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番外編 その後の二人
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「なぜでしょう。ただ、クリスティアーヌ様には私がどのように生まれたのか、どう生きてきたのか知ってほしいと思ったのです。保育園のことを聞いて、ますますその思いが強くなりました」
「ラジークさんの事情はわかりましたが…」
「突然やってきてこのような身の上話を聞かされ、さぞ戸惑われていることはわかっております。私もクリスティアーヌ様を困らせたいわけではないのです。ただ、伝えたかった。それだけです」
「お話をお聞きするだけならいつでもお聞きします。私には何もできませんが」
話をただ聞くだけで気が済むなら、私で役に立つならと思った。彼にはそんな風に話をただ聞いてくれる人がいなかったのかも知れない。
「それで、今でも冷遇されたり蔑まれることがあるのですか?」
人の意識はそう簡単には変えられない。
長い歴史の中で差別や迫害は数え切れないほどあった。
ただ、それはいけないことだと言うことができる社会の風潮があるなら、表立って差別する者は少なくなる。
「『黒い魔女』を飲まされても解毒できることがわかってからは殆どなくなりました。黒の魔石も国が採掘を管理するようになり世間で広まることも無くなりました」
「殆ど」ということは、完全にはなくなっていないということだ。
「『黒い魔女』の被害者から生まれた者は総じて何かに秀でている者が多いのです。私の場合は知力ですが、腕力に優れている者もおります。中には平凡なものもおりますが、そうなると、新たな妬みを抱く者が出てきます」
それを聞いて私は自分のお腹を見下ろした。
この子達も同じなのだろうか。
「それでは、わざと『黒い魔女』を使って妊娠させようとする人がでてくるのではないですか?」
優秀な子が欲しいと思うなら、それが、できる方法があるなら、それを悪用しようとする者が出てきてもおかしくない。
「そうなのです」
ラジークさんは我が意を得たりとばかりに頷いた。
「ただ、これまで黒の魔石は自然に出来上がるものだけでしたが、人工的につくろうとする闇組織もあり、カメイラでは問題になっております。バーレーンのように自らの体液を使って精製するのです。お金に困った者が自分の体を売ることもあります。国も摘発に努めておりますが、この前までの戦争や政変がまだ尾を引いておりますので、なかなかそこまで手が回りません」
新たに知った内容は私一人ではとても受け止めきれないものだった。
双子で生まれることだけでも大変なのに、さらに何かしら人より抜きん出た能力がこの子達には秘められている可能性がある。
親としては我が子が優れた才能を持っていることは喜ばしいことかも知れないが、それが怪しい薬の副産物であるということが不気味に思える。
「ニコラス先生たちはそのことを知っているのですか?」
この前の時には何も言っていなかった。
「いえ、これはカメイラの者だけが知ることで、ベイル氏にも、エリンバウア側の責任者である第二皇子殿下にも伝えておりません」
「どうして私に話されたのですか?」
「クリスティアーヌ様は知る権利があると思ったからです」
「私は…この子たちが無事に生まれてくれさえすればそれで…」
「わかっています。しかしお会いしたことはありませんが、噂に聞く侯爵の様子から想像するに、お二人のお子様は平凡なわけがないと思います」
「ルイスレーンはそうでしょうが、私は平凡な人間です」
ルイスレーンの遺伝子を受け継いでいるなら確かに優秀な子どもになるかも知れない。
「クリスティアーヌ様もお美しく聡明で心優しい。その金色の瞳がまた素晴らしい」
久しぶりに王家の血筋を物語る瞳のことを言われた。
傍系ながら先祖返りのように王家の誰よりも鮮やかな金色の瞳は、鏡を見なければ自分ではわからない。
「無事に出産できるかどうかだけでも不安になるのに、今の話を聞いて怖くなりました。夫が側で支えてくれていればまだ救われたでしょうが、今は任務で出掛けています」
ダレクやマリアンナたち、ニコラス先生やスベン先生、それにモアラさんもいる。
陛下をはじめ王室の方々も心を向けてくれているが、それでもルイスレーンに抱きしめられ、あの緑や青、オレンジに変わる瞳で見つめて欲しい。
「代わりには到底なれませんが、何でも私に打ち明け頼ってください」
「ラジークさん」
「私はそのためにカメイラから来たのです」
ラジークさんはモノクルの奥で使命感に燃えた熱い視線で見つめてきた。
