【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

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第十二章

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遂にその日が来た。

朝から人が大勢やってきて、身支度が整えられる。クラブが開かれる日はいつもこんなだと言う。

お風呂に入れられ体中を磨き上げられ、髪にも体にも香油をたっぷり刷り込まれる。
同じような手順なのに、ルイスレーンとの初めての夜を迎えたあの日とは雲泥の差だ。

胸を盛り上げるように飾りのじゃらじゃら付いたブラと紐の下着を付け、足の付け根まで切り込みの入った薄いスカートを履かされる。
化粧もされて髪はハーフアップ、目から下を隠すベールを付けられ、サンダルを履かされた。
そして腕輪に首飾り、アンクレットと装飾品をごてごて付けられ、まるで展示品のように仕上がった。
そしてそれぞれの目の色に合わせたサークレットを額に付ける。
私は金色の目なので、金貨を模した飾りが付いていた。黒目のライラはブラックオパール、青い目のリアはサファイア、茶色い目のノイエは瑪瑙、緑の目のマイアはエメラルド、紫の目のエルサはアメジスト、灰色の目のケイトリンは銀貨の飾り。私たちは互いにこの貴金属の名前で呼ばれる。つまり私はゴールドだ。

他の皆も同じようなものなのでこれがいつもの仕様なのだろう。

首輪を付けられ猿轡をされ互いに手首を縛られて鎖で繋がれる。一人が逃げようとしても全員で連なっているので逃げられない。

ケイトリンだけが目が見えないということで猿轡のみの状態でコービルに手を引かれる。

全員で窓のない護送車のような馬車に揺られて辿り着いたのは、話に聞いていたとおり、深い森の中にある二階建ての邸だった。

馬車を降りると裏口から階段を上がり、見張りのいる扉を二つ通り抜けた部屋に通された。

「入れ」

一人ずつ手首の枷を外され全員同じ垂れ幕の中に押し込められた。そこにはいくつかクッションが置かれ各々で座って客から値踏みされることになっている。
客が気に入った女の札入れに金額を書き、その日一番の高値で落札した客と共に個室へ行って相手をするのだという。

「ここで大人しく待っていろ。すぐに客が来る」

主に初めての私に伝えるようにコービルが言って出ていく。扉の向こうで「しっかり見張れ」と警護の男たちに命令するのが聞こえた。

「先に賭博場が開くの。そこで賭け事やお酒で気を良くした男の人たちがここに集まってくるの。モーシャスが特別に許したお客がね」

紫の瞳のエリサが言ったとおり、暫く経つと次々と男達が入ってきた。

「どうぞ、ゆっくりとご鑑賞ください。ただし落札までは必要以上にお手を触れませんように。規則に従っていただけない場合は資格を剥奪しますので、ご注意を」

タキシードに身を包み、真っ赤な仮面を被ったグレイヘアの男が説明する。
素性を隠すため皆、顔の上半分を仮面で覆っている。
目の下をヴェールで隠す私たちとは真逆だ。

男達は次第に私達の周りに集まり、遠回しに値踏みをする。不埒な輩が時折髪や肩を触り、頭の上から胸元を覗く。

身を隠したくても露出の激しい衣裳では限界がある。下卑た視線に晒され、どんな男に落札されるのか皆の顔に浮かぶ心配気な表情は、きっと私の顔にも浮かんでいるのだろう。

「泣いちゃだめよ」

隣に座るマイアが涙ぐむ私の手を握った。

「泣くともっと泣いた顔が見たいと言う変な趣味の男の気を引くわ。あんた達なんかお呼びじゃないと高飛車に振る舞う方がいいわ」

それを聞いて目を閉じてぐっと涙を堪える。被虐趣味の男などごめんだ。

「目を開けてこっちを見ろ」

すぐ目の前に男が立ち命令した。

下を向いていたのでまず目に入ったのは足元。高そうな革靴が見えた。そこから視線を上に移動していくと、ずんぐりとした体型の薄茶色の髪をした男が目の前に立ち、私に注目している。

「いいぞ…」

口元をだらしなく歪め、男は涎を垂らした。まるでご馳走を前に舌を出してはっはっと言う犬のように興奮し出した。

「いいぞ……その眼だ……」

「やだ……この人、もう勃ってる」

ノイエが呟いたので男の下半身を見ると、そこはすでに硬く勃起していた。

「はは……待ってろ……すぐに可愛がってやるからな」

股間を揺らし私に向かって小柄ででっぷりした男がほくそ笑む。既に服を着たまま射精したのかズボンのそこの辺りが濡れている。

一気に鳥肌が立ち身震いした。
この男は危ない。何に興奮したかわからないが、この男に関わったらただでは済まない。

「お客様、間もなく入札が始まります。お席にお着きください」

そこへ赤い仮面の男が声をかけてきて、男の肩に触れた。

「放っておけ、私はここにいる。どうせ私が落札するんだ。眺めるのは自由だろ!」

小太りの男は肩に触れたタキシードの男の腕を乱暴に振り払い声を荒げた。

「品定めの時間は終わりました。皆様と同じ位置までお戻りください」
「うるさい、私を誰だと思っている!私は…オ」
「それ以上駄々をこねられるなら、入札資格を剥奪させていただきますよ。それでもよろしのですか?」

タキシードの男が手を上げて指を鳴らすと、屈強な男達が忽ち集まってきた。

「落札されるまでお客様は皆平等です。ここで表の身分を明かされるのは賢明とは言えません」

凄みを利かせた言葉に、小太りの男は不満そうに口を引き結んだ。何が得策を考える必要があると言って、男は名残惜しそうに私を見ながら離れていった。
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