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番外編 その後の二人
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アンドレア殿下から届けられた手紙。
殿下はルイスレーンと共にいる。
「すまぬが、すぐに中を読まなければならない」
「どうぞ。私はこれで失礼いたします」
「馬車まで見送らせよう」
「いえ、場所はわかりますので一人で大丈夫です」
誰か案内をと陛下が仰ったが、にわかに騒がしくなったのを見て丁重に辞退した。
アンドレア殿下からの手紙なら、現地での状況についての報告だろう。
気にはなったが国政に関することなら官職に就いていない私には立ち会う資格はない。
それにアンドレア殿下からの手紙が届いたなら、ルイスレーンからの手紙ももしかしたら届いているかも知れない。
そう思うと気持ちもはやり、玄関に向かって廊下を行く足運びも自然と早くなった。
「クリスティアーヌ」
不意に声をかけられ立ち止まって振り向くと、私が来た方角と垂直に交わる廊下の先にオリヴァー殿下がいた。
「殿下。ご機嫌麗しゅう…」
「ああ、堅苦し挨拶はいい。身重なのだし」
慌てて膝を折ろうとして止められた。
「父上の所に来ていたのか」
「はい。ちょうどお暇をして今から帰る所です」
殿下は一人ではなく、何人かの男性が後ろにいた。
その中にラジークさんもいた。他の方たちは彼と同じ色の服装をしているので、彼らは全員カメイラから来た人たちだろう。
「ああ、彼らはカメイラから来た研究者たちだ。『黒の魔石』の研究については聞いているだろう」
「はい」
ラジークさんのは面識があり、私の事情は彼も知っているが、他の人たちは私のことを知っているのかわからない。
私と子どもたちのことについては秘密にするのが研究に協力する条件だったからだ。
「父上が君を呼んだと言うことは例の奨学金制度のことか?」
「はい。それについて意見を求められまして」
「兄上の遣いが先程来たと聞いた」
「ちょうど御暇する時にそのようなことを伺いました」
「では、ルイスレーンからも何やら届いているかも知れないな」
オリヴァー殿下が私をからかっているのがわかった。
愛理としての記憶が蘇り、フォルトナー先生に一から文字を教えてもらった時に練習だと騙されて書いた手紙を戦地のルイスレーン宛に送られたことを思い出した。
それまでただの一度もクリスティアーヌが彼に送ったことがなかったので、物珍しがられたのは聞いた。
「殿下…お戯れを…からかわないでください」
「事実を言ったまでだ。身重の新妻を溺愛しているなら当然だろう。ルイスレーンがよもやそうなるとは思っていなかったが、悪いことではない。部下に厳しいのは相変わらずだが、表情が豊かになって親しみやすくなったと余計に慕われている」
アンドレア殿下はそれほどではなかったが、オリヴァー殿下が腹心のルイスレーンを無下にしていたと私にいい感情を持っていなかったことは知っていた。
イヴァンジェリン様たちが私を茶会に呼んだのも、私の人となりを探るためだったことも。
私の中にクリスティアーヌとしての記憶と愛理としての記憶が混在していることは陛下には話したが、他言は無用と陛下から口止めされているため他の方たちはご存知ではない。
「私にとっても自慢の夫で、尊敬しております」
「王宮の真ん中で惚気を聞かされるとは…あまり引き止めては君の体にも障る。また今度ゆっくり話そう」
「ありがとうございます」
元気で、そう仰って殿下はラジークさんたちと共に王宮の奥へと向かわれた。
去り際にラジークさんが私に軽く会釈して、他の方たちは私の顔を…特に目に視線を向けたのがわかった。
エリンバウア王家の血筋であることを証明する金の瞳。
王位継承権は低いが母方の先祖に王家の方がいたので、私の場合は先祖返りとでもいうのか、今ご存命の王室の方々の誰よりもその特徴が出ている。
オリヴァー殿下はあえて私のことを彼らには紹介しなかったが、私がどのような立場の者かは彼らにも察しがついていただろう。
オリヴァー殿下たち一行の後ろ姿が遠のくを待ってから、私は王宮の玄関に向かって再び歩き出した。