どこまでも自分の仕事に誇りを持ち、もう誰も自分のように不幸な目に合わせたくないという思いが彼を突き動かしているのだと、その時私は感じた。
しかしそれは私の勘違いだったと後で知った。
「ラジークさんの事情はわかりましたが…」
「突然やってきてこのような身の上話を聞かされ、さぞ戸惑われていることはわかっております。私もクリスティアーヌ様を困らせたいわけではないのです。ただ、伝えたかった。それだけです」
「お話をお聞きするだけならいつでもお聞きします。私には何もできませんが」
話をただ聞くだけで気が済むなら、私で役に立つならと思った。彼にはそんな風に話をただ聞いてくれる人がいなかったのかも知れない。
「それで、今でも冷遇されたり蔑まれることがあるのですか?」
人の意識はそう簡単には変えられない。
長い歴史の中で差別や迫害は数え切れないほどあった。
ただ、それはいけないことだと言うことができる社会の風潮があるなら、表立って差別する者は少なくなる。
「『黒い魔女』を飲まされても解毒できることがわかってからは殆どなくなりました。黒の魔石も国が採掘を管理するようになり世間で広まることも無くなりました」
「殆ど」ということは、完全にはなくなっていないということだ。
「『黒い魔女』の被害者から生まれた者は総じて何かに秀でている者が多いのです。私の場合は知力ですが、腕力に優れている者もおります。中には平凡なものもおりますが、そうなると、新たな妬みを抱く者が出てきます」
それを聞いて私は自分のお腹を見下ろした。
この子達も同じなのだろうか。
「それでは、わざと『黒い魔女』を使って妊娠させようとする人がでてくるのではないですか?」
優秀な子が欲しいと思うなら、それが、できる方法があるなら、それを悪用しようとする者が出てきてもおかしくない。
「そうなのです」
ラジークさんは我が意を得たりとばかりに頷いた。
「ただ、これまで黒の魔石は自然に出来上がるものだけでしたが、人工的につくろうとする闇組織もあり、カメイラでは問題になっております。バーレーンのように自らの体液を使って精製するのです。お金に困った者が自分の体を売ることもあります。国も摘発に努めておりますが、この前までの戦争や政変がまだ尾を引いておりますので、なかなかそこまで手が回りません」
新たに知った内容は私一人ではとても受け止めきれないものだった。
双子で生まれることだけでも大変なのに、さらに何かしら人より抜きん出た能力がこの子達には秘められている可能性がある。
親としては我が子が優れた才能を持っていることは喜ばしいことかも知れないが、それが怪しい薬の副産物であるということが不気味に思える。
「ニコラス先生たちはそのことを知っているのですか?」
この前の時には何も言っていなかった。
「いえ、これはカメイラの者だけが知ることで、ベイル氏にも、エリンバウア側の責任者である第二皇子殿下にも伝えておりません」
「どうして私に話されたのですか?」
「クリスティアーヌ様は知る権利があると思ったからです」
「私は…この子たちが無事に生まれてくれさえすればそれで…」
「わかっています。しかしお会いしたことはありませんが、噂に聞く侯爵の様子から想像するに、お二人のお子様は平凡なわけがないと思います」
「ルイスレーンはそうでしょうが、私は平凡な人間です」
ルイスレーンの遺伝子を受け継いでいるなら確かに優秀な子どもになるかも知れない。
「クリスティアーヌ様もお美しく聡明で心優しい。その金色の瞳がまた素晴らしい」
久しぶりに王家の血筋を物語る瞳のことを言われた。
傍系ながら先祖返りのように王家の誰よりも鮮やかな金色の瞳は、鏡を見なければ自分ではわからない。
「無事に出産できるかどうかだけでも不安になるのに、今の話を聞いて怖くなりました。夫が側で支えてくれていればまだ救われたでしょうが、今は任務で出掛けています」
ダレクやマリアンナたち、ニコラス先生やスベン先生、それにモアラさんもいる。
陛下をはじめ王室の方々も心を向けてくれているが、それでもルイスレーンに抱きしめられ、あの緑や青、オレンジに変わる瞳で見つめて欲しい。
「代わりには到底なれませんが、何でも私に打ち明け頼ってください」
「ラジークさん」
「私はそのためにカメイラから来たのです」
ラジークさんはモノクルの奥で使命感に燃えた熱い視線で見つめてきた。
どこまでも自分の仕事に誇りを持ち、もう誰も自分のように不幸な目に合わせたくないという思いが彼を突き動かしているのだと、その時私は感じた。
しかしそれは私の勘違いだったと後で知った。
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