデビューの夜会。そこにサイズの異なるドレスを着て来れば、嫌でも注目を集めてしまう。
私が訊ねると、ルイスレーン様の肩から力が抜けたのがわかった。
「……くすんだ緑のブカブカのドレス………でしたよね」
「……思い出したのか」
着ていた衣裳のことを伝えると、ルイスレーン様が諦めにも似たため息を吐いた。
私が思い出したことを話し終わると、黙って聞いていたルイスレーン様が小さくため息を吐いた。
「確かに今聞いた話の一部は、私の記憶と一致している」
夢でも妄想でもなく、それが本当にあったことだとルイスレーン様が認めた。
「あなたには辛い経験だったな」
「辛い?」
「デビューの夜会が、女性に取ってどれ程大事なものか私でも知っている。ほぼ毎年警備に当たっているからな。期待に胸を膨らませて着飾る彼女たちを見てきた。そんな中で、クリスティアーヌのデビューは、成功しているとは思えない」
「私があの日のことを思い出して、落ち込むと思いましたか?」
「違うのか?」
ルイスレーン様が暗い表情を見せたのは、私のことを心配してくれたからなのだと知って驚いた。
「大丈夫か?」
「……えっと……本当に……ルイスレーン様……?」
まださっきまで見ていた夢の中にいるようで、どっちが現実かわからなくなっている。
「そうだ……」
ルイスレーン様が枕元の灯りを点けると、弱々しい光に彼の姿が浮かび上がった。
良く見れば彼も自分もまだ裸だ。何があったのか思い出して彼を見るのが恥ずかしくて視線を反らす。
ふと彼の左肩にくっきりと歯形が付いているのを見つけた。
「ルイスレーン様…これ、私ですよね……」
「あ、ああ……気にするな」
歯形に触れる私の手を掴み、掌に口づけを落とす。
「噛めと言ったのは私だ。破瓜の痛みは男には分からないからな。あなたと同じ痛みを感じたくて……あなたの顎の力で噛まれても、痛くも痒くもないくらいだが」
確かに血が出た痕はあるが、もう血は止まっている。良く見れば固い筋肉に覆われた彼の体には他にも細かい傷があって、私の噛み痕なんてまだ小さいくらいだ。
「……あの、今は何時頃ですか?」
まだ彼のものを受け入れた感触が足の間にあって、違和感にもぞもぞと足を擦り合わせながら窓を振り返ると、まだ外は真っ暗だった。
「夜中の三時くらいかな?」
「私……眠ってしまって……」
「大丈夫だ。私も少し仮眠を取ったところだ。夢でも見ていたのか?」
急に恥ずかしくなって彼の顔を直視できない私の頬に手を当てて、心配そうに顔を覗き込まれる。低い声で囁く彼の声が耳に心地いい。抱き合った後でこんな風に寄り添って余韻に浸ることなど以前ではなかった。
「ルイスレーン様………もしかして体を……」
「寝ている間に軽く拭いただけだ」
「す、すいません……そんなことまでさせてしまって……」
「何を謝る。……これは男の勤めだ。あちらでは違ったのか?」
「さ、さあ……少なくとも、後はいつも私が……」
そう言うと、ルイスレーン様が不愉快だと言わんばかりに顔をしかめる。
「男女の交わりについて、特に女性が初めての時は、かなり痛みを伴うものだとわかっている。一方的に男だけが悦楽のために強いるのは間違いだ。それが男らしさだと勘違いする者がいるのは残念だが」
私が知識不足なのか、常識が違うのか、夫に事後に世話をしてもらうのは当たり前のようだ。
申し訳なさそうにする私を不思議そうな顔をして見る。ここではこれが当たり前なのだと気づいた。
「それより何かうなされていたようだが、夢でも見ていたのか?」
気遣わしげに肩を撫でて訊ねられ、ぼんやりとした頭でさっき見ていた夢を思い出した。
「あの……もしかして…ルイスレーン様とクリスティアーヌは結婚式の前に会っていたりしましたか?」
「何か……思い出したのか?」
ルイスレーン様が驚いて訊ねる。
「今すぐ話辛いなら無理に話さなくていい。落ち着いて…水でも飲むか?」
「いいえ……はい……いいえ……」
考えが纏まらず、水を飲みたいのかどうかもわからない。
「やっぱり……いりません」
最終的に水はいらないと言うと、ルイスレーン様が眉を持ち上げて、本当に?と訊いてくる。
「私の夢でも見たのか?」
「……夢か現実にあったことなのかわからないけど……王宮の夜会で…多分……デビューの夜会で、ルイスレーン様と会っていたような気がするんです」
私が言うとルイスレーン様がはっと息を飲んだのがわかった。
「デビューの夜会……思い出した?」
私が思い出したのがデビューの日のことだと聞いて、ルイスレーン様の顔が何故か曇った。何かよくないことでもあったのだろうか。
「会っていたんですか?」
「確かに、会った……と言うよりは、見かけたという程度だ。そうか……あの日のことを……」
「私、何か失態をしでかしたんですか?」
ルイスレーン様は思い出さない方が良かったような口ぶりだ。想像がまったくつかないが、とんでもないことをしたのだろうか。
「あなたが心配しているようなことは何もない」
私の不安をその言葉が打ち消した。なら、何故彼の目が気の毒なものを見るように私を見ているのだろう。
「あなたに取って、いいデビューだったとは言えない。ならいっそ思い出さない方がよかったかもと思うかもしれない」
「それは衣裳のことですか?」
誰もがあこがれるデビューの夜会。そこにサイズの異なるドレスを着て来れば、嫌でも注目を集めてしまう。
私が訊ねると、ルイスレーン様の肩から力が抜けたのがわかった。
「……くすんだ緑のブカブカのドレス………でしたよね」
「……思い出したのか」
着ていた衣裳のことを伝えると、ルイスレーン様が諦めにも似たため息を吐いた。
私が思い出したことを話し終わると、黙って聞いていたルイスレーン様が小さくため息を吐いた。
「確かに今聞いた話の一部は、私の記憶と一致している」
夢でも妄想でもなく、それが本当にあったことだとルイスレーン様が認めた。
「あなたには辛い経験だったな」
「辛い?」
「デビューの夜会が、女性に取ってどれ程大事なものか私でも知っている。ほぼ毎年警備に当たっているからな。期待に胸を膨らませて着飾る彼女たちを見てきた。そんな中で、クリスティアーヌのデビューは、成功しているとは思えない」
「私があの日のことを思い出して、落ち込むと思いましたか?」
「違うのか?」
ルイスレーン様が暗い表情を見せたのは、私のことを心配してくれたからなのだと知って驚いた。
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