そんな私の背中をラジークさんが振り返りじっと見ていたことには気が付かなかった。
殿下はルイスレーンと共にいる。
「すまぬが、すぐに中を読まなければならない」
「どうぞ。私はこれで失礼いたします」
「馬車まで見送らせよう」
「いえ、場所はわかりますので一人で大丈夫です」
誰か案内をと陛下が仰ったが、にわかに騒がしくなったのを見て丁重に辞退した。
アンドレア殿下からの手紙なら、現地での状況についての報告だろう。
気にはなったが国政に関することなら官職に就いていない私には立ち会う資格はない。
それにアンドレア殿下からの手紙が届いたなら、ルイスレーンからの手紙ももしかしたら届いているかも知れない。
そう思うと気持ちもはやり、玄関に向かって廊下を行く足運びも自然と早くなった。
「クリスティアーヌ」
不意に声をかけられ立ち止まって振り向くと、私が来た方角と垂直に交わる廊下の先にオリヴァー殿下がいた。
「殿下。ご機嫌麗しゅう…」
「ああ、堅苦し挨拶はいい。身重なのだし」
慌てて膝を折ろうとして止められた。
「父上の所に来ていたのか」
「はい。ちょうどお暇をして今から帰る所です」
殿下は一人ではなく、何人かの男性が後ろにいた。
その中にラジークさんもいた。他の方たちは彼と同じ色の服装をしているので、彼らは全員カメイラから来た人たちだろう。
「ああ、彼らはカメイラから来た研究者たちだ。『黒の魔石』の研究については聞いているだろう」
「はい」
ラジークさんのは面識があり、私の事情は彼も知っているが、他の人たちは私のことを知っているのかわからない。
私と子どもたちのことについては秘密にするのが研究に協力する条件だったからだ。
「父上が君を呼んだと言うことは例の奨学金制度のことか?」
「はい。それについて意見を求められまして」
「兄上の遣いが先程来たと聞いた」
「ちょうど御暇する時にそのようなことを伺いました」
「では、ルイスレーンからも何やら届いているかも知れないな」
オリヴァー殿下が私をからかっているのがわかった。
愛理としての記憶が蘇り、フォルトナー先生に一から文字を教えてもらった時に練習だと騙されて書いた手紙を戦地のルイスレーン宛に送られたことを思い出した。
それまでただの一度もクリスティアーヌが彼に送ったことがなかったので、物珍しがられたのは聞いた。
「殿下…お戯れを…からかわないでください」
「事実を言ったまでだ。身重の新妻を溺愛しているなら当然だろう。ルイスレーンがよもやそうなるとは思っていなかったが、悪いことではない。部下に厳しいのは相変わらずだが、表情が豊かになって親しみやすくなったと余計に慕われている」
アンドレア殿下はそれほどではなかったが、オリヴァー殿下が腹心のルイスレーンを無下にしていたと私にいい感情を持っていなかったことは知っていた。
イヴァンジェリン様たちが私を茶会に呼んだのも、私の人となりを探るためだったことも。
私の中にクリスティアーヌとしての記憶と愛理としての記憶が混在していることは陛下には話したが、他言は無用と陛下から口止めされているため他の方たちはご存知ではない。
「私にとっても自慢の夫で、尊敬しております」
「王宮の真ん中で惚気を聞かされるとは…あまり引き止めては君の体にも障る。また今度ゆっくり話そう」
「ありがとうございます」
元気で、そう仰って殿下はラジークさんたちと共に王宮の奥へと向かわれた。
去り際にラジークさんが私に軽く会釈して、他の方たちは私の顔を…特に目に視線を向けたのがわかった。
エリンバウア王家の血筋であることを証明する金の瞳。
王位継承権は低いが母方の先祖に王家の方がいたので、私の場合は先祖返りとでもいうのか、今ご存命の王室の方々の誰よりもその特徴が出ている。
オリヴァー殿下はあえて私のことを彼らには紹介しなかったが、私がどのような立場の者かは彼らにも察しがついていただろう。
オリヴァー殿下たち一行の後ろ姿が遠のくを待ってから、私は王宮の玄関に向かって再び歩き出した。
そんな私の背中をラジークさんが振り返りじっと見ていたことには気が付かなかった。
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