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番外編 その後の二人
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私は国王陛下からの呼び出しを受けて王宮に赴いた。
ルイルレーンが旅立って二週間が経っていた。順調に行けばすでに現地に辿りついて暫く経っている。
「呼び立ててすまないな。私が出向いても良かったが、色々と差し障りがあるから」
陛下がすぐ側に立つマクミラン卿に視線を向けるので、状況を察した。
一国の王が気軽に街中へ出てしまっては護衛が大変なことになる。
私達の結婚式にも彼を伴ってお忍びで来てくれたが、あの後両殿下からお小言をもらったと聞いている。
「無礼を承知で私が反対しました。今はアンドレア殿下も被災地へ赴かれております。そのような時にふらふらと陛下が出歩いては殿下方に会わせる顔がございません」
「まあ、そういう事だから…身重のそなたに来てもらうのも偲びなかったが、この前イヴァンジェリンとエレノアと共にお茶をしたそうだし、大丈夫ではないかと思ってな」
この前王宮に来た時は陛下には拝謁することは出来なかった。会議だったと聞いていた。
「お心遣い感謝いたします。悪阻も収まりましたので、お呼びとあればいつでも馳せ参じます」
「はは、そう気負わなくてよい。しかし思った以上に元気そうだ。少し痩せたみたいだが、順調だとは聞いている」
「陛下にまでお心を砕いていただき、この子達は幸せでございます」
お腹に手をやり、まだ動かないが確かにそこにいるだろう我が子に触れた。
「双子だそうだな」
「はい。少し不安もありますが、ニコラス先生や大勢の方が見守ってくださるので心強いです」
「リンドバルクも心待ちにしていると申しておった」
「ルイスレーンが…陛下にそのように申し上げたのですか?」
「正確にはオリヴァーにだが。リンドバルクがアンドレアと共に被災地へ向かう時に、そう申しておったそうだ」
「ルイスレーンが、殿下にそのように…」
ルイスレーンのことを聞いただけで愛しさが込み上げてくる。
「公開試合でのことといい、此度のことといい、彼がここまで変わるとは思わなかった。もともとそなたの庇護を目的に引き合わせたのだが、稀に見る溺愛ぶりで、余も大いに満足しておる」
一国の王にまでからかわれるとは思わず、赤面する。
「子が生まれたら余から何か祝いの品を贈ろう」
「そのようなお気を遣わないでくださいませ…陛下が臣下の出産にいちいち祝いなど…お言葉だけで」
「臣下とはいえ、クリスティアーヌは立派な王家の一員なのだ。然るに生まれてくる子達も王家の一員だ。顔も見たことのない者に贈るのではないのだ。アンドレアやオリヴァーの子と同じとはいかないまでも、是非させてほしい」
「陛下、ありがとうございます」
ここで意固地に拒むと陛下に対して逆に失礼にあたると考え素直に受け入れた。
「さて、体調がよくなったとは言えあまり長居させては悪いからな、本題に入ろうか」
先程までの砕けた様子から一変して一国の統率者としての顔つきになり、私もつられて背筋を正した。
「そなたが提案した奨学金制度というものを国として運用していくことが正式に決まった」
「え」
ナタリーのことがあって、提案したことだった。優秀なのに学問を修める機会を得られない人たちに、勉学のために必要な資金を出すことで、有望な人材を確保できそれが国益に繋がる。
そう話したら陛下が興味を持たれた。
「近いうち国中に布礼を出し、希望者を募ることになった」
私の提案が国の施策のひとつになるとは思わなかった。
「しかし、ひとつ問題があってな。そなたなら何か解決策を打ち出してくれるのではと思って呼んだ」
「問題…ですか? 私のような者に解決策が思い付くとは思えませんが」
奨学金制度も愛理の記憶から知っていただけで、すでに先人が考え当たり前のように存在していた制度について、私が他に何か解決できるとは思えない。
「まあ、そう言わずに聞くだけ聞いてほしい。何も思いつかなければそれでもいい。そなたは正式に雇われている役人とは違う。何も思い付かなかったからと言って申し訳なく思う必要もない」
気楽に考えていいと陛下は仰ったが、陛下や並み居る役人の方たちに解決できないものを私ができるとも思えない。
