【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

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番外編 その後の二人

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日本人ならバランスの取れた食事が大切だということは大勢が知っていた。
知っていても一日三十品目食べろと言われてもなかなかそれらを考えて献立を考えることは出来ない。
食の好みも時間的な制約もあってわかっていても実践できない人は多い。

栄養バランスのことを知らなければ尚更だ。

「お医者様だって病人に滋養のつくものを食べろとおっしゃいます。そのお医者様がそんな風では患者に指導などできません」

「これは手厳しい…でも確かにそうですね。侯爵夫人はお若いのに、まるで母親に言われているようです」

「あ、すいません…私ったら…先生に意見など…」

ルイスレーンと同じくらいの年上の人に説教めいたことを言ってしまった。気を悪くしたのではないだろうか。

「クリスティアーヌ様、気になさらないで下さい。母が亡くなってもう十五年になりますので、久しぶりにそんな風に心配していただけて嬉しかったです」

彼の悲しそうな顔を見て私も前世と今世の二人の母を思い出した。

「まあ…それは…私も母を亡くしております。いくつになっても悲しいものですよね」
「人の気持ちに寄り添えるお優しい方ですね、クリスティアーヌ様は…侯爵様はいい奥様をお持ちです」
「よい妻かどうかわかりませんが、褒めていただいてありがとうございます」
「そんなクリスティアーヌ様のお子さまとして産まれるお子様たちは幸せですね」
「そうですな。保育園の子どもたちにも人気があるし、ご自分の子どもが生まれたらきっとよい母親になるだろう」

不安でいっぱいの妊娠だが、そう言ってもらえて少し母親としての自信が持てた気がした。

「実は母も『黒い魔女』の被害者で、私はその二世です」
「え」
「なんと…」
「そうなのですか」

さらっと彼は言ったが、とても大変なこと聞いていると思った。

「我々が聞いていい話なのですかな?」
「そうです。その…とても個人的な話では…」

先生たちもそう思ったようで、顔に躊躇いの表情を浮かべている。

「カメイラの研究者たちの間では周知の事実です。もちろん吹聴されては困りますが、皆さんはそのようなことをなさらないと信じています」
「信頼してくれるのは嬉しい。もちろん、医者には患者に対して守秘義務がある。あなたは同じ研究者で医者で患者ではないが、無闇に他人のことをベラベラ話すことはしない」

ニコラス先生がそう伝えるとスベン先生も同意した。

「ありがとうございます。クリスティアーヌ様も同じ『黒い魔女』の被害にあわれた方でもありますし、短時間ですがお話をおうかがいして信頼できる方だと思いました」

そこまで信用してもらえたことが嬉しかった。
出会ったばかりだが、私も自分と子どもたちのことを診てもらうなら彼を信頼したい。

「そう言っていただけて私も嬉しいですが、辛いことを話させているなら申し訳ないです。無理はなさらないでください」

「ありがとうございます。ですが、母のことがあったから今私はこうしてここにいるわけです。私の進むべき道を示してくれたわけですから」

ラジークさんの亡くなったお母様がどんな経緯で『黒い魔女』の被害にあったのかはわからないが、それは悲劇に違いない。
そしてその結果生まれた彼も苦労はあったのだろう。
でも彼はそれをバネにしてこうして頑張っている。

「それで、胎動の件だがどう思われる?」
「ああ、話がすっかり逸れてしまいましたね。ベイル殿たちの診断に同意します。この時期に必ずあるとは言い切れませんから、気になさるほどのことではないと思います」

ラジークさんの診断を聞いて肩の力が抜けた。
こうして問題ないと言われると安心できる。

「気に病むことが一番よくありません。クリスティアーヌ様には心穏やかに過ごされることをおすすめします」
「私は今とても幸せですよ。皆私のことを大切にしてくれます」

一番に甘やかしてくれるのはルイスレーンだ。
普段はそれほどではないが、彼が遠出をしたときはいつも今からどのあたりだろう。ちゃんと食べているのかと折りに触れ考えてしまう。

別々に生まれて育った二人が出会い夫婦になって、私のお腹の中には彼との子どもがいる。
いつも心で繋がっていると思っていたが、こうして彼の遺伝子を持った子どもがお腹にいることで、さらにその結びつきを強く感じる。

「今侯爵様のことを考えていらっしゃったのですか」
「え…そ、それは…どうして」

ニコラス先生に考えていることを読まれて焦った。

「私でも表情を見ればわかります。考えてみればまだ新婚ですからね」

見抜かれているとは思わなかった。

「仲がよろしいのですね。貴族の方というのは家の繋がりで結婚されることが多いと聞きますが」
「最初はそうでも、後から好きになることもある」
「お二人はその例です。侯爵家の主治医として以前からこちらに出入りしておりますが、奥様をお迎えになられてからの侯爵の変わりようには目を見張るものがあります」
「結婚そうそう半年近くも戦で留守をされていたのに、戦が終わって戻ってきたら途端に熱々になったそうだ」

自分のことだけど、間違っていないけど人から言われるとどうしてこんなに恥ずかしいのだろう。
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