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番外編 公開模擬試合
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「ここが、天幕の中……」
ルイスレーンに案内されて着いた天幕の中に入ると、意外に中は明るかった。魔石の明かりのお陰だが、遊牧民の住まいに似ている。
椅子や机があって、絨毯も敷かれている。トルソーがあってそこには彼の鎧がかけられていて、武具も立てられている。
「珍しいか?」
キョロキョロと見渡している私を見て、ルイスレーンが楽しそうに訊ねる。
「夜営するときもこんな感じなのですか?」
「そうだな……本部を置く天幕はもっと大きいし、本格的になると寝室用の天幕も張るからな」
「なんだか豪華な『キャンプ』みたい……」
「『キャンプ』?」
知らずにあちらの単語を使っていた。目覚めてから時折こうなる。
「ごめんなさい……えっと自然の中で遊びで寝泊まりするの。……私はしたことはないんだけど……ごめんなさい。遊びと戦争での夜営を一緒にしたら不謹慎よね」
「気にする必要はない。アイリの国は平和だったらしいからな」
「覚えていてくれたんですか?」
「君が話してくれたことは覚えている。興味深いからな」
被っていた帽子を今度は外し、ルイスレーンが私の顎を持って上向かせる。
「勝利の女神の口づけを」
そう言って彼が唇に軽く触れ、すぐに深い口づけに変わる。
「ん……」
息も出来ないくらいに激しい口づけに、膝が崩れ、彼に腰を支えられていなければ倒れるところだった。
「ルイス……ま、待って……誰か……入って……」
「私が声をかけなければ誰も入ってこない」
唇をずらし、頬や瞼、耳朶にとキスをしていく。
「先ほどは大丈夫だったか?」
ザッカリーさんたちに取り囲まれた時に感じた恐れを、ルイスレーンは気づいていた。
見知った男性なら平気だし、私を性的な意味で見ない人は大丈夫だが、まだ少し男性が怖い時がある。
ルイスレーンと共に出席した夜会でも少しパニックになりかけたことがある。彼が傍にいれば平気なので、今回も大丈夫だと思った。
「やはり、まだ早かったか」
「いいえ……大丈夫です……せっかくの軍の大きな行事に副官の妻が来ないなんて……」
「そんなことは気にしなくていい。私は君が心配なんだ」
「でもいつまでも怯えていては何もできません。少しずつ慣れていかなくては……」
「それでも、不安になる……君が望まなくても、相手が強行な手に出れば……」
何もなかったとは言え、バーレーンとのことが、私以上に彼にとってトラウマになっていることは気付いていた。
あれからケイトリンはどうしただろう。カメイラに引渡されたとは聞いたが、その後の事はわからない。
あれ程の憎悪を煮えたぎらせたまま生きて、彼女は辛くないのだろうか。
生まれ変わっても前世の想いに囚われて、自分で自分を追い込んでいる。
私は彼女のようにはならない、なりたくない。
「大丈夫よ……私は大丈夫……」
こんな風に私には弱さを見せてくれる彼が堪らなく愛おしい。
「閣下……そろそろよろしいでしょうか」
天幕の外から遠慮がちにクロスさんが声をかけてきた。
ルイスレーンがチッと舌打ちして私から離れる。
「そろそろ時間だ……貴賓席でお妃様たちが待っている。そこから観覧してくれ」
「え、王室の方たちと……そ、それは……」
「席は本来の身分ではなく、軍での身分で決められている。副官の妻なのだから当然だ」
「カイン、もう入ってきていい……ではまた後でな」
「はい。ルイスレーンも怪我に気をつけてくださいね」
クロスさんと入れ替わりに天幕を出ると、ギオーヴさんが待っていてくれた。
スティーブは既に模擬試合の準備のために向かっていて、彼に付き添われて貴賓席へ向かった。
公開模擬試合は赤軍と白軍に分かれて総当たりの合戦で、二時間の制限時間終了、または大将が打ち負かされたら敗けだ。生き残った人数が多い方が勝ちだ。
赤軍の大将がオリヴァー殿下、白軍の大将がルイスレーンらしい。
初めての観戦となる私は、どこをどう見ればいいかわからず、貴賓席に一緒に座るエレノア妃とイヴァンジェリン妃に色々と教えてもらった。
近くには筆頭侯爵家の方々もいる。
オーレンス侯爵家のキャシディー様はルクレンティオ侯爵家の没落事件があってから、ぱったりと公の場に出られることはなくなった。
ウェリゲントン侯爵が本格的に爵位を息子に譲ることとなり、筆頭侯爵家の均衡も変わりつつある。
額に巻いた布を奪われたらそこで降参らしい。
騎馬合戦と同じようなものだろう。
「試合の前には馬に乗って走りながら矢を射抜く矢射ちもあるから、楽しむといいわ」
流鏑馬みたいなものだろうか。そう言えばいくつか等間隔に並んだ的が置かれている。
「実力のある五人が毎回矢を射抜くんだけど、いつもは上を目指す中位の中から選ばれるの」
「八つある的を全部射抜けば優秀だけど、前回は五つが一番だったかしら」
「八つ全てを射抜く人があまりいないと言うことですか?」
「弓の腕前だけでなく、馬との相性もあるみたいですから、普段自分専用の馬を持っている者と、そうでない者ではやはり違ってくるわね」