けれど私室での雑談だと思えばいいと再度言われ、聞くだけでも聞いてみようと思った。
ルイルレーンが旅立って二週間が経っていた。順調に行けばすでに現地に辿りついて暫く経っている。
「呼び立ててすまないな。私が出向いても良かったが、色々と差し障りがあるから」
陛下がすぐ側に立つマクミラン卿に視線を向けるので、状況を察した。
一国の王が気軽に街中へ出てしまっては護衛が大変なことになる。
私達の結婚式にも彼を伴ってお忍びで来てくれたが、あの後両殿下からお小言をもらったと聞いている。
「無礼を承知で私が反対しました。今はアンドレア殿下も被災地へ赴かれております。そのような時にふらふらと陛下が出歩いては殿下方に会わせる顔がございません」
「まあ、そういう事だから…身重のそなたに来てもらうのも偲びなかったが、この前イヴァンジェリンとエレノアと共にお茶をしたそうだし、大丈夫ではないかと思ってな」
この前王宮に来た時は陛下には拝謁することは出来なかった。会議だったと聞いていた。
「お心遣い感謝いたします。悪阻も収まりましたので、お呼びとあればいつでも馳せ参じます」
「はは、そう気負わなくてよい。しかし思った以上に元気そうだ。少し痩せたみたいだが、順調だとは聞いている」
「陛下にまでお心を砕いていただき、この子達は幸せでございます」
お腹に手をやり、まだ動かないが確かにそこにいるだろう我が子に触れた。
「双子だそうだな」
「はい。少し不安もありますが、ニコラス先生や大勢の方が見守ってくださるので心強いです」
「リンドバルクも心待ちにしていると申しておった」
「ルイスレーンが…陛下にそのように申し上げたのですか?」
「正確にはオリヴァーにだが。リンドバルクがアンドレアと共に被災地へ向かう時に、そう申しておったそうだ」
「ルイスレーンが、殿下にそのように…」
ルイスレーンのことを聞いただけで愛しさが込み上げてくる。
「公開試合でのことといい、此度のことといい、彼がここまで変わるとは思わなかった。もともとそなたの庇護を目的に引き合わせたのだが、稀に見る溺愛ぶりで、余も大いに満足しておる」
一国の王にまでからかわれるとは思わず、赤面する。
「子が生まれたら余から何か祝いの品を贈ろう」
「そのようなお気を遣わないでくださいませ…陛下が臣下の出産にいちいち祝いなど…お言葉だけで」
「臣下とはいえ、クリスティアーヌは立派な王家の一員なのだ。然るに生まれてくる子達も王家の一員だ。顔も見たことのない者に贈るのではないのだ。アンドレアやオリヴァーの子と同じとはいかないまでも、是非させてほしい」
「陛下、ありがとうございます」
ここで意固地に拒むと陛下に対して逆に失礼にあたると考え素直に受け入れた。
「さて、体調がよくなったとは言えあまり長居させては悪いからな、本題に入ろうか」
先程までの砕けた様子から一変して一国の統率者としての顔つきになり、私もつられて背筋を正した。
「そなたが提案した奨学金制度というものを国として運用していくことが正式に決まった」
「え」
ナタリーのことがあって、提案したことだった。優秀なのに学問を修める機会を得られない人たちに、勉学のために必要な資金を出すことで、有望な人材を確保できそれが国益に繋がる。
そう話したら陛下が興味を持たれた。
「近いうち国中に布礼を出し、希望者を募ることになった」
私の提案が国の施策のひとつになるとは思わなかった。
「しかし、ひとつ問題があってな。そなたなら何か解決策を打ち出してくれるのではと思って呼んだ」
「問題…ですか? 私のような者に解決策が思い付くとは思えませんが」
奨学金制度も愛理の記憶から知っていただけで、すでに先人が考え当たり前のように存在していた制度について、私が他に何か解決できるとは思えない。
「まあ、そう言わずに聞くだけ聞いてほしい。何も思いつかなければそれでもいい。そなたは正式に雇われている役人とは違う。何も思い付かなかったからと言って申し訳なく思う必要もない」
気楽に考えていいと陛下は仰ったが、陛下や並み居る役人の方たちに解決できないものを私ができるとも思えない。
けれど私室での雑談だと思えばいいと再度言われ、聞くだけでも聞いてみようと思った。
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