そんな話をしていると、ラッパの音が聞こえた。
矢射ちが始まった。
ルイスレーンに案内されて着いた天幕の中に入ると、意外に中は明るかった。魔石の明かりのお陰だが、遊牧民の住まいに似ている。
椅子や机があって、絨毯も敷かれている。トルソーがあってそこには彼の鎧がかけられていて、武具も立てられている。
「珍しいか?」
キョロキョロと見渡している私を見て、ルイスレーンが楽しそうに訊ねる。
「夜営するときもこんな感じなのですか?」
「そうだな……本部を置く天幕はもっと大きいし、本格的になると寝室用の天幕も張るからな」
「なんだか豪華な『キャンプ』みたい……」
「『キャンプ』?」
知らずにあちらの単語を使っていた。目覚めてから時折こうなる。
「ごめんなさい……えっと自然の中で遊びで寝泊まりするの。……私はしたことはないんだけど……ごめんなさい。遊びと戦争での夜営を一緒にしたら不謹慎よね」
「気にする必要はない。アイリの国は平和だったらしいからな」
「覚えていてくれたんですか?」
「君が話してくれたことは覚えている。興味深いからな」
被っていた帽子を今度は外し、ルイスレーンが私の顎を持って上向かせる。
「勝利の女神の口づけを」
そう言って彼が唇に軽く触れ、すぐに深い口づけに変わる。
「ん……」
息も出来ないくらいに激しい口づけに、膝が崩れ、彼に腰を支えられていなければ倒れるところだった。
「ルイス……ま、待って……誰か……入って……」
「私が声をかけなければ誰も入ってこない」
唇をずらし、頬や瞼、耳朶にとキスをしていく。
「先ほどは大丈夫だったか?」
ザッカリーさんたちに取り囲まれた時に感じた恐れを、ルイスレーンは気づいていた。
見知った男性なら平気だし、私を性的な意味で見ない人は大丈夫だが、まだ少し男性が怖い時がある。
ルイスレーンと共に出席した夜会でも少しパニックになりかけたことがある。彼が傍にいれば平気なので、今回も大丈夫だと思った。
「やはり、まだ早かったか」
「いいえ……大丈夫です……せっかくの軍の大きな行事に副官の妻が来ないなんて……」
「そんなことは気にしなくていい。私は君が心配なんだ」
「でもいつまでも怯えていては何もできません。少しずつ慣れていかなくては……」
「それでも、不安になる……君が望まなくても、相手が強行な手に出れば……」
何もなかったとは言え、バーレーンとのことが、私以上に彼にとってトラウマになっていることは気付いていた。
あれからケイトリンはどうしただろう。カメイラに引渡されたとは聞いたが、その後の事はわからない。
あれ程の憎悪を煮えたぎらせたまま生きて、彼女は辛くないのだろうか。
生まれ変わっても前世の想いに囚われて、自分で自分を追い込んでいる。
私は彼女のようにはならない、なりたくない。
「大丈夫よ……私は大丈夫……」
こんな風に私には弱さを見せてくれる彼が堪らなく愛おしい。
「閣下……そろそろよろしいでしょうか」
天幕の外から遠慮がちにクロスさんが声をかけてきた。
ルイスレーンがチッと舌打ちして私から離れる。
「そろそろ時間だ……貴賓席でお妃様たちが待っている。そこから観覧してくれ」
「え、王室の方たちと……そ、それは……」
「席は本来の身分ではなく、軍での身分で決められている。副官の妻なのだから当然だ」
「カイン、もう入ってきていい……ではまた後でな」
「はい。ルイスレーンも怪我に気をつけてくださいね」
クロスさんと入れ替わりに天幕を出ると、ギオーヴさんが待っていてくれた。
スティーブは既に模擬試合の準備のために向かっていて、彼に付き添われて貴賓席へ向かった。
公開模擬試合は赤軍と白軍に分かれて総当たりの合戦で、二時間の制限時間終了、または大将が打ち負かされたら敗けだ。生き残った人数が多い方が勝ちだ。
赤軍の大将がオリヴァー殿下、白軍の大将がルイスレーンらしい。
初めての観戦となる私は、どこをどう見ればいいかわからず、貴賓席に一緒に座るエレノア妃とイヴァンジェリン妃に色々と教えてもらった。
近くには筆頭侯爵家の方々もいる。
オーレンス侯爵家のキャシディー様はルクレンティオ侯爵家の没落事件があってから、ぱったりと公の場に出られることはなくなった。
ウェリゲントン侯爵が本格的に爵位を息子に譲ることとなり、筆頭侯爵家の均衡も変わりつつある。
額に巻いた布を奪われたらそこで降参らしい。
騎馬合戦と同じようなものだろう。
「試合の前には馬に乗って走りながら矢を射抜く矢射ちもあるから、楽しむといいわ」
流鏑馬みたいなものだろうか。そう言えばいくつか等間隔に並んだ的が置かれている。
「実力のある五人が毎回矢を射抜くんだけど、いつもは上を目指す中位の中から選ばれるの」
「八つある的を全部射抜けば優秀だけど、前回は五つが一番だったかしら」
「八つ全てを射抜く人があまりいないと言うことですか?」
「弓の腕前だけでなく、馬との相性もあるみたいですから、普段自分専用の馬を持っている者と、そうでない者ではやはり違ってくるわね」
そんな話をしていると、ラッパの音が聞こえた。
矢射ちが始まった。